第2話 ⌘【月を探しに】⌘

 もうずっと、月の姿が見えません。


 イヲの国の王子は、王様の命を受け、そして自分達の結婚のためにも、月を探す旅に出ることになりました。


 1月、王子は山の中を探していると一匹のオオカミに出会います。

「やあ、オオカミさん。月が何処にあるか知りませんか?」

 イヲの王族は、動物や他の生き物とも話せます。


『グルルル…。俺みたいなオオカミに聞くのか?』

「ええ、オオカミさんは月に向かって遠吠えをしますよね?月の姿を毎日見ていたのではないかと思ったので。」

『確かにな。月が無いと何かと都合悪いよ。でも月が今何処にあるかは俺は知らない。

 ただ最後に月を見た時、月からウサギが飛び出て来たんだ。俺は獲物だと思って追いかけようとしたけど、エン国の方へ行ったもんだから追いかけられなかった。

 俺が知ってるのはそれだけだ。』


 王子はお礼を言って、次の場所へ向かいます。


 2月、辺りは一面銀世界。

 どこもかしこも雪だらけです。

 月を探そうとするけれど、全てがキラキラと輝いていて、月の光を探し出せません。


 3月、土の中から出てきたミミズに尋ねます。

「ミミズさん、土の中で月の姿を見かけませんでしたか?」

『ああ、王子様。私のようなミミズにもお尋ねになるとは、よっぽどお困りのようですね。

 でもすみません、私達がいる土の中は真っ暗で、とても月がいるようには思えません。

 お力になれず、すみません。』

「いえ、こちらこそ。

 ふくよかな大地が作られるのはミミズさんのおかげです。これからの季節、またよろしくお願いします。」

 王子はまた次の場所へ向かいます。


 4月、桜の季節。

 王子は桜守のお爺さんに声をかけます。

「この辺りで月を見かけていませんか?」

『ああ王子様、生憎お月様が姿を隠してから、一度も姿を見ていませんよ。

 毎年、月明かりに照らされる夜桜を愛でるのが楽しみなのですが、残念ながら今年はできないようです。』

「本当に残念です。でも、明るい太陽の光を浴びてる桜は、桜守さんのお陰で今年も見事で綺麗です。」

 王子はまた次へ向かいます。


5月、まるで絨毯のように花が咲き乱れてる場所へ来ました。

 花の蜜を集めているミツバチがいます。

「お忙しいところすみませんミツバチさん。飛んでる空で月を見かけていませんか?」

 ブーン…『いえ、この辺りでは見てないですよ。まあ、ボク達は蜜を集めなきゃいけないので、花と巣しか見てないですけどね。』ブーン…

 ミツバチはそれだけ言うと忙しそうにまた飛んで行ってしまいました。

 王子はまた次へ向かいます。


 6月、いちご畑に着きました。

 いちごを作っている農家さんに話かけます。

「すごく赤くて美味しそうないちごですね。

 この辺りで月を見かけませんでしたか?」


『いえ、まだ見つからないんですね。近頃夜が暗いので、随分犯罪が増えてきたようです。物騒な世の中になってきました。この丹精込めて作ってるいちごも、この前一部盗まれてしまいました。早く普通の世界に戻ってほしいです。』

「なんと酷い!

 こんなに探し回っているのですが、全く手掛かりもなく…すみません。」


 王子はいちごを一箱買い、いちご畑を後にします。

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