紡いだ二人の時間

1. 不幸な人生

 私の人生は不幸なことばかりだった。いや、違う。自分も周りの人も不幸にさせる、私が死神のような存在なんだ。

 

 小学生の頃、私と遊ぶ友達はみんな怪我をした。最初は「小学生なんだから遊べば怪我くらいはするだろう」と周りの大人は言った。でも、それが一回や二回だけでは済まず……私と遊ぶ度に誰かが怪我をする。次第に、友達からは避けられ、先生からも距離を置かれるようになった。そして、小学校を卒業するまでに「死神」というあだ名がついた。中学生になっても、「死神」というあだ名は消えず。無視されるだけではおさまらず、机には落書き、靴箱には大量のゴミといった酷いイジメを受ける日々。先生に相談することもできず、私は学校へ行かなくなった。不登校の私を、両親は責めもせず寄り添ってくれる。それだけでなく、教員免許を持っていた母は勉強を教えてくれた。中学校へ通ったのはたったの半年。高校では楽しい三年間を送りたい。だから、知り合いがひとりもいない地元から少し離れた高校を選んだ。高校では新しい友達もできて、やっと不幸なことから解放されたのだと思っていた。でも……。

 高校二年生の夏休み、両親と海に行った帰り道。車内には夏らしい音楽が流れる。「今日は楽しかったね。来年も家族で行こうね」と可愛らしい表情を浮かべる母に、私も深く頷く。運転している父も「そうだな」と微笑んだ。そんな時だった。目の前から大型トラックが私達の車に向かって走ってくる。「危ない……!」と父が叫んだのと同時に、私は意識を失った。目が覚めた時には病院のベッドの上。翌日、警察官から両親が亡くなったことを聞かされた。やはり、私は死神なんだと思い知らされる。泣くこともできず、笑うこともできず、空いた穴の塞ぎ方も知らず。ただ早く両親の元へ行きたかった。高校三年間は退学せず、通い続けた。中学生の頃、「高校は楽しいところだよ!」と学生時代の思い出を楽しそうに話していた母を裏切りたくなかったから。高校卒業後はなるべく人の少ない田舎で、なるべく人と関わらないようにひっそりと暮らし始める。

 田舎の小さな工場で働き始めて約二年。心の穴を埋めるように、ただただ必死に働き続けた結果、私は過労で倒れた。目が覚めた時、あの日と同じ匂いと天井に胸が苦しくなる。私は病院のベッドの上で腕に点滴をつけて横になっていた。いっその事なら、このまま両親の元へ行けたらよかったのに。そう思うと、涙が溢れて止まらない。気がつけば、ベッドに大きな染みができていた。声を殺して泣き続ける私に、ひとりの医者が「大丈夫?どこか痛いですか?」と声をかけてくる。その医者が貴方で、それが私達の出会いだった。

 

 私の住んでいた田舎には小さな診療所がひとつ。過労で倒れた時、診療所では何もできないため、街にある少し大きな病院へ運ばれた。点滴が終わると、ふらついた足元で病院の屋上へ向かう。屋上の扉を開けると、私以外に患者が二人いるだけ。外の空気に触れて、曇っていた気分が少しだけ明るくなった。フェンスの側まで行き、外の景色を眺める。すると、どこからか子供の笑い声が聞こえてきた。声のする方へ目を向けた、その先では遊ぶ子供とその姿を笑顔で眺める親の姿がある。微笑ましいはずなのに、涙が零れ落ちた。

 (もう私にはいない。大好きだと抱きしめてくれる母も父も誰も……)

 これまでだって、何度も願った……どうか、両親に会わせてくれと。一人でも頑張って生きるから、人目でも両親に会わせてほしいと神様に。ぶつけようもない悲しみを抑えるために、フェンスを強く握りしめた。その時、「大丈夫ですか?」と男性の優しい声が聞こえてくる。振り返ると、優しい顔をした貴方がいた。誰も話すことはないと思っていたし、誰にも関わりたくもないと思っていた。でも……差し伸べられた手を掴んだ瞬間、なぜか貴方には話せる、そう思えた。

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