私の愛している人
「今日はね、……優人?」
病室の中は誰もいなかった。貴方の荷物も綺麗になくなっていた。慌てて病室を飛び出し、「あの!ここの病室に入院していた平海優人さんはどこですか?」と通りかかった看護師に尋ねる。看護師は私の勢いに戸惑いながらも「平海さんなら、今日の朝に退院しましたよ」と答えてくれた。何も知らなかった、何も聞かされていなかった。貴方は何も言わずに退院してしまった。昨日まで貴方が入っていた病室の前。涙を流すわけでもなく、ただ立ち尽くす私。すると、先程とは別の看護師が話しかけてきた。
「あの〜、もしかして貴方は結美さんですか?」
小さな声で「はい」と答えると、看護師は「ちょっと待っててください」と言ってどこかに行ってしまう。五分も経たたぬうちに戻ってきた看護師は「これ、貴方に渡して欲しいと言われまして」と私に手紙を渡す。手紙は貴方から私に宛てたものだった。「宜しければ、そちらの病室で読んでいただいても構いませんので」と気遣ってくれた看護師に甘えて、貴方のいた病室に入り、ベッドに腰かけ、手紙を読み始めた。
“ 結美へ
今まで嘘をついてごめん。
もしかしたら、最初から結美はバレていたかもしれないね。
それでも嘘をつくことしかできなかった僕を許してくれとは言わない。
毎日、僕の元に来て、二人の思い出を楽しそうに話す結美を見て、もう嘘をつくのが限界で逃げた。結美には何も言わずに。結美のことだから、事故が起こったのは自分のせいだと責めているかもしれない。でも、それは結美のせいじゃないよ。僕が結美を守りたくて行動した結果の事故、だから、自分のことを責めないで欲しい。結美は決して不幸でもないし、死神でもない。
僕が愛した世界一大切な人です。
そして僕は事故にあったことを利用して、結美を傷つけた最低な人です。
これが最後、結美に言います。
僕は結美が嫌いになりました。だから、もう結美のそばにいることはできません。こんな最低な僕のことなんか忘れて、幸せになってください。幸せにならないと僕はもっと結美が嫌いになります。それと僕を探そうなんて馬鹿なことをしないでください。そんな無意味なことしても時間が過ぎるだけです。結美が幸せになるために時間を使ってください。
最後の最後まで結美を傷つける僕を嫌いになってください。”
ボールペンで書かれた手紙は、所々
「優人のバカ……」
私は泣いた、貴方のいない病室で、貴方を想いながら……。
あれから ずっと貴方を探し続けた。家も病院も私の知っている所すべて……、どんなに探しても貴方は見つからなかった。そんな時に知った。貴方が私に嘘をついた本当の理由を。貴方は私を抱きしめたあの日からずっと嘘をついていた、私を悲しませない為に……。きっと、貴方の口から聞いていたら、辛くなって塞ぎ込んでいたかもしれない。いなくなった後も、私は貴方に救われた。貴方の優しい嘘に……。
ねぇ、覚えてる?
あの日、貴方がくれた言葉で救われたんだよ?
ねぇ、届いてる?
また、私は貴方に救われたんだよ。
私はもう昔の自分じゃない。
貴方がくれた愛を心に刻んで、私は死ぬその時まで生きる。
ねぇ、聞いて?
もし、次会う時は嘘は無しだからね。
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