優しい嘘 ~あなたが誓った嘘の約束~

白紙

プロローグ

 ねぇ、覚えてる?

 あの日、貴方がくれた言葉で私は救われたんだよ。

 ねぇ、覚えてる?

 ぜんぶ、全部、貴方が私を生かしたのに……。

 ねぇ……、どうして嘘をつくの?


 青信号の横断歩道を渡っていた私に迫りくるトラック。逃げようとしても身体が動かず、眩しく光るトラックのライトに目を閉じた。その瞬間、腕を強く引っ張られ、路肩に倒れ込む。私の代わりにトラックの犠牲になったのは貴方だった。到着した救急車に搬送され、病院に着くと直ぐに手術室へ運ばれていく。かすり傷を負った私も軽く治療を受け、後は貴方の手術が無事に終わるよう祈っていた。どれほどの時間が経ったのかは覚えていない。手術室から出てきた医師は「命に別状はありません。ただ、回復するまでには時間がかかると思います」と私に告げた。死なずに生きている、それだけで十分だった。もう二度と、誰も失いたくない……。

 医師の言っていた通り、貴方は一週間ほど目を覚まさず眠り続けた。丁度、仕事が終わった頃。貴方が目を覚ましたと連絡が来て、急いで病院へ向かう。病室の前に着くと、中で看護師と話す貴方の声が聞こえてきた。声を聞いただけで思わず涙が零れる。貴方と会うときはどんな時でも笑顔でいたい。深呼吸をして心を落ち着かせ、扉を開く。きっと貴方も私に会いたがっているはず、そう信じて「優人まさと!」と笑顔で貴方の名前を呼んだ。でも……貴方は私を見て「……どちら様ですか?」と言った。

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