第5話 ライテルとリーデル

 さて、WBCにおける魔法職の四カテゴリーを全部お試ししてみよう! というチュートリアル回だ。

 気に入った魔法職を選ぶのが目的でもある。


 今スミカが試しているのは、さっきニケが披露して見せた〈書き手ライテル〉だった。

「何か指で書けばいいの……かな? 魔法ってふつう杖を振りまわして、えいやっほいっ☆ みたいにやるもんじゃないの?」

 初心者感丸出しのスミカさんの疑問に、

「杖もあるけど。使う人、使わない人、まちまちだよねえ?」

『そうですねー。こういうところちょっと適当ですよね、このゲーム』

 ニケとチュートリアルAIの意見がおおまかに一致している。


『ま、とりあえずやってみてください。慣れてくれば無言でも筆記発動できますけど、まずは脳内で”詠唱するぞ”という意識を持って何か声に出してみましょう。指で書く文字は――そうですね、”火”とかなんとか、なんでもいいですよ。なんとかなるもんです。あ、まとも用意しますねー』

 説明がだんだん雑になっていくAIの声を聞きながら、スミカは「詠唱」の内容を考えた。

(うーん。魔法の詠唱といえば……。やっぱりコレでしょ!)

 左手を突き出し、右手はガッシと左手首を力強くつかんで目標を捕捉。


 そして、スミカの気配が変わった。

 瞳は輝き、まわりの空気が踊り、草葉が舞い散り、魔法使い然としたオーラに包まれていく――ような気がした。

「〈我が左手に眠るいにしえの黒竜よ! 今こそ目覚め、その大いなる力をここに示せ! いでよ! エインシェント・ドラゴン! そして放て! ブレス・オブ・ファイア!〉」

 迫真の詠唱とともにスミカの手のひらから炎が――あれ? 出ない?


「いや、字を書かないと出ないよ!?」

 ニケがサクッとつっこむ。

「あ、そうか……ええと、いでよ! 火の玉……って左手書きにくい!」

「いやいや、利き手は右だよね!? そっちで書こうよ!」

「あ、そうか。えっと、〈火〉?」

 スミカが書いていくにつれ、空中に〈火〉の字が浮かび上がる。

 とたんにシュパッ! と音がして火の玉が飛んでいき、バチン! と目標の木切れに着弾した。


「おおー! できた! すごい!」

 木が消し炭となって消滅していく。それを見てスミカのテンションがあがっていった。自分で魔法が使えるのって、おもしろい!

「どうだ! すごいでしょ!?」

 ニケも自分の手柄のように喜んでいる。

「すごい!」

『よっし。じゃあスミカさん、続けてリーデルの方も試してみますか?』

「うん!」


読み手リーデル〉。呪文を唱えるタイプであろうことは、名前からも推測できる。

『はーい。じゃあスミカさんをリーデルにチェンジ!』

 AIちゃんのかけ声とともに、スミカの胸もとに一冊の本がふわっと浮き上がった。革表紙の重厚そうな本に見えるが、半透明に透き通った軽さもある。そして全体的にほんのり光がにじみ出ていた。

「うわっ」

 いきなりの本の出現にびっくりしていると、ひとりでにページがパラパラと開いていく。開いたページはまっさら。何も書かれていない。

『じゃあもう一度、的ですよーっと』

 ちょっと離れたところに再び木切れがあらわれた。


「ええと、今度も火を出せばいいよね? どうやるの?」

 とまどうスミカ。

「それであってるよ。炎系の魔法で何か思いつくものある?」

「ん〜? ファイヤー……ボール? みたいな?」

 と頭の中で思い浮かべると、ページの片隅に文字が浮かんだ。〈ファイヤー・ボール〉と読める。

「おー、文字が出てきた!」

『じゃあそれを、ここで魔法を使いたいっていう読んでください』


 なるほど。だんだんわかってきた、とスミカは思う。魔法の発動には、術者の意図や意思、が重要になるんだな。

「〈ファイヤー・ボール〉!」

 ぽーんとボールを投げたように放物線を描いて火の球が飛んでいく。

 そして木切れに直撃! バジッと音がして木が消え――


「あれ? 消えない? 何で?」

「リーデルは威力弱めだからね。もうちょっと強いのが必要かもだね。ライテルだったら一発なんだけどね。うん、ライテルならね」

 さりげなくライテル推しを混ぜ込むニケさん。

『威力を増したいなら、〈フレイム・ショット〉とか、オススメですよー?』

「なるほど。もう一回」

 スミカは、今度はちょっと魔法使いっぽいポーズをとった。片足をひいて、片手を前に出す。手のひらを上に、そこに魔導書を浮かべるイメージ。弓のかわりに本を構えるようなかっこうだ。すると、体内で魔力の流れが本に集まっていくのが感じられた。

「〈フレイム・ショット〉!」

 シュバッ! と鋭い音がして、直線的な火弾が直撃した。今度は見事に消失。

「よしっ」

 スミカは思わずガッツポーズ。

「おお〜(棒)」

 とニケが形ばかりの拍手。

『おお〜。ぱちぱち(棒)』

 AIもおなざりに拍手音を棒読み。

「……なんだかなぁ(笑)」


「で、どうだった。手ごたえは?」

 とニケに聞かれて、

「うん。かなりしっくりきた感じ。リーデル、いい感じだよっ」

「ぐぬぬ……。ライテルも、いいよぉ」

『よ〜し。じゃあちゃっちゃと次いっちゃいましょーっ』

 いくぶん飽きてきた口調で、AIが先をうながしてきた。

「ええと、リーディング、ライティングときて、次はリスニングだから、聞き手リスネル?」

 するとニケが微妙な顔になっている。

「あ〜……。リスネルはちょっとねえ……?」

「ん?」

 けげんに思っていると、

『あれは人を選びますからねえ……』

 AIも同調している。

「んん?」

『先にスピーケルを体験してもらいますかねー?』

「そうだね」

「んんん?」

 事情がよくわからないまま、次はスピーケルを体験することになった。


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