第4話 ちえ2
帰り道、吉田さんと歩いていた。
吉田さんは今朝、一番に話しかけてくれた新しいクラスの子で、名前が私と同じ漢字。
最初はちょっとびっくりした。だって、私も名簿で同じ名前の子がいるって思っていたけど、話しかける勇気なんてなかったから。
だから嬉しかったけど、緊張しちゃって上手く受け答え出来たか、ちょっと心配。
私っていつもそう。
新しく出会う人と話すのは尻込みしちゃう。目立たないように、目立たないようにってしてるから最初は誰の印象にも残らないだろう。
そんなんだから毎年クラス替えのあとは、気がついたらいつの間にか周りはみんなグループになってる。それでグループからあぶれた子たちとなんとなくグループを作るのが毎年のことだ。だから初日から私に声をかけてくれるなんて思いましてなかったし、こうやって一緒に帰るなんて。それにちえって呼んでくれる。友達から呼び捨てにされるって初めてのことでなんだかむず痒い。吉田さんのことも呼び捨てでよんでって言われたけど、私にはまだ無理。
正直言って、うかれてる。
いつもより私、おしゃべりだ。
そんなことを思いながら歩いていると、なんとなく前を歩いている男の子が目に入った。
背が高いのに背中を丸めてて、窮屈そう。もったいないな、そう思った。
腕まくりした袖からのびた腕はきっと私より細そう。ヒョロヒョロって言うことばがぴったりな男の子。
そしたら隣でともえちゃんが大声で彼を呼んだ。
「おーい、恵介!」
恵介くんっていうらしい。
恵介くんは追いついた、ともえちゃんを見て、それから隣にいる私をみて左頬をだけをあげた。
どうやらこれが彼の笑顔らしい。
「恵介も今帰り?新しいクラスどうよ」
「別に。俺はまた田島と同じクラスだし。」
恵介くんはボソボソ言った。
私のところからは聞き取れるか聞き取れないかくらいの小さい声だった。
「あー、いいよね。仲良い子とまた同じクラスって。こっちは大変よ。女子って、うかうかしてたらすぐグループできちゃうからね。あ、この子、新しいクラスの友達のちえ。
で、こいつは恵介。越智恵介。
名前の真ん中とると、私たちの名前と同じ漢字なの。」
「ども。
越すに智恵の智に、恵まれる、介護の介です。一応。」
恵介くんは私を一瞥して短く言った。
ちえって呼び捨てにされたみたいでちょっとドキッとした。
「よろしく。すごいね、同じ漢字。」
「でしょ、すごいよね?!私、中学の時恵介の名前見てすぐ話しかけたもん。でも恵介、へぇってしか言わないの。喧嘩売ってんのかと思ったよ。」
「最初、説明が下手すぎて何言ってんのか分かんなかった」
「自分の理解力が足りないのを私のせいにしないで」
私はなんだか、話に入り損ねて二人のやり取りを見ていた。
羨ましかった。
私はこんなに軽口たたける相手はいないし、こんなに気軽に話しかけられる男の子もいない。
「恵介も同じバスで方向も一緒なんだよ」
バス停に着くとともえちゃんは言った。
「そうなんだー、バスだけだと楽だよね。」
我ながら話の広がらないあいづち…
やっぱ男の子がいると意識しちゃって自然に話したりできない。
何を話したらいいのかわかんないし、私なんかに興味ないだろうから私の話してもなあって思っちゃう。
バス停に着くと、バスはもう来ていてバタバタと駆け足で乗り込んだ。
私は焦りすぎて、定期を落としてしまった。定期はともえちゃんの足元を通り過ぎて恵介くんの足元に落ちた。
恵介くんが私の定期を拾い、渡してくれた。何か言ってたみたいな気がしたけど、それどころじゃなかった。
ともえちゃんが私の定期を見て話し出したからだ。
「これってキラの定期入れ?
青って私たちが小学生の時にしか作ってなくない?」
「うん、ずっと前にもらったんだ。」
小学生の時高校生だった、いとこのお姉ちゃんが持ってた青い定期入れ。
かっこよくて何度も何度も見せてもらってたら、大きくなった時にまだ好きだったら使って。と誕生日の時にプレゼントしてもらったものだ。
ブランドには興味がなかったので、ロゴが見える透明のポケットのところにはステッカーを入れてしまっているが、このブランドは若者から未だに人気で、なおかつ青は何年も前に生産終了になっているため、珍しい目で見られることがたまにあった。
「良く知ってるね。」
「うん、私小学生の時、あこがれてたんだ。で、いざ自分が定期入れもてる頃になったら青、なくなってるんだもん、仕方なくピンク・・・まぁ、ピンクもかわいいよね。
でも、やっぱ青を見ちゃうと青いいねー!」
ともえちゃんも小学生の時に青い定期に憧れていたなんて、思わぬ共通点につい、ニヤニヤしてしまう。
どうしよう、うれしい。
智恵も智恵も恵介も ふゆ @5rings
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