第二話 収納済みのポーション
「異空間収納……ですか?」
「ええ、そうですね」
研究者が手元の紙と見比べながら退屈そうに言う。ハズレだとでも言いたそうな顔だ。
「エクストラスキル以外にもあるンですよね、『異空間収納』って、しかも、何かが違う訳でも無く。まぁ唯一違う点といえば容量が無限であることぐらいですかね。」
ため息をついて、俺も勇者とかのが良かったとでも言いたそうな、とても異世界から呼んだ人間への態度とは思えない。
「はぁ、異空間収納……」
一ノ瀬は落ち込んだ、ラノベのような最強スキルを夢見ていた一ノ瀬にとって、モチベーションを損なうには充分過ぎるほどであった。
(いや、待つんだ俺にはまだこのスキルが実は最強スキルでしたーって可能性がまだ微レ存!)
一ノ瀬は自室へと帰り、ドアも閉めずにスキルを展開した。
「異空間収納」
一ノ瀬がそう言うと机の上に黒い裂け目のようなものが現れる。
(これが異空間収納か確か無限だとか言っていたな。)
その時一ノ瀬は異空間収納の奥で何かがチラチラ光るのを見た。
(あれはなんだ?というかなぜ既になにか入っているんだ?開けるのは初めてのはずだが、無意識に開けて何かを放り込んだ?そんな馬鹿な。)
一ノ瀬はその謎の物体を手に取って調べたいと思った、その時だったいきなり光が消え、左手に冷たく硬い感触が伝わる、驚き取り落とすが床スレスレで右手でキャッチする。
(これは……ポーション?)
プラズマに光る奇妙で神秘的なガラスに、銀に似た金属で装飾が施されている、そしてその小瓶の中には綺麗な宝石を溶かしたような青色の液体で満ちていた。
一ノ瀬は更になにか入っていないか調べようとした、すると様々なアイテムが異空間収納の裂け目のすぐ近くに集まった。
(異空間収納と言うだけあってこれぐらいのことは出来るんだな。ん?これは本?)
一ノ瀬は手前にあった本を手に取る。その本の表紙には金釘流の字で[日記]と日本語で記されていた。
(日本語?!間違いないこれは確かに日本語ッ!)
一ノ瀬は直感でこれが大切なものであり、自らの助けになるものだと察した。
「一ノ瀬様、エクストラスキルどうでしたか?」
メイドのパーラーさんがドアを開けて部屋へと入ってくる
「パーラーさん……少し席を外してくれないか?……」
一ノ瀬は半ば反射的にそう言った。静かで落ち着いた声だった、しかしその声には有無を言わせぬ凄味があった。
「え、あ、はい、判りました。」
パーラーさんは一瞬困惑したがすぐに従った。
「そして、僕が許可するまで絶対に人を入れるんじゃあない。わかったね?」
パーラーが無言のまま何度か頷く、一ノ瀬は混乱と興奮のあまり敬語さえ忘れていた。
(とりあえずこの日記を読んでみよう……)
そこに書かれていたのは前の『異空間収納』保持者の記録であった。名前は
しかし僕の時と違う点一つ目は、あの研究員共が光の色ではなく、実際にスキルを使用したシーンでスキルを判別していたこと。薄々思っていたがやはりクラス転移させるのは2回目だったのか。
そして恐らくこの『高畑祐一』は魔王城で殺された、しかもかなり入口で、そう考えるのが妥当だろう。以外にもこの日記は細かく書かれており、途中から筆跡がシャーペンから万年筆のような、(恐らくこの世界の筆記用具)に変わっている。
(さて……どうするべきだろうか、このスキルの可能性について考えるのも一つだが、先ずはこの日記の真偽を確かめねば、といってももう決まったようなものだが。取り敢えずパーラーさん辺りにでも聞いてみよう。)
一ノ瀬は本を異空間収納にしまい、ドアを開ける。
「ごめんなさいパーラーさん、少し取り乱してしまって」
「いえいえ、大丈夫ですよ。」
パーラーさんはニコニコと笑っている。流石プロ、一切困惑していないといった様子だ。そしてパーラーさんを部屋に入れる。そして高畑について質問する。
「あの、パーラーさん、僕の前の異空間収納の人ってどんな人なんですか?」
「えーと私もあまり詳しくないのですが、前回の魔王討伐の際にレアアイテムや金銭の管理などを任されていたのですが、魔王討伐前に亡くなられてしまって、当時はかなり苦戦を強いられたのではないかと、聞いたことがあります。」
パーラーさんは記憶を探るような仕草をしながら話す。
「ではないかってことは、前の勇者達は生還していないんですか?」
「ええ、15年経った現在でも行方不明なので亡くなったというのが一般的な結論ですね。」
「そうなんですね、ありがとうございます。では僕は図書室で調べ物をしてきます。」
「行ってらっしゃいませ」
◆◆◆◆
例のだだっ広い図書室で薬学だとかそういった本を探す。本のカテゴリごとに分けられていて、結構探しやすい。そして薬学大全と書かれた分厚い本を取り出す。
通常なら司書さんとかもいるのだろうけれど今はいない。多分異世界から召喚した事どうこうで忙しいのだろう。
机の上に本を置き広げる、持って読むにはあまりにも重かった。
先程異空間収納から出てきた謎のポーションの正体を調べようと思ったが、ページ数が多すぎて挫折しそうになる。しかし、このポーションへの好奇心が一ノ瀬を動かした。
(さてページをめくりまくってこのポーションの正体を突き止めたいが、特徴は青い薬とこの特殊な瓶だけ……うーん情報が少ない。)
しかしそれでも一ノ瀬はページをめくりまくった、めくってめくって探し当てたその時には既に、ページをめくる腕が疲労を訴えていた。
(これだな、えっとエリク……)
その瞬間扉がギィと音を立てて開いた。一ノ瀬はそちらに顔を向ける。そこには伊集院賢人が立っていた。
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