卯の花くたし

 途切れ途切れ、遠くで雑音が聴こえ、夏特有の重さを纏った空気が私にのしかかる。途切れる音の正体が雨だと気づくのには少しの時間を要した。昨日夜ふかしをしすぎただろうか。季節外れの台風により雲は暗く、私の知る朝ではなかった。

ーAM5:00

しかし今日も仕事だ。悪夢でもみたのだろうか、目の淵が濡れている。枕元のティッシュを乱雑に取り出した。

 駅員さんは思ったより冷たかった。"現在台風接近の為運転を見合わせております"という放送の中、おじさんが叫喚している。

「復旧の目処なんかたってるハズねぇだろ。南口!コッチ!」

私も南口に促されてしまった。あずま駅の南口にはマンションやホテルが点在している。仕方がないから駅を出たすぐのところでタクシーをつかまえた。まだ行き先を伝えていないのに走り出すものだから驚いて声が出ない。むかし吃音症だった名残なのかまだたまに声が出づらい時がある。窓からはホテル街で傘も持たずいそいそとピンク色の建物に向かう男女が見えた。視線はそっちに向けたまま

「恵坂まで。」

となるべく短く言った。運転手は少し驚いた顔をしてバックミラーに映る黒い空を覗いた。私は現在進行形で額を伸ばすパロメーターを横目にため息をついた。

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