第5話 スキルを作るスキル

 自分の名前、レベル、スキルが表示されたゲームのような画面—ステータス画面とでも言おうか—を改めて表示させてみた。

 ステータス画面を見たい、と思うと表示されることが分かった。


《スキル:スキル創造、なんか目の前の奴らを殺せるスキル》


 本当にスキルを作れてしまった。作ったスキルの名前が少々、いや、かなり曖昧で格好悪い。

 だが、今はそんなことを考えている場合ではない。

 掌から火炎放射器のような炎が吹き出すイメージを浮かべながら、ヘンテコな名前のスキルを創造した。もし、本当であれば…

 目を瞑りながら深く息を吸い、ゆっくりと吐き出した。目を開けると心地よい草原に5体の禍々しいデーモン。

 もう今更、見ている現実を疑うのはやめよう。逃げても無駄ならやるしかない。


「なんか目の前の奴らを殺せるスキル、発動!」


 右腕を前にピンと伸ばし、指の付け根が痛むくらい掌を全力で広げた。左手で右手首を掴み、反動に備えた。

 掌から放たれた細い炎は、須臾にして、横一列に並んだ中央のデーモンの胸を貫いた。

 直径10センチほどの穴が開き、穴の向こうには涼しげに草々が揺れていた。

 胸を貫かれたデーモンは目を開けたまま後方に倒れた。まるでドミノ倒しの先頭みたいに、無慈悲に抵抗も出来ずに。

 他のデーモンらは、困惑したように慌てふためき、キーキーと鳴き始めた。どの個体も眉間に皺を寄せ、赤い双眸を鋭くして俺に向けた。

 棍棒を握り直し、今度は血気盛んになった4体のデーモンが一斉に向かってきた。

 決して俊敏な動きではなかったが、身体中に浮き出した太い血管が全てを物語っていた。


「なんか目の前の奴らを殺せるスキル!」


 再び長ったらしいヘンテコなスキル名を叫び、炎を放つ。次は1体だけではなく、4体のデーモンがいる。炎が出る時間を伸ばしたいところだ。

 1体の頭に命中し、顔面に大きな穴が開いた。さっきの個体は胸に開いたことで、それほど大きい穴には見えなかったが、顔面に直径10センチの穴は大きく見え、グロテスクだった。

 一層大きな声で鳴き始めた残りの3対のデーモンは、相変わらず自分の方へ迫る。

 いちいちスキル名を叫んでは、時間が足りない。炎の放射を保ちながら、掌の角度を変えて、隣のデーモンに炎を当てる。

 少し掌の角度を変えすぎた、と思った頃には1体のデーモンは半分に切断されていた。切断部からは激しい血飛沫が上がり、緑の綺麗な絨毯が赤黒く染まってしまい、食道が熱くなる。その後、喉奥に酸味を感じたが、堪えた。


 残り2体。立ち止まることなく、手に持った棍棒を高々と掲げ迫って来る。

 炎を出し続けるのに限界があるのではないか、と考えていたが特に今のところは問題ない。火力も自由自在に調節可能だし、体力を著しく消耗している感覚も全くない。

 火力を上げると掌の角度を変える動作が難しくなり、少し力を加えるだけで大きく炎が動き回ってしまう。

 その結果が目の前に広がるグロテスクな惨状だ。血に染った草原が瞬く間に地獄へと変貌してしまった。

 風に乗って鉄っぽい匂いが鼻につく。視覚による刺激と相まって胃が不快だ。再び、酸味が迫り上がってくる。


 最後の1体。出っ放しの炎を奴に向け始める。

 最初の1体よりもかなり自分に近づいたデーモンには、少し火力を抑えて攻撃しよう。

 火力を弱くした方が炎のコントロールの精度は格段に上がる。

 デーモンとはいえ、人間に似た容姿の生物を真っ二つに切断する光景は、決して気持ち良いものではない。

 炎の火力を蝋燭程度に絞り、角度を変えながら狙いを定めて、一気に火力を上げる。


「よし、これでいいだろう」


 最後の1体は胸に穴を開けて前に突っ伏した。顔面から草原に着地し、俺の足下まで転がって来た。

 眉間に寄った皺と見開かれた赤い目、剥き出しになった鋭い犬歯。鬼のお面とそっくりだった。

 同じ人間ではない。しかし、感情を持っていて、それを顔で表現出来る生命体。仲間を殺された怒りと殺した相手に対する憎しみが、ひしひしと伝わって来た。


「すまん」


 腰を曲げて足下のデーモンに触れようとしたが、出来なかった。やはり、俺らとは全く異なる生物、なのだ。


 そうこうしている内に、5つの死体は流れ出た血液と共に、徐々に薄くなって、消えた。

 完全に戦闘の跡が消えた頃、再び世界に響く人工的な音声が鼓膜に届く。


「E-相当の検定は合格です。次に、どの程度のランクのデーモンと戦いますか? 尚、検定途中で力尽きたとしても、戦闘全体を鑑みて、ランクを評価致します。」

「じゃ、じゃあ…D相当、でお願いします」

「では、次はD相当の検定に移ります。」


 あっという間に用意されたデーモンは、E-相当の検定に出てきたデーモンより大きくて迫力が更にあった。見た目はさっきのが子供だとすると、今目の前に立っているのは親だろうか。緑の肌と真っ赤な両眼は全く同じで、唯一違うのは明らかに筋力が違うことだ。

 全身が筋肉の鎧に纏われ、剣の刃さえ弾き返しそうだ。

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