月を隠したのは
ニ光 美徳
第1話 ⌘【月はどこへ?】⌘
イヲの国の王子とエンの国の姫が、もうすぐ結婚式を迎えるという頃、空から月の姿が消えましたー
*
2人は小さい頃からの許嫁です。
イヲの国とエンの国にの間には、穏やかだけど大きな川が流れています。今でこそ橋が掛かっていますが、昔はその川を舟で渡らないと行き来することが出来ませんでした。
2つの国は川を隔てていても、昔から仲が良く、友好国としてお互いに行き来し、国を超えた結婚も多くされてきました。
そんな川を隔てた国には、国を超えた結婚をする場合の特別な習わしがあります。
『イヲの国とエンの国の者が婚姻する前の晩、月明かりに照らされた舟に乗って川を渡ろう。月の女神アルテミスの恩恵を受け、花嫁は幸せになるだろうー』
この言い伝えにより、花嫁となる女性は結婚式の前の晩、月が輝く川面を、船頭さんが漕ぐ舟でゆっくりと渡って行くのです。
橋が掛かっている今においても、この習わしが続いています。
もちろん予報では雨の日もある為、前日ではないこともあります。
でも不思議なことに、花嫁が渡ると決めた日の夜は、いつも穏やかに晴れるのです。
イヲの国の王子とエンの国の姫の結婚も、もちろん満月の夜に川を渡ることになっています。
*
2人の結婚準備が始まり、周りが慌ただしくなってきた頃から、夜中の空がいつも暗いことに気が付きました。
最初は、見えない雲に遮られてるのか?と思っていたけど、いつまで経っても現れない月に皆が不安になってきます。
「誰かが月を隠したんだ!」
そんな噂が両国中に広がってきました。
月が無いと、結婚式はできません。
それよりも、夜道も暗く、国民の生活にも支障をきたします。
「アルテミス様がお怒りで、姿を消されてるのかもしれない。」
「王子様とお姫様の結婚に反対されているのだ。」
とうとうそんな噂まで流れ、国中が不穏な空気に包まれていきます。
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