第3話 ともえ2

「佐藤さんの下の名前ってさ、ちえ?ともえ?」


新学期、教室に着いた私は一番に話しかけた。


佐藤 智恵


私と同じ漢字の名前。


以前も同じ漢字の名前のやつに同じように声をかけたことがある。私とタイプは違ったけど、なんだかんだウマがあい、今ではもう7年の付き合いになる。その前例があるから、名簿でその名前を見た時、絶対声をかけるって決めていた。


「あ、えっと、ちえ…」



「そうなんだ、私同じ漢字でともえなの。

吉田智恵。名簿で同じ名前だーと思って、

絶対話しかけようって思ってたんだ。

よろしくね」


「あ、うん。よろしくね。」


ちえの右頬だけがあがった。

たぶん、笑顔のつもりなんだと思う。

この笑い方するやつ、私知ってる。


オドオドした様子からすると、内気っぽいから笑顔で応えようとしてくれただけ、“智恵とトモダチ作戦”はまぁまぁの滑り出しだと思う。


私もクラスでは目立たない方だけど、友達は多い方。

女子は基本的にグループで固まって行動するから友達が多い、少ないは重要だとおもう。

なんとなく誰かと一緒って安心するし、楽しいから、グループ行動が悪いとは思わないけど、新年度のこの時期は新しい友達作りに神経を使って毎日疲れる。でもこの時期、いかに友達を作るかで一年楽しく過ごせるかどうかが決まると思うとそうも言ってられない。

れいこちゃんとか、えみちゃんとか目立つタイプの子は黙ってても周りに人が寄ってくるけど、私はそんなタイプじゃないから自分からどんどん話しかけないと、気付いたらグループが出来上がってた、なんて目も当てられない。

去年の仲良しグループの子が同じクラスならこんな苦労もしなくて済むのに、私はクラスが離れちゃったから新しいグループを作らなきゃ。

でもなんていうか、めんどくさい。




帰り道、私は一人だった。

この間まではかなと、みーと一緒に帰ってたけど、かなは部活で、みーは新しい友達と帰るんだって。少しだけ焦る。


佐藤さんをみつけたのはそんな時だった。


「佐藤さーん、駅から電車?駅まで一緒に帰ろー。」


「あ、うん…」


俯いてはいたが、笑顔になっているのが分かる。


「ねぇ、ちえって呼んでもいい?

私のことも、ともえってよんで。」


「うん。」

今度は俯かずに笑いかけてくれた。

よし、よし、一歩前進。


「ちえって電車どっち?」


「私電車じゃなくてバスなんだ。夕日丘で降りるんだ。ともえちゃんは?」


「私もバスー!方向一緒だ。朝混んでて嫌だよね」


私たちは駅に着くまで去年のクラスの話、中学の頃の話など、思いつくままに話しながら歩いた。

打ち解けるとちえは案外おしゃべりだ。


駅にさしかかったところで、前方に見覚えのあるある猫背を見つける。


あれは、もう一人の同じ名前のやつ。

恵介だ。


「おーい、恵介!」

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