4.順調


【語り部】


「“風属性はどうでしょう、リオールさんが上級まで使えて、他の属性との組み合わせもしやすそうですし”。あとは、いっしょに治癒魔法を覚えるべき、だね」


 オウマはナイアの耳元で、遠いどこかの言葉を伝える。

 まだまだ判断基準が確立されていない少女は素直にそれを受け入れた。


「うん、分かった。……リオール、さん。ボクは、風魔法と治癒魔法を覚えたい、です」

「おっけ。じゃあ、それでいこう」


 頷くリオールに、オウマが「“風属性を学ぶでいいと思う、やればできる子なら上級まで上げた方が良い”」と補足した。


「あいよ。ま、俺も一番得意なのは風だしな。よし、ナイア! こっからは厳しくいくぞ!」

「はい、よろしく、お願いします。……お師匠?」

「お、おお……。お師匠、いい響きだ……」


 コミュニケーション技能を磨いたおかげで、いい感じにリオールを乗せることができた。

 お師匠という響きに照れつつも喜ぶ。

 こうして魔法習得のための訓練が開始された。



 ※ ※ ※


 ナイアの毎日はにわかに忙しくなる。

 ジターブの店で仕事をして、お金を稼ぐ。もっともまだ13歳、色々と常識に疎い少女だけに、よくミランダがフォローに回る。

 

「いいかい? 野菜を並べる時はバランスよく。一個をとったら他が崩れるような置き方はダメだよ」

「はい、分かりました」


 ナイアは知識がないだけで、吸収力は高い。

 ミランダの教えをよく聞き、一般の常識を少しずつ覚えていく。

 ジターブの店で働く日にはミランダが昼食を振る舞った。

 ……ナイアにとっては、初めて食べる誰かの手料理だった。

 

「おい、しい? すごく、おいしい、です。こんなの、初めて食べ、ました」


 ただの野菜スープとパンの組み合わせだ。

 今まで生の野菜や果物が主な食糧だったナイアにとっては天地がひっくりかえるくらいの衝撃を受けた。

 温かく、しっかりとした味がある。あまりの美味しさに少女は勢いよくがっついてしまう。


「おおげさだねぇ、この子は」


 そこまで喜んでくれることにミランダも悪い気はしていないようだ。

 それはそれとして、少し注意も行う。


「こーら、犬食いはダメ。お皿顔は離して、姿勢よく。口で迎えにいくんじゃなくて、手を顔の方まで持ってくるの」

「う……は、はい」


 ミランダの中では「孤児だから物を知らない」ことになっている。

 そのため基本的な食事マナーを教えてくれた。おかげでナイアの作法も、一般的なレベルでは気にならない程度には整ったようだ。

(※生活技能・食事マナーLv1を習得。今後は市民レベルなら誰と食事をしても恥をかきません)



 仕事がない日には、リオールの下で魔法を学ぶ。

 こちらの方が適正は高いようで訓練はスムーズだ。


「いや、うそん……」


 初期の魔力操作は一発で習得。

 魔力の流れを容易く掴み、それを外に放出する感覚を一瞬で理解する。

 自分はもっと時間がかかったのに。能力の差を見せつけられたリオールに、オウマはにゃふにゃふと笑った。


「ナイアは魔導生命体だからね。そりゃあ魔力に対する先天的適正は高いさ」

「……俺、そういう言い方嫌いだ。魔導生命体だから、じゃないだろ。あの子が挑戦して、うまくできるように頑張ったんだ。どんなに能力があったって、やらなきゃできない。なら褒められるべきは出自じゃなくて実際にやったあの子だろ」


 彼は実験で生命を生み出して放り出すようなテネスに師事しているが、割合まっとうな青年だ。

 そう造られた存在だからできる。その考え方がお気に召さないらしく、憮然とした表情で反発した。


「お師匠? これで、いいんです、よね?」

「うん、ナイア。イイ感じだぞー。ほれ、いい子いい子」

「う……あの、これは?」


 リオールは、ナイアの頭を乱雑に撫でる。

 初めての経験にかなり困惑しているようだ。 


「頑張った子は褒めるものなの」

「そう、なの?」

「そうなの! 何でもできるからって調子に乗るより、マジメに頑張ることを誇れる子の方が偉いと俺は思うぞ」

「そう、なんだ……」


 今一つ理解は及んでいないようだが、それなりに喜んでいるらしい。

 他人と接することナイアの感情は少しずつ育まれているようだ。


「じゃあ、どんどん行くぞ。風属性の基本、治癒魔法。まだいける?」

「はい。マジメに、頑張ります」


 ナイアは風魔法の基礎と初級治癒魔法の習得に取り組んだ。

 それを監督するリオールに、オウマが問う。


「リオール。“通常より多い魔力を用いることで、魔法の威力を底上げする技術を得る”……そう提案している人がいるんだが、ナイアにできると思うかい?」

「うん? あー、お師匠の使い魔であるオウマに言うのは騎士に剣の手ほどきをするみたいだが、できるかできないかで言ったら、できる」


 しかし思い切り顔をしかめられた。


「ただなぁ、それってつまり“自然体で動けるよう練習してるのに、余計な力みをいれる”ってことだからなぁ。やれるやれないの話なら、やりたくない」


 正統派の魔法使いであるリオールは、下手に初級魔法の威力を高めるより、順当に中級に進んだほうがいいと考えているようだ。



《追加情報》

・ナイアは初級風魔法と初級治癒魔法を習得しました。

・リオールは正道の魔法使いです。基本から外れた技術を学ぶには、独学か別の師を見つける必要がありそうです。




※ ※ ※




 ジターブの店で働き始めて十日ほど。

 ナイアの髪型が変更された。マニッシュショートボブ、と呼ばれるものだ。

 もともとは乱雑に伸びていただけの髪を、店主のジターブを見習い短く切った。ちなみにカットはオウマが担当した。

 肉球でハサミを操り四苦八苦。かなり時間がかかったので、今後はちゃんと理容店に行ってください。語り部さん的には関係ないけど、切なるお願いです。


「おー、随分バッサリいったねぇ。でも、カワイイじゃないか」


 マニッシュは、「男性的」という意味を持つ言葉だ。

男性的でクールな印象でありながらも、女性的な柔らかさも持ち合わせたヘアスタイルを「マニッシュショート」と呼ぶ。

 元々優れた容姿をしているだけに、短い髪形でも男勝りではなく「ミステリアス系の女の子」という印象がある。

 食生活が改善され、身綺麗にすることを覚え、髪型を整えたため、ナイアの外見はみすぼらしい孤児ではなくなっていた。

(スキル・魅力Lv1獲得。)


「う、うん。似合って、るぞ」

「そう、かな? ありがとう」


 ミランダの息子、ラーレは変化に戸惑いながらも褒める。

 同じ場所で働くことで、なんだかんだナイアにとっては親しい同年代になっていた。

 そうして仕事終わり。店主のジターブから小さな袋を渡された。


「ほいよ、嬢ちゃん。十日間ご苦労さん。そう多くはないが賃金だ」


 少女の生活をかんがみて、短いスパンで支払う形にしたようだ。

 これは、完全にナイアのお小遣いとして使える。


「賃金……」

「嬢ちゃんが頑張った結果だ。遠慮なく受け取りな」

「ボクが……」


 初めて得た労働の対価だ。

 テネスから与えられる生活とは違う感慨があるようだ。ナイアはもらった袋を、おっかなびっくり懐にしまった。

 



※ ※ ※



 

 ナイアには如実な変化がある。

 特に働く経験が大きく影響したようだ。何をするでもなく、賃金の入った袋を見つめていることもあった。

 にゃふり、とオウマは遠くを見る。


「“街中の散策させて欲しいかな。ナイアに街への愛着持たせないと”。……うん、一理あるね」


 初級風魔法と初級治癒魔法、手段の獲得は順調。

 しかし少女はまだ、倫理や人道といった「正しき規範」という考え方が薄い。この状況で一歩を進めるには、まず大事な物を守るという感覚を養った方がいいのかもしれない。


「ナイア、よかったね。働いた成果が出て」

「……うん。これ、ボクが得たもの。与えられた、ものじゃない」

「そうだね。よし、じゃあ明日にでも街を散策してみよう。なにか、好きな物を買ったり、今後なにをしたいかの指針になるかもしれないしね」

「ん」

 

 ナイアはこくりと頷いた。



《追加情報》

・ナイアが街を散策しました。

 近辺にある施設が開示されます。

 





・予知の事件が起こる前に一か所だけ寄ることができます。

 もし行きたい場所があれば選択どうぞ。


 現状ナイアが出入りできる施設。

 ルールとして、アルバイトは掛け持ち不可。

 一度所属が決定した場合は変更不可。

(例・ダンジョンシーカーになった後は聖女を目指せない。管理機構側で働くとシーカーになれない)

 



【迷宮管理機構】

 いわゆる冒険者ギルド。

 都市の地下に広がるダンジョンを探索する「迷宮探索者ダンジョン・シーカー」になるためには、ここで登録する必要がある。

 組織自体はトランジリオド政府の直轄となるため、運営は官僚・役人によって行われる。

 龍神教の騎士が常駐している。 


 ・来訪することでダンジョンシーカーになれます。

 ・ダンジョンシーカーの知人がつくれます。

 ・逆に体制側を手伝い、官僚や騎士と知人になれます。

 ・体制側に近付くほど、シーカー側とは立ち位置が離れます。

 ・現在は「騎士ゼノス」「男性官僚とその娘」「邪道の男魔法使い」「受付嬢」「女剣士」と知り合いになれます。


【地下迷宮】

 都市国家の目玉。

 地下の最奥には悪魔が眠っているとの話。


・ダンジョンシーカーとして登録することで探索可能。

・破滅の未来で少女はここの探索をしていました。

・情報を集めないまま進行させると確定でバッドエンド。

・表層でお金稼ぎだけに従事すると富豪エンド。


【龍神教会】 

 聖王国で崇められる龍神教の協会。

 本山は聖王国。

 司祭が常駐しており、ダンジョンの歴史について教えてくれる。


・聖女(中級以上の治癒魔法の使い手)がいます。

 話の持っていき方次第では治癒の腕が高まります。

・一般との縁は薄くなりますが修道女→聖女になれます。

・美しき敬虔な聖女エンドを迎えられます。

・司祭の話を聞かずダンジョン深層まで行くと確定バッドエンド。


【ルアノの学問所】

 若い女教師が開く学問所。

 ラーレも通っている。


・同年代の知人を作れます。

・ラーレと仲良くなることで、第二の肝っ玉母さんエンドを迎えられます。

・他の男子と仲良くなることでラーレの脳を壊せます。

・同年代の女の子とも仲良くなって、あらゆる能力を捨て普通の女の子に戻りますエンドが迎えられます。


【服飾店ルッカトミ】

 普段着からちょっと豪華な衣装まで取りそろえた服屋。

 オシャレに目覚めたらここに。


 ・魅力Lvをあげられます。

 ・女店員と知人になれます。

 ・アルバイトできます。

 

【食事処ガーバンの飯屋】。

 大衆向けの安くて美味しいお店。

 ボリュームもあるので迷宮探索者にも人気がある。


・店員と知人になれます。

・アルバイトができます。

・厨房での仕事を望んだ場合、料理スキルが上がります。


【リオールの自宅】

 そのまんま。


 ・ゴロゴロできます。

 ・ひたすらゴロゴロできます。

 ・お師匠養ってください働きたくないですエンドを迎えられます。


【魔導工房ゾネ・モーント】

 マジックアイテムを販売している。

 謎の仮面店主が工房主。


・マジックアイテムの購入が可能です。


【娼館ヴィ・ト・ラーズ】

 高級娼館。

 アルバイトはできるが、カクヨム的・年齢的に作中でそういうことはできない。


・下働きができます。

・作中の男性キャラが時々訪れます。

・メスガキになれます。

・長居すると保有スキル・魅力が悪女の誘惑に変更。

 男性との接し方が変わります。

・時間が飛び、稀代の娼婦エンドを迎えられます。


【酒場・どらごんの巣】

 黒髪の男性が経営する酒場。

 お酒は飲めないが、情報集めや知人を作れる。


・タチの悪い知人がつくれる。

・裏技的場所。マスターと仲良くなると、本来知り得ない情報を得られる。

・司祭から情報を聞かずダンジョンを攻略することが可能になる。


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