短絡

 家に帰るとなんだか腐敗臭がした。気分が悪くなってトイレで軽く吐くと、優くんが

「よわいくせに呑みすぎるからだよ。」

と私のほっぺをつねった。私はここ最近一度も酒を呑んではいない。だけど優くんがそう言ったのだから、と私は口をつぐんだ。ベットに座って煙草を吸う優くんの背中を追いかけ、私も横に座った。私は疲れが溜まっていたのかすぐ眠りについてしまった。

 雷の音が耳を割く。重く生ぬるい空気が漂う社内で私は目を覚ました。優くんから"今忙しい"というLINEがきている。でも私は即座にこれは夢なのだと気づいた。所謂、明晰夢である。私は歩いてマンションまで帰った。雨でびっしょりと濡れた服は異常に重く、やはり悪夢なのだと確信した。玄関には靴が二足置いてあった。私の予想ではサツキちゃんだ。でももう誰でも良かった。そこにいるのは本物の優くんじゃない。夢に出てくる優くんは優しくないから要らない。私はキッチンに行き包丁を握った。ギシギシ音を立てるベットに私の右手は容赦なく包丁を振りかざした。飛散る血はひどく鮮やかな赤をしていて、やっぱりこれは夢なのだと思った。     

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