第六話 魔法検査

あれから二週間が経過した。魔法も初級魔法を組み合わせた技に、中級と呼ばれるところは完璧に扱えるようになった。中級にもなると迫力も威力も消費魔力も全て初級とは比較にならない程だ。現実世界なら、これだけで世紀のテロリスト、しくは名言が歴史に残るほどの殺人鬼になれるだろう、まだこの上があるというのだから末恐ろしい。


そして如月のエクストラスキル、戦乙女だが、変身系?と呼ばれるスキルで、とても珍しいものらしく、一定時間戦乙女に変身し、戦うというものらしい、初めは三十秒ほどしか持たなかったらしいが、何度も限界まで変身する、を繰り返し、今や五分は持つらしい。今こいつから聞いた、何だか世界みたいだ。


「あー、今日あれでしょ、あの、合同で何か魔法の腕前を図るんだって。」


「知ってる。」


「へへーん私はなんと言っても戦乙女!スト……何たらに負ける気がしないね!」


異空間収納ストレージ


「そうそれ!まぁどっちにしろ私が勝つんだから!」


「はいはい。」


「あーそだ、スキルって使っていいのかな?なしだと思うんだけどさ、レオどう思う?」


話は変わって試験の内容の話になっていく。


「ありだと思う。」


「何で?」


「例えば伊集院賢人の大賢者、あれは使用する魔法の威力を高めたりだとか、消費魔力を減らしたりだとか、そういった感じの常時発動系のスキルだ、勇者も魔剣士も、文献にそう書いてあった。」


「はえーなるほど」


如月が一切こっちを見ずに返事する。


(こいつ聞く気あんのか?)


扉がトントンとノックされる。どうやらこの世界では2回ノックはトイレ用じゃないらしい。


「はい。」


「失礼します、一ノ瀬様もうすぐ授業のお時間ですのでお呼びいたしました。」


「如月様もお越しください。」


「はーい」


俺らはパーラーさんに連れられ、いつも魔法の練習をしている場所に来た、いつもと違うのは長さ10m程の囲いの先に、石製の的が置いてある点だ。どこか弓道部を彷彿とさせる。


「えー、今回の試験は飽くまでも、皆様の実力を測ることが目的なので、そこまで気張る必要は御座いませんので肩の力を抜いて、試験に挑んでください。」


ファン先生では無い、恐らく如月達の先生が挨拶を述べる。


「えー、試験の内容ですが、あちらの的に向かって各々最も威力の高い魔法を放って頂きます。しかし、魔法が不発であったり、的から逸れ、当たらなかった場合、やり直し等出来ませんので、ご注意ください。それと、ポーションなどのアイテムは使用禁止ですが、スキルは使用可とします。」


まあ、つまり自分が安定して打てる中で最も強い魔法を撃て、ということか。そして、矢張りスキルは使える。と……


「えーでは先ずは伊集院さまこちらへ。」


伊集院が一番手、囲いの前に立つ、その顔は緊張しているようにも、気だるそうにも見えた。


「風よ、幾千の刃となりて、我が眼前の脅威を抉れ」


前に向けた右手に、魔法陣が浮かぶ、その魔法陣に大気が集まる辺りに強風が吹き荒れる。踏ん張らないと転倒してしまいそうだ。


「リパーファルファーレッ!」


集められた空気が圧縮され、一瞬風が止む、そして放たれた数え切れぬほどの風の刃が、的を襲う。


ガシャアアアンッ!と石製の的はかなり持ったものの、最後の一陣の前に砕け散った。完全破壊と言って差し支えないだろう。威力からして恐らく中級の上、上級魔法だろう、更にその上にスキルによるバフも乗っていると見た。


あれだけの弾幕だったに関わらず、周りへの被害がないのは、一重に的の頑丈さと伊集院の手腕によるものだろう。これも大賢者のスキルの恩恵だろうか。


見ると伊集院は少し息を切らして、マナポーションを受け取って、度数の高い酒を飲むようにチビチビと啜っている、不味いのは分かるが、それくらい一息に行こうぜ?


そこから俺たちとは違うグループ、便宜上勇者組と呼ぶ。のメンバーが名簿順に魔法を放っていった。犬飼はスキルが剣聖の為か、結果は損壊率約一割と、勇者組の中で一番低かった。


如月は戦乙女に変身し、聖魔法という魔力のみでは発動させられず、特定のスキルを手にしている必要があるかなり面倒な魔法、そしてその聖魔法で的を攻撃したが、その魔法はどうやらアンデット特攻らしく、物への威力は低かったらしく、結果は損壊率約二割というところに落ち着いた。


続いて日下部、流石は勇者と言ったところか、炎の魔法で的を爆ぜさせ、半分強、ざっと六割ほどを消し飛ばした。的が破壊される度に魔力で修復するファン先生が、少し気の毒だ。


七瀬は如月と同じく聖魔法を使用したが、こっちはきちんとアンデット特攻が乗っていない魔法を撃った、そのため五割ほどを破壊した。


犬飼はスキルが剣聖なだけあって、約二割程しか破壊出来なかった。少し落ち込んだ犬飼を励ます一部の勇者組メンバーの姿が見られた。


続きまして姫川、大司教のスキルは文言から推察できる通りヒーラー系だったらしく、こちらも約三割という結果に終わった。


そしてラスト後藤、こちらも的を炎魔法で爆ぜさせ、半分程を破壊した、が日下部より下だったのが気に食わなかったのか、本人は不服そうに顔を歪めている。勝った。


「では次はえー、イチノセさんお願いします。」


ファン先生が俺を呼び、それに答え、定位置に着く。眼前の的に向かい異空間収納を開く、


実は一ノ瀬はスキルの使用が許可される事を見越して、今日のためにとある秘策を用意してきた。


話は少々変わるが、伊集院の使用した[リパーファルファーレ]あれは上級魔法に分類される。そして今回上級魔法の中でも断トツの破壊性能を誇る魔法を一週間前から、コツコツちまちまと、毎日異空間収納にその上級魔法を何回にも分けて収納してきたのだ。


異空間収納の中から輝く柘榴色の魔法陣が現れる、その魔法陣はまだ未完成で、途切れた線から光の粒子が漏れ出ている。


「我が炎よ!波となりて!万物を穿ち滅せ!」


その詠唱と共に欠けていた魔法陣が、完成する。


「エクスプロージョンッ!」


迸る閃光、噴き上がる赤色、身を焼き、叩きつけるような熱風と衝撃波、咄嗟に目を腕で覆う。


次に見たのは抉られた地面と、漂う黒煙と陽炎、それから唖然としたファン先生とみんなの顔だった。すぐに察した、やりすぎた、やらかした……と

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