59話 拓の決意①
「え? 拓がいない?」
生徒会の仕事を終え、博人文也が教室から出てきたところで、出口で待っていたアキから聞かされた。博と文也が同時に顔を見合わせる。
「もしかして何かあったんじゃないかな?」
「俺もそう思う」
なんの連絡もなしに拓はいなくなったりしない。拓と長い付き合いだったふたりだからこそ、その異変に気付くのは早かった。
「まずは校内を探そう。俺は学校の周り一回りしてくるから、文也は満里奈さんと行動してくれるか?」
「わかった。何かあればすぐに連絡するよ」
博はそのまま玄関へと向かって走っていく。
「俺と片倉さんは上の階を調べよう。アキさん、一階頼める?」
「任せて!」
次にアキが階段を駆け下りる。
「片倉さん、行こう」
文也がそう声をかけるが満里奈の反応が薄い。文也は考える間もなく、満里奈の顔の前で手を軽く叩いて音を立てた。我に返り、目の焦点がようやく合ったところで文也は口を開く。
「片倉さんが拓のこと心配してるのはすごく分かる。前みたいに怪我したり、倒れたり、いろいろあった分、片倉さんが責任感じてたのも知ってるから……けどね、今は不安がってても仕方ない。立ち止まるよりも、進まなきゃ拓を探せない」
「ごめんなさい」
「大丈夫、あいつは勝手に死んだりしないよ。信じて」
いつも無表情の文也が少しだけ笑顔を作る。
「ありがとうございます! 宮下くんのおかげで正気に戻りました!」
「そうそう、満里奈さんはそうでなくっちゃね」
気合いを入れ直した満里奈を確認すると、文也はさっそく階段を上っていく。満里奈も慌ててその後を追った。
その頃、拓はまだ校舎裏から動けずに居た。壁にもたれ掛かりながら地べたに座り込む。
「爆破が早まる」
さっきから脳内だは様々なことが駆け巡っていた。
もしも、爆破が成功して何もかもうまくいったとしたら、そこまで深刻には考えなくてもいい話だ。だが万が一、満里奈やワクチンを守れず、爆破にも失敗してしまったらどれ程未来に悪影響を与えてしまうのだろう。そう考え始めたら、手が震えるほどの恐怖が拓の身体を支配した。
「満里奈やワクチンが守れなかったら……4年後の未来ではもっとたくさんの人が死んでしまう。そしたら、博や文也はどうなるんだ? この時代のアキは? 姫たちだって無事じゃ済まないかもしれない」
不安を口にすればするほど、恐怖は倍増し、正確な判断を鈍らせていく。
「もし爆破が成功しても本当にみんな守れるのか? それも分からないまま、俺は病気で死ぬって無責任すぎるだろ……いや、爆破が成功しても事態が変わらなかったら未来の事件も早まるのか?」
「拓!!」
頭上から降ったように聞こえてきた声に拓は反射的に顔を上げた。空を仰ぐと、窓から顔を出すアキの顔が現れる。驚くというよりも、夢を見ているような感覚に陥り、拓はそのままアキを見続ける。
「なんか外に人の気配感じて覗いたら……やっぱり拓じゃない! 何してんのよ! 満里奈さんも博さんも心配してたのよ!?」
アキが叫ぶも、拓は口を開けたまま目を瞬かせるだけだ。
「ちょっと聞いてるの!? しっかりしなさいよ!」
なんの反応も返さない拓を見兼ね、アキは窓からひらりと飛び降りる。そして直ぐ様、拓の頬を思いっきりつねり上げた。
「いっってっ!?」
かなり本気でつねられ、拓は堪らず声を上げる。
「やっと喋った」
「つねるにしても、手加減しろよ!」
「なによ、呼んでも返事できないぐらい病んだ顔したあなたを現実に引き戻してあげたのよ? 感謝してほしいぐらいだわ」
いつもの強気なアキの姿を見たことで先程の不安が一瞬で薄らいでいくのを拓は感じた。
「ありがとう、感謝してもしきれないよ」
「なによ、素直じゃない」
気味悪いと言い出しそうなアキの顔に思わず笑い出す。そんな拓の姿を訳も分からないと言った表情で見つめつつも、アキの観察能力はしっかりと機能していた。
「それよりもこんな場所で縮こまってるってことは何かあったのね? もしかして、組織の人間とでも出くわしたの? それとも個人的な悩みかしら?」
「さすがだな、アキは……」
出会って間もないのに、時おりアキとは本当に長年過ごしてきたような感覚になる。それは病気のことも打ち明けていることによっての安心感からなのか、それとももっと別の感情から錯覚した感覚なのか、それは分からない。それでも、今の自分に必要なのは正体すら不明のアキという少女。
拓は自分にあったことをすべてアキに打ち明けることを決めた。
「全部話す……けど、これはアキや俺だけの問題じゃないから」
「みんなに話さなきゃならない内容ってことね」
拓は迷いつつも、深く頷く。
「これはきっと隠しちゃダメなんだと思うんだ。今後のためにも……」
「拓?」
どこか葛藤しているように写る拓に、アキは躊躇いながら問いかけた。
「他に何か迷ってるの?」
「そうだな。うん……正直かなり迷ってる」
苦笑いを浮かべながら、拓はまっすぐアキを見据える。その表情は切な気でありながら、どこか覚悟を決めた顔だった。
「ずっと迷ってたけど……でも、もう迷っている時間もない。この決断がどんな未来になるのか分からないけど、俺は自分の決断を信じてみたい」
「わかった。ならみんなのところへ戻ろう……わたしは拓がどんな決断をしても味方になるわ」
「ありがとう」
そう告げると、どこからか拓の名前を叫ぶ声が届く。外を探していた博だと気づき、拓は声する方向へと歩き出した。
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