第八話 スパーリング その①
「さぁ!という訳で、第一回定例会議を始めたいと思います!はい!拍手!パチパチパチ。」
「定例と言うよりは臨時ですな。」
「些事は無視する。」
「いやそんなQ太郎みたいに言われましても。」
どうしてこうなった……
「えー、ゴホン、では今回の会議の議長を務めさせていただきます、如月です。」
「えー、では今回の議題はこちら!」
バン!と如月が口で言う、勿論板だとかそういったものは無い。
「一ノ瀬初めてのけっとうー!」
すかさず橘がドレミファソラシドーと歌い出す。
いやはや深夜テンションとは恐ろしい。
「けどさ、ほんとにあんな安安受けて良かったの?決闘。」
そう、俺は決闘を申し込まれた直後ほぼ反射で、受けて立つと叫んでしまったのだ。
「然し不利でござるよ一ノ瀬殿、一ノ瀬殿にはもう爆破魔法は残ってござらんからのぅ。」
「だよなあ………………あ、良いこと思いついた。さて、俺は明日の決闘に向けて色々と準備することが決まったから帰ってくれ。」
「えーー!?」
そして翌日
白い板を天蓋に打ち付けたような清々しい薄い曇り空、吹く風は少し冷たいが、それがまた清々しさに拍車をかけている。体を動かすにはちょうどいい気候だと一ノ瀬は思った。
パーラーさんから聞いた話ではこの国では決闘は法律で認められており、その際に生じた殺人や暴行なども、罪に問われることはない、しかしいくつか決闘のルールにまつわる法律が存在しているらしい。
そして決闘が認められているので、当然そういった施設があるもので。
作りは小さな円形のスタジアムのようで、闘技場の大部分を占める円形のステージが置かれている。あそこから落ちたら退場ということだろう。そして観客席には同級生やメイドさん達、それからよく知らない大人。
「よう、一ノ瀬、あんまり遅いもんで、てっきり逃げたものかと。」
「どうした始まる前からフラグなんて立てて、今から負けた時の言い訳か?」
この返しが上手いと思ったのは橘ただ一人であった。
両者は互いに台の端に立ち、睨み合う。
「どうした魔剣士ィ、その重装備は、そんなに剣が怖いかァ?」
一ノ瀬の言葉の通り、後藤は籠手、背中まであるプレート、脛を覆うグリーブ、それと中世ヨーロッパを代表するようなロングソード、剣は標準装備のだが、それでも全て鉄製となればそこそこの重装備である。
「手前こそ装備が重くてきれなかったんじゃねーのォ?」
一ノ瀬は籠手にグリーブそれとヨーロッパ中世にしては珍しい短刀の一種であるファルシオンとかなりの軽装備である。
「両人ともそこまで!ではこれよりレオ・イチノセとダイキ・ゴトウの決闘を開始する!」
見かねた審判が2人を仲裁する。
「魔法、スキル等の使用は可能、ポーション、魔法具等のアイテムは使用禁止!武器は刃を潰した物を両者一本ずつ所持するものとする!どちらかが降伏を宣言、気絶又は死亡した時点で決着とする!」
「それでは……」
後藤の顔には絶対に勝てるという自信と余裕の笑みを浮かべている。対称的に一ノ瀬の表情は真剣そのものだ。然しそれでもどこか余裕が感じられる。
「開始ィッ!」
戦いの幕が切って落とされる。
開幕早々後藤がその重装備に似合わぬ速度で斬りかかる。一ノ瀬はそれを鉄剣で受ける、がそこはやはりスキルの差かいとも簡単に弾かれてしまう。
近接戦闘は不利と考え、後ろに飛んでファイアボールで後藤の足を止める。
(奥の手を出そうにもあの鉄剣を封じなくてはどうにもならない……触れさえすれば
一ノ瀬は初級魔法で応戦しつつ、近接戦闘を避けるため一定の間合いをとって、移動し続ける。
「オイオイどうしたァ!逃げるだけならドブネズミでもできるぞ!この甲斐性無しィ!」
その言葉に一ノ瀬は魔法を打つ手を止め、ファルシオンを構える。
その行動に一ノ瀬への諦念と呆れによるざわめきが観客席に起こる。
後藤はそれを見て勝ちを確信し一ノ瀬に鉄剣を打ち込む。数発は辛うじて凌ぐことの出来た一ノ瀬だが、状況は苦しくなる一方、遂にはファルシオンを弾き飛ばされてしまう。
ファルシオンは空高く打ち上げられ、ヒュルヒュルと音を立て、日光を乱反射しながら宙を舞う。
一ノ瀬は襲い来る後藤の連撃を籠手のみで受け止めようとするも185cmの身長から放たれる一撃、剣の技量が互いに殆ど零に近い打ち合いでは、体格差や筋力差がものをいうのは当然であった。
ましてや一ノ瀬と後藤の身長差は10cm、もし一ノ瀬に一朝一夕の利があったとしても、一ノ瀬は苦戦を強いられていただろう。
そして後藤の猛攻を受け、一ノ瀬は遂に体制を崩してしまう。
「終わりだアーーーッ!一ノ瀬ェーーッ」
ブンと後藤が剣を振り上げる。
(来た!
「開け!
一ノ瀬が手を前に突き出して叫ぶ、すると手のひらに黒い裂け目が浮かぶ、そして裂け目から先程弾かれたはずのファルシオンが豪速球で飛び出し、後藤の剣を持つ手に向かい、一目散に飛んでゆく。
驚異的、そして脅威的な速度で飛ぶファルシオンは、剣の持ち手と刃の部分で後藤の指をメキョと音を立てて押し潰す。幾らスキルによる多少の耐性があると言えど、ファルシオンにかかる速度と回転のエネルギーの乗った一撃には耐えられなかった。
「ぐおあっ!?」
その拍子に後藤は剣を取り落とす。
「さっき魔法を撃ちながら"逃げ回っていた"ときに、こっそり足下に屈まねーと分からねーくらいの小さな
後藤が指をおさえて立ちすくんでいる間に、後藤のロングソードを拾い、後藤の横に回り、バットをフルスイングする要領で、ロングソードを後藤の膝に全力で振るう。
「ぐあァ!」
剣を振るう一ノ瀬の手から、膝のどこかの骨が折れた感覚が伝わる。後藤の口から更なる痛みに悶絶する苦痛の声を漏らし、両手両膝を地面に着く。
幾らファルシオンとロングソードの両方が、刃の潰した
そして一ノ瀬はロングソードを捨て、一気にバックステップで距離をとる。
「殺すッ!お前の全身の骨を砕いて最後に、首の骨を全力で叩き割ってやるウウゥゥ!」
痛みによるものか、かなり息切れしながら、叫ぶ。
形勢逆転、まさにこの時のためにあるような言葉だった。
開幕、リンチされていた一ノ瀬が、
後藤の雄叫びも、勝者のものではなく、悔しさを孕んだ負け犬の遠吠えのように響いた。
後藤は落ちていたロングソードを拾い一ノ瀬に斬りかからんとするも、立ち上がっただけで耐えられぬ程の鋭い痛みが右膝に走る。そしてそのまま失速、転倒し再度地面に手を着く。
「なッ、こ、これはッ……」
地面に手を着いた後藤は気づいた。自分の剣の色が銀から光沢の無い石の様な赤褐色へと変貌をしていることに。
「違うッ!色が変わったんじゃあ無いッ!付いているんだッ!」
後藤はそれが色が変えられたのではなく赤褐色の物質がただ付着しているだけであることに気づく。
「なんなんだこれはッ!この付いているこの金属はッ!」
そしてそれが金属特有の光沢を放っていることにも。
しかし同時に何故コイツはこんなことをしたのか?という疑問も生まれる、それはこの決闘を見届ける全ての人間の総意だった。
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