第32話
その瞬間、世界が闇に包まれた。
太陽は落ち月と星が青白い光で大地を照らす。
「
月明りの中一際闇が深いニュクスのシルエットが浮かび上がる。
その姿はまさに夜そのもの。夜の概念の化身が俺たちと相対していた。
「魔弾でも無傷か……」
「他に攻撃手段あります?」
「魔弾も効かないとなると……私はもう手札切れだな」
「マジですか……」
「マジだな」
「わかりました。俺がやります」
デュランダルを地面に突き刺し、オリオンの弓に持ち変える。
アルテミスは月の女神。たとえニュクスが生み出した仮初の宵闇だとしても月明りさえあればこちらに分がある。
とはいえ相手は夜の主。魔弾が効果ないところを見ると、ニュクスは夜に溶け込んでいるのかもしくは夜という概念そのものになっているのだろうか。
「貴様らにわらわを傷つける手段はない。おとなしく自分の行いを冥界で反省するがいい」
虚空から俺たちを取り囲むように魔力弾の雨が降り注ぐ。
魔力弾の発生は視認できるのだがなにぶん魔力弾そのものが闇色のため着弾点がわかりづらい。
「
デュランダルを起点に半球状に魔力壁が構築され全方位から襲い掛かる魔力弾を弾いていった。
魔力壁内でニュクスのシルエットに向けて矢を引き絞る。
つがえているのは猟犬の意匠が施された儀礼用の矢。矢自体に殺傷能力はない。
そのお飾りのような矢をつがえ弦の限界まで引き絞る。矢じりの先にはニュクスの心臓。
今だ襲い掛かる魔力弾を防ぎつつ弓矢に魔力を充填していく。
「フン。いくら守ったところで貴様ら人間が魔力量においてわらわを凌駕することはないのだ!!」
そう。いくら勇者でも全身魔力庫のような神々に持久戦で勝てるわけがない。
「大丈夫さ。一撃で仕留める」
「その矢の加護ごときではわらわには届かんぞ。せいぜいあがいてみるがいい。宵闇よりも暗い絶望を見せてやる」
「あっそ。
青白い光に包まれた矢は流星のような残像を残して放物線を描きニュクスに向かっていく。
放ったのはアルテミスの月の女神の側面とは別側面、疫病と死を運ぶ女神としての加護を乗せた『死の概念の矢』。
どんな神であれ死の概念によって冥界に堕とされれば地上に戻るのは困難だ。
それはたとえ夜の概念と一体化していたとしても変わらぬ原理である。
銀色の月光に包まれニュクスの全身があらわになる。
「人間にしては考えたな。概念ごと死を与えるか……無駄だったな」
光が収まるとそこには羽毛も何一つ乱れていない女神の姿があった。
冥界と関連が深い神だとしても冥界、ひいては死の概念とのつながりはそう簡単に断ち切れないはずだ。
だというのに無傷だということは……
「この夜の結界自体が冥界の概念が付与されているのか」
「小賢しいな」
ニュクスは闇の中から身の丈ほどもある大鎌を出現させる。
大鎌を携えた腕は確認できるが輪郭が揺らいでいて正確な大きさがはっきりしない。夜と同化したままっぽいな。
次の矢を構えようとした瞬間、目の前に鎌が迫る。
とっさに弓で受け止めるが、勢いを殺しきれずに広場の反対側まで吹き飛ばされた。
何とか受け身は取ったがまたもや目の前に大鎌が迫る。
「さっさと死にな!」
「いやだね……!!」
弓で何とか押しとどめられてるけどさすがにキツイ……!
大鎌を押しとどめている両手からはギリギリと骨が軋む感覚が伝わってくる。
素の筋肉でもモンスターの究極体みたいな神々に勝てるはずないんだよね!
せめてデュランダルが拾えればある程度は戦える。黒崎さんとかに取りに行ってほしいけど下手に動いてニュクスのヘイトが向かったらまずいからな。
1人でこいつをどかさないと。
「いいやダンジョンだから後処理も簡単でしょ」
「フン。貴様の死体なんぞ残らないだろうからな」
「いやちょっと周りが燃えちゃうからね。『月女神反転:
俺の全身を包むように灼熱の炎が燃え上がる。
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