第34話

 目を開けると見慣れたギルドの仮眠室だった。


「ケイ君! じっとしててまだ治ってないんだから」


 身体を起こそうとするとエリーに静かにベッドに戻される。

 ずっと看病してくれてたのかな。


 皮膚が痛むのを無視して彼女の方へ頭を向ける。

 彼女は目元の隈を隠しながらにへへとはにかんだ。


「ちゃんと寝てるから大丈夫だよ……恥ずかし……」

「ありがとう。大分良くなってはいるから」

「でもまだ動かないで。やけど治ってないんだから。でも意識が戻ったならつきっきりでいる必要はないかな。焔ちゃんたちに起きたこと伝えてくるわ」


 敷布団を直すとエリーはパタパタと黒崎さんの元へ向かっていった。


 ぼうっと天井を眺める。

 ニュクスはネメシスに倒され、ネメシスはどこかに消えてった。隠しダンジョンはこれで消滅したのかな。


 消滅したのはいいんだけど配信としては到底及第点には及ばないだろう。

 コメント見るって言ったのにニュクスに集中して読んでなかったし最後何も言わずに倒れて心配させてしまっただろうし。情けない姿しか見せてない気がする。

 派手だからアポロンの炎を出したけど自傷する以上、配信上では使わない方がいいんだろうな。


 ライトに向かって手を伸ばそうとすると腕の輪郭に沿うように激痛が走る。

 ネメシスとの約束は1週間後。ここで何日も寝ているわけにはいかない。


「『喚装:アスクレピオス』」


 唱えるのと同時に俺の手に2匹の蛇が巻き付いた杖が握られる。

 杖に魔力を籠めると俺の全身が淡く光りはじめ、やけどの痛みがじわじわと薄れていく。


 アスクレピオスはただの町医者だ。というのがアスクレピオス本人の口癖だった。神に見染められ人をよみがえらせるまでの実力を得た人間がただの町医者であるわけがないんだよな。

 俺も向こうの世界でさんざんこの爺さんにお世話になった。会うたび解剖させろとか言ってくる医学バカではあったけど優しい爺さんだったな。


 そんな偉大な人間の力を今俺が発動している。

 誰かの力を借りてやっと勇者なんだ俺は。

 俺自身の力は何だろうか。


 のっぺりとした天井を眺めながら一人反省会をしていると部屋の外からドタバタと足音がやってくる。


「ケイ!」

「寝坊ですよぉ」

「起きたか! 我と戦う前に死んだのかと思ったぞ!」


 黒崎さんに煙、それにパンドラまで部屋になだれ込んでくる。

 その勢いのままベッドのそばまでやってくる。


「ん? 貴様その杖どこから持ってきた?」

「俺のスキルだよ。やけど治してんの」

「そんなことできるのか!? てっきりケイのスキルは攻撃手段だとばかり」


 認識は間違っちゃいない。呼び出せるのはほとんど武器だしね。こいつが特殊なだけ。


 エリーはむすっと頬を膨らませて杖を睨みつけた。


「だったら倒れる前にその杖も出せばよかったじゃない。複数出せるんでしょ」

「相性があるんだよ。あの火に焼かれたままだと回復より先に杖が燃え尽きるわ」


 特にアスクレピオスとアポロンは全てを完治させる杖とすべてを燃えつくす炎で正反対の効果のため打ち消し合ってしまう。

 ただ人間のスキルと神のスキルだと規模感が違うため杖が焼かれてしまう。


 全身の痛みが引いたことを確認するとずっと上げてしびれてきた右腕を下げた。


「エリー、俺何時間寝てた?」

「二日だよ」

「二日!? 残り5日しかないじゃん……!」


 たった二日されど二日だ。

 ネメシスとの約束の前に寝込んでいてなまった身体のリハビリから奴との戦闘を想定した身体、スキルの強化をこなさなければならない。

 すぐに結果が出ないばかりだ。寝てる暇などない。


 重だるい身体を無理やりベッドから引きはがす。

 この病人みたいなすぐ地面を這いずりたくなる身体のなまりを取らなきゃなんだよな……間に合うか?


「ケイ? どこ行くの?」

「身体動かしてくる」

「病み上がりでしょ!?」

「やけどは治ってるから。看病ありがと」


 そう言い残して俺は仮眠室を飛び出した。


 ☆

 ギルドを飛び出した俺はその足で新宿ダンジョンに潜っていた。


 中層に到達し、配信を付ける。


「お久しぶりです。この前は倒れてゴメン」


《大丈夫だった?》

《すごかったぞ!お疲れ!》

《あんなに燃えてたのにもう動けるの?》

《復活感謝!》


「身体の芯は燃えてなかったというか実質燃えてないみたいなものなので大丈夫です。ただ二日もベッドにいたので身体はなまってますね」


《まああれだけ化け物と戦ったらそうなるよな》

《むしろ死ななかったのがおかしい》

《他のSランクでもあれ相手だと死んでたんじゃないか?》

《ゆっくり休んでくれ。俺たちのことはいいから》


「休んでるわけにもいかないんですよ。なので今回は中層でちょっとリハビリしてきます。コメントはできるだけ拾ってみます。この配信はそっちの訓練も兼ねましょうか」


 カメラに向かってそう言うと俺は向かってきたオークに素手のまま飛び出した。


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