第十話 少年療養中

光の爆発の正体は雷であった。


その速さのあまりその姿を誰も目にすることなく、電子の槍は後藤の身体を金属の鎧をすり抜け、後藤の心臓を完璧に貫いた。


「………………」


音が引き沈黙が流れた、風の音ひとつしない決闘場は闘いの熱を既に失っていた。観客が正常な思考を取り戻し、状況を整理するまで場は静寂に満ちた。


「…………ハッ、ダ、ダイキゴトウ氏気絶!よって!レオイチノセ氏の勝利をもって!今決闘の決着とする!」


審判が思い出したようにコールをし、決闘は終わりを告げる。闘技場に少しづつざわめきが戻り出し、伝播でんぱし、やがて困惑の声が飛び交い出す。


何人かの兵士が後藤を担架のようなものに乗せて運んでゆく。


一ノ瀬も兵士に連れられ医務室へと向かった……


「左前腕の単純骨折、全身に軽度の打撲と擦過、それからおまけに重度の魔力欠乏、以上がイチノセさんの症状になりますね。」


「はい……」


実はあの後、決闘直後はあまり痛まなかったのだが、しばらくしてから徐々に徐々にと痛みだし、更に付き添いの兵士に結構乱暴に扱われるので道中かなり痛かった。


「えーというわけで一ヶ月ほど安静にしておけば治癒すると思います。」


一ノ瀬は頭に包帯を巻かれ、腕にはよく分からない、どことなく宗教臭のする、恐らく回復魔法とかその辺の効果のある。札か湿布のようなものを貼り付けられ、これで一ヶ月もかかるのかと少し驚き、少し落胆した。


「あぁはい分かりました。」


「ではお大事に。」


と、言い残し医者は退室する。


さて、暇だし図書室にでも行くかな、と考えベッドから立ち上がる、少し怪我が痛むが別にどうということもない。


退屈の予感を感じ何をしようか一ノ瀬が考え出した頃、先程の医者と入れ替わりで橘と如月が部屋に入ってくる。


「おー!一ノ瀬殿!酷い姿ですなァ。」


「なんか、凄い悪霊みたいな見た目だね!」


所々に巻かれた包帯と、頭や腕に貼り付けられた札や、半袖の病衣から覗く青痣は、封印された悪霊の類を確かに想起させる。


「悪霊みたいな見た目っていうのは否定はしないが……あまり病室で大きな声は出すんじゃない。」


「「はい…」」


指摘を受け、しょぼくれる二人。見かねた一ノ瀬が話題を変える。


「あ〜……あ、そうだあいつってどうなったんだ?ほら、あの後藤って奴。」


「あぁ、彼なら確かあの後暫くして目を覚ましたようでござるよ、まぁ多分一ノ瀬氏の方が重傷でござるよ、知らんけど。」


「…………」


「どうしたんでござるか?考え込んで。」


「いや、そういえば、あの水魔法に塩を入れてたんだが、少し足りなかったかな、と……」


「Oh……」


「塩?塩が何かするの?」


「いや、如月殿は知らなくて良……くは無いでござるが、それでも知らなくて良い話でござるよ。」


そしてその後は他愛のない話をして、見舞いは終了した。


ちなみに如月は終始はてなマークを浮かべていた。


『全能の神と云うのはお前か?』


男は尋ねました。男は現世に様々な革命をもたらせ、更に圧倒的な力と賢を持っていました。


『如何にも』


神は答えます。


『ならば誰にも登れぬ山をこの場に造ってみせよ、無論お前自身にもな、全能というからにはできるのであろう?』


男は言いました。


『貴様の魂胆は見えているぞ、その山を登れば誰にも登れぬ山は造れず、登ることが出来なければ全能には程遠い、いずれにせよこの私を、愚かにも嵌めてやろうという訳だ。』


神は笑いながら答えます。


『然し良いだろう、全能の神たる私を、人の稚拙な言葉遊びにはめこもうと云うのが、どれほど愚かなことか、どれ、一つ見せるとしよう。』


神はそう言って、体を動かすことも無く、背後の地面を盛り上がらせました、然しその山はあまり高いとはいえず、精々大型帆船程の高さしかなく、嫌に牧歌的で男には三十秒もあれば、頂上にたどり着けるでしょう。


『お前は神だと聞いていたが、まさかこうまでに拍子抜けとは、少し落胆したぞ?』


男は神を嘲笑うように言いました。


『その身で知ることなく、一見しただけで、全てを決めるは愚の骨頂ぞ。』


神は男に対しこれまた嘲笑うように言いました。


『何、何を言うか私がこれほどの山も登れぬと云うか。』


男はそう云うと、頂きに向けて駆け出します、男は日が落ち、月が昇るよりも速く速く駆けて行きます、流れる景色は、落ちる隼の様に後ろへと飛んでいきます。そのまま十分程走り続けました。然し山の頂きが見えることはありません。


男は何かおかしいと、後ろを振り返ります。


なんとそこはまだ山の裾、本の数十歩程の距離しか進んでいなかったのです。


『何故だ、何故私はまだこんなところにいる?』


男は困り果て、尋ねます。


『それは貴様がそれ程しか進んでおらぬということ。』


神はさとすように、然し強く言いました。


『何?、そのような事が有り得てなるものか、貴様、何かイカサマをしているな。』


男は憤慨し神に言及します。


『そんなことはしておらぬ、嘘だと云うなれば背を向けたまま登ればよい。』


男はその言葉に従います。


するとなんと一歩も進まないではありませんか。足は確かに地を踏み締め、体に感じる風は確かです。然し景色だけが変わりません。


『な、これはどういうことだ。』


『理解したか、これが全能というものだ。』


『いや、まだだ、貴様がこの山を登ることが話の本筋なのだ。』


男は往生際悪く、神に言い放ちます。


『はぁ、まぁ良かろう。』


そういうと神は、山に向けて一歩踏み出すと、既にそこは山頂でした。


『これでは誰にも登れぬ山では無い、よって貴様は全能ではなかったというわけだ。』


男は驚きましたが状況を整理すると神に言いました。


『本当にそうか、見てみるといい。』


男はそう言われ神の方を見ました。なんと神は山に登っていないでは無いですか、然し登っていないと言うふうに見ると神は確かに山に登っているのでした。


『馬鹿な、一体これはどういうことだ。』


『私は今、山に登っていながら登っていない、この両の条件を満たしている。』


『有り得ん、そんな出鱈目があってなるものか。』


男は憤慨し、声を荒らげて言いました。


『その出鱈目ができることが全能ということだ。』


男はその言葉に負けを認め、神にこれまでの非礼を詫び、神はそれを許し、男を現世へと送り返しました。


チャンチャン。


城の図書館で神話があったので、興味本位で手に取ってみたが、やはり酷い。神話というものは何処の国でも同じような物のようだ。


次の『龍の竜の違い』という本を読もうとした瞬間、ノックが響く。


一ノ瀬は誰だ?と思いつつ返事を返す、すると一つ間を空けて扉が開く。


ノックの主は後藤だった。


つい数時間前殺し合いをしたばかりの……

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