82話新たな仲間と共に
拓は注がれ続ける視線を受けながら、落ち着いた口調で語り始める。
「ずっと考えてたんだ。樋渡さんが俺に助けを求めてきた日から……ただ、目の前にいる満里奈やワクチンを守っても何も解決できないんじゃないかって。満里奈とワクチンを救えば、未来で起こるウイルスを防げるかもしれないけど、樋渡さんや浬の人生は変えられない。もしも、樋渡さんの爆破計画が成功したとしても……この時代の組織がまた何かを起こすかもしれない。そしたら、また悲劇を繰り返す」
話しているうちに胸が強く痛んだ。
「鴇さんがやろうとしている計画は確かに組織を根絶やしにするには良い方法なのかもしれない。けど、それもまた新たな悲劇を生む。組織とは無関係の被害者が出れば、またその誰かが復讐のために争いを引き起こす引き金になることだって考えられる。そんな未来が待ってるんだとしたら、俺は幸せなんて思えない」
いつのまにか言葉に熱が入ってしまったようで、話し終えたときには呼吸が若干荒くなっていることに気が付く。それを落ち着かせるために、深く息を吸ってゆっくりと吐き出した。呼吸が整うと、みんなに笑顔を向ける。
「俺は未来を救いたい。誰も復讐に囚われず、憎しみ合うことのない未来を実現することが俺の求めてる未来なんだ……だから、そのための計画を立てたい」
言い終えると、躊躇いながら姫が声を上げた。
「そのためにはわたしだけではなく、狭山さん達も計画に加わることになります。それはとても危険なことはお分かりですよね? 狭山さん達は救世主とワクチンを守ることで精一杯になります。赤の他人の未来を気にしている余裕なんてないはずですよ」
拓は分かっていると言いたげに頷く。
「けどさ、樋渡さんが俺の目の前に現れた日から赤の他人じゃなくなった。もう樋渡は俺たちの仲間なんだよ」
「けどっ」
「樋渡さん、拓はすごい頑固だから何を言ってももう無駄だよ。観念して、俺たちを巻き込んじゃった方がいいよ」
「そうそう、拓は往生際が悪いんだ」
姫が何か言いかけるも、博と文也の言葉で場の雰囲気はがらりと変わる。満里奈やアキが笑いだし、それにつられて拓も笑顔を溢す。そんな光景をどこか呆気にとられたように見つめる姫に、少しずつだが穏やかさが宿り始めた。
「もしも、ウイルスや組織、何もかもが消えてなくなったら……わたしもこんな暖かな友達に囲まれる未来が訪れるんでしょうか? 誰も傷付けることのない穏やかな生活がおくれるんでしょうか?」
自然に涙が込み上げ、姫は声を震わす。そこには年相応の顔になった少女の姿があった。
「そうなるように、そのための計画を立てよう。姫だけじゃない……浬も鴇さんも幸せでいられる世界に」
「……はい。ありがとうございます」
拓の言葉に姫はようやく深く頷くと、みんな安堵の表情となった。
「なら、計画を立てようか」
「その前に樋渡さんに確認したいことがあるんだけど」
拓が張り切って言った矢先、アキが真剣な表情を姫に向ける。
「なんでしょうか?」
「ドリーム・レボリューションズ社、社長……須波 幸太郎は組織に関わっているの?」
その質問に空気は一気に重たく変わった。それはアキがもっとも気がかりだったことだ。それを分かっているからこそ、拓も息を飲んで姫を見つめた。
「社長は確かにこのウイルス開発に関わってはいました」
その一声に、アキが肩を落とす。その様子を見た姫は慌てて言葉を足す。
「関わっていたのは事実ですが、ウイルスだと認識いて関わっていたわけではありません! 少しだけお話はしましたが、あの様子だとウイルスとは知らなかったんだと思います。それに組織の人間だったら、進んで自ら監禁されたりしないでしょうから……」
「えっ、監禁されてるの!?」
意外な事実に拓が声を上げた。
「はい。私たちが会社を乗っ取った時からずっと……今も私たちの両親と一緒に監禁されています。ですから、社長はウイルスが危険なものと知らずに開発に加わっていただけだと思います」
「そう……でも、全く無関係と言うわけではないのね」
アキの表情はどこか晴れない。それでも希望の兆しはあると、拓はアキの代わりに質問を続けた。
「なら、会社で組織に関わっている人間は誰なんだ?」
「きっと、組織事態は今の段階では存在していないとわたしは判断しています。ただ、ウイルスがどれだけ恐ろしいものか分かっているにも関わらず、この研究を遂行しようとしている人間が後の組織を産み出したのでしょう。今考えられるのは、鴇さんとよく行動を共にしている会社の専務と常務……あと、研究を指揮している研究室室長が糸を引いている気がします」
「だったら、監禁されている以外の研究員ももしかしたら室長に従う未来の組織の一員ってことになるかもな」
博が冷静に判断を述べる。
「だとしたら、組織関係者は今の時点でかなりの人数になりそうだね」
「そうですね。研究員だけでも30人以上はいます」
「そんな大人数を全員捕まえるなんて無理でしょ? 警察だって動くわけないし」
文也が半ば諦めを口にするが、拓だけは違った。
「だいたいの目星が付いてるなら、もしかしたら成功するかもしれない」
「どういうことですか?」
「なにか良い方法でもあるの?」
自信ありげな拓の言葉に満里奈とアキが食い入るように訪ねた。
「ずっと考えてたんだ……爆破を利用して、犠牲のない計画はないかって。けど、それは樋渡か浬の手助けがなければ成功できないことだったけど、今ここに樋渡がいる。だから、やってみる価値はあると思う!」
「その計画、教えていただけませんか?」
拓は話し始める。
単純だが、そこにはあらゆる危険が存在するのは確かだった。
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