クラス転移で悪役ムーブ

3リットルのペンネ

第一話 クラス転移

一ノ瀬怜央いちのせれおは高校2年生だ,そして自他ともに認めるオタクである。アニメの多い月曜日が早く来ることを望み、サザ○さんのEDで気分が上を向く、そんな人間。


通学カバンには好きな作品の缶バッジやキーホルダーをつけ、スマホの待ち受けは無論推し、そんな事をしていると当然キモがられる、無視やヒソヒソはデフォルト、嘲ったり舌打ちする者も少なくない。


「ダッセェー!キモオタお前まだこんなの付けてんのかよォ!」

「ぜってぇこいつ将来ニートだよ、ニ・イ・ト!」


声をかけてきたのは後藤輝一ごとうこういち毎日義務でもあるのかというように絡んでくる。


言い終わって、下品にギャハハハハと笑う何がそんなに面白いのか、


「おはようございます」


凛とした声が響く、その瞬間男子の8割、いや9割程がドアの方を向いた。入ってきたのは、七瀬美桜ななせみおこのクラスの学級委員長で、この学校の生徒会副会長、成績優秀で弓道部部長の文武両道そのうえ学校で1、2を争う程の美人で正義感が強い。痴漢の手を捻りあげ撃退したという逸話はあまりにも有名だ。まぁつまり、非の打ち所の無い完璧クール美人だ。


彼女が入ってきたことで僕への罵詈雑言ばりぞうごんも止まり、いつも通り彼女の周りに男子が集まる、そしてその男子が悉く陽キャである。


「おはよう七瀬さん」


「ええおはようございます大翔はるとさん」


日下部大翔くさかべはるとこのクラスのカーストのトップに存在する男、サッカー部のエースでイケメン、テストの点数もいつも10位以内、そして誰にでも優しい、非公認の大規模ファンクラブが存在する。そして七瀬が唯一名前呼びをしている男でもある。


「大翔ー課題写させてー。」


「やめろ、しがみつくな、離れろ。」


まだ座ってもいない日下部に文字通りすがり付いたのは、犬飼進いぬかいすすむ見た目は完全にチャラ男、髪を明るい茶色に染め、ピアスだかイヤリングだかをつけ、軽いノリで女子に絡む。紛れもなくチャラ男だ、そしてこいつも例に漏れず高身長、イケメン、優男、サッカー部所属でこいつにもファンクラブがある。ではここまで差があるものなのだ。


「おはよー、うぇーい日下部……はもう取られたかー……じゃあ軍師ー課題写させてー」


「嫌です」


入ってきたのはクラスで1、2を争う美人の姫川真理奈ひめかわまりな、白ギャル美少女、大手の読モもやっているという話だ、卒業したら専属モデルになる契約も済ませているらしい。イソスタでのフォロワーは300万人を超えている。1度幼馴染に誘われて見てみたがなんのためにやるのかが全く理解できず諦めた。何人もの男が彼女の一言の前に、一喜一憂されている。



即答したのが軍師こと伊集院賢人いじゅういんけんとだ成績優秀で模試でも常に県で1位日本では10位以内に入る。そして本当かは知らないがIQが180あるらしい。所謂いわゆるギフテッドと言うやつである。なぜこんな高校に通っているかは謎。その頭の良さから着いた名称が軍師。飛び級制度があれば今頃東大の教授をやっているともっぱらの噂である。


「おっはよー」


わざわざ大声で挨拶してきたのは僕の幼馴染みの如月優きさらぎゆう学校で1、2を争う程の美人らしい、1、2を争う美人が3人いるというのも変な話だが。ちなみに僕にイソスタを勧めたのもこいつだ


「ねぇねぇレオ今日ね黒猫いたんだよ黒猫、持ち上げたら肉球まで黒くってさ、なんかいい事ありそうだよね!」


自分の机にカバンを置くだけ置いてこっちへ話に来る。

いつもの事だ。こんな可愛いことを言っているが、中身は全然違う、家ではヤンキーみたいな話し方だし、パシリを断ると頭をけってくる


「へーそう。」


「そうなの!それでねそれでね!」


渾身のスルーにも一切動じず満面の笑みを絶やさない。

そして周囲からの視線が痛い、理由は七瀬はかなり堅物であまりなびかない、いわゆるクールビューティで高嶺の花、ならば人懐っこそうなこっちならまだワンチャンある、と見た輩が多く七瀬と同じくらいガチ恋勢がいると、数少ない友人から聞いた。


「で、もう先生来たけどカバンとか片付けなくてもいいの?」


「あっ」


先生が来たことを確認しそそくさと自分の席に戻り鞄を片付け出す七瀬。

もっと早く来ればいいのにといつも思う。


「ほらー早く席についてー」


「先生、彼氏出来ましたか?」


「ホームルーム始めるわよー」


またか……今質問を華麗にスルーしたのはうちのクラスの先生、28歳独身、女性、名前は忘れた。


そんなありふれたやり取りの時だった。

教室の床に水色の光の線で描かれた魔法陣が現れ、

その魔法陣から溢れた光で辺りは包まれた。

声を出す暇すら与えられなかった。

反射的に目を閉じ、暫くしてから目を開けると、

そこは教室ではなかった。


先ず目に入ってきたのは複数人が輪になって立っている、どこか宗教画のような絵だった、右下に何か書いてあるな…………読めるけど……これ日本語はおろかこれアルファベットでもハングル文字とも違う……まぁそれは置いておいて絵の周りの壁は大理石だろうか違くとも高級であることはわかった。


「おいおいなんだよこれ……」


「どうなってんだよ……」


説明を求める声がそこかしこから聞こえる。泣いている女子もいる。


そしてここで僕はようやく自分が壁を向いていることに気がついた、周りを見回すとそこにはレッドカーペットが敷かれ、段になった上のところに、椅子の背もたれが金で内側が赤いクッションのようなものが入れてある、恐らく玉座だろうそこには。


金の王冠をかぶって立派な服を着て、まさに王様といった風貌の白髪の老人が座っていた。隣には側近と見られる初老の一重の、王より若い男性、さらにその横には近衛兵このえへいと見られる二人の男が大剣を持ってたっていた。

勇者や聖剣があるゲームで液晶画面に見た景色だった。


「異界の勇者達よ、いきなり呼び出して済まない、が今はどうか私の話を聞いて欲しい」


止まぬざわめきの中その王と思われる老人は言った。

その発言に転移してきた全員が前を向く、そしてその王に対して説明を求め、混乱の声が投げかけられる。むしろざわめきは増した。


「みんなちょっと落ち着こう」


よく通る声で言ったのはこのクラスの陽キャ代表、日下部大翔だ、こんなイレギュラーな事態にも周囲を考える、そしてみんなその声に反応しざわめきがかなり収まる、流石陽キャと言ったところか。


ていうかこれ先生の仕事では?と思い先生の姿を探す。居た、けどうずくまって泣いている、泣いてたのあんたか、生徒に負けてんぞ。


「なぁ聞かせてくれここはどこなんだ、なぜ私たちはここにいるんだ?」


日下部が冷静に質問した、

しかし声は少し震えている。流石にあの日下部でも混乱しているのだろう。


「それはわたくしからご説明いたしましょう。」


「ここはグラナード王国という場所です。そしてこの世界には魔族と魔物というものが存在します、そしてその王である魔王ひきいる、彼奴等きゃつらは我が国を滅ぼし我がものとしようとしているのです。そして窮地に立たされた我々は最後の手段として3ヶ月かけてあなた方を魔術でお呼びしたのです。今あなた方と会話ができているのも、他に違和感が無いのもその魔術のおかげでございます。そして誠に勝手なお願いですがどうか魔王を打ち倒しこの国を救ってくだされ。」


側近が深々と頭を下げる。周りを見ると20人弱の魔法使いのような格好の人間が倒れていた。


今語られた話に困惑しキレるにキレれない者、まだ状況を呑み込めていない者、現実逃避をしだす者、反応は三者三様だった。


「それで俺たちは何をすればいいんだ?」


今の間に少し落ち着いたのだろう。深呼吸の後に言った、声の震えは収まっている。まず自分のことよりこの国のことを考えるのは病的なまでのお人好しと言えるだろう。


「待てよ!日下部!んな事より帰れるかを聞くのが先だろ!」


言ったのは後藤大貴だ日下部除く全員が思っていた、たまにはまともなことを言う。そうだ!そうだ!と同調と怒りの声が聞こえる。


「それにつきましては、長くなりますので詳しいお話は昼食後とさせていただきます。それでは皆様のお部屋にご案内いたします。」


ぶざけんなボケカス!などの怒りを交えた罵倒が飛び交う。そんなことには耳も貸さず僕らを案内し出す。こうなることを予想していたのだろう。


少し歩いて着いたところは、最高級ホテルのような部屋だった。何も知らない自分でも分かるこの部屋の照明、絨毯、カーテン、ベッド、机、ソファー、etc……数えればキリがない。さらにすごいのがこの部屋がクラス全員分用意してあること。


「それでは何かごようがありましたらこちらのメイドのパーラーにお申し付けください。」

「初めましてメイドのパーラーと申します。」

「僕は一ノ瀬です、よろしくお願いします。」


紹介されたメイドのパーラーさんは白に近い金髪をしていた、目は青色、金髪碧眼というやつである。

しかしそんな事を気にしているような時間は無い。

クラス転移初日でもやりたいことはいっぱいある。


「じゃ、じゃあパーラーさん、資料室とか図書室とかってあ、ありますか?」

「はい?」


自室に案内されるまでにいくつか分かったことがある。1つこの世界は地球上では無いこと、2つこの世界には魔法が存在する、3つ会話は可能だが文字は読めないこと。この右も左も分からない未知で溢れたこの世界では、とりあえず情報が欲しい、ここが何処なのか、何があるのか、etc……。


廊下を進んで着いた場所は黒い木製の扉の随分と大きな部屋だった。これまで見たどの図書室よりも遥かに大きかった。これだけ大きな図書室なら有益な情報も多いだろう。

先ずは魔法だ、さっき情報がどうとか何とか言ったけどそんなものは後でいい、魔法!調べずにはいられない!日本、いや世界中の子供達が1度は夢見るであろう魔法、今僕はその目の前まで来ているッ!フゥーー!


扉をバーン!荒々しく開けて部屋に入る、本棚に囲まれたThe図書室といった部屋だ。前の世界で見たどの図書室より大きかった。紅い館の図書室があればこれくらいの大きさだったのだろうか。背表紙に魔法と読める文字が書いてある本を取り出す、その本の表紙には何か書いてあったがやはり知らない文字なのに読める、おそらく転移時の魔法の効果だろうけど、なんだか気持ち悪い、今なら頭富士山の気持ちがよくわかる。それは置いておいてとりあえず読んでみよう。えーっと……


読んだ内容を要約すると、魔力は人間植物動物を問わず全ての生命と一部の鉱石の中にある事、魔法を使うには自分の魔力を消費する必要があること、魔法を使うには詠唱又は魔法名を唱える必要があること。


そしてその横に魔法陣が描かれており、危険のないこの魔法で練習するといいとの事……


魔法の効果は指先に小さな光を灯すだけ

人差し指を立ててそこを見つめるそしてそこに魔力というエネルギーを集めて、それを光に変えるイメージ、なるほどイメージ的にはルー〇スだな、えっと魔法名は……


「ライト!」

夜道なら3m先は照らせそうな程の光が指先に灯る、それと同時に体から何かエネルギーのようなものが染み出していくような感覚に襲われた。これが魔力が減っていく感覚なのだろう、そして魔法が使えたことによる達成感と転移前の世界では絶対に不可能であったことの興奮に任せて一ノ瀬は光を出しまくった、爪を光らせたり、超野菜人みたいにしてみたりとにかく魔法を乱発した。その結果……


(やばい……気持ち悪い……頭痛い……吐きそう……)

一ノ瀬は車酔いのような症状に襲われていた。


「一ノ瀬様何か……」

ドアを開けて入ってきたのはメイドのパーラーさんだった

「一ノ瀬様!?大丈夫ですか!?」

「死にそう……」


一ノ瀬の声は小さく覇気がなかった


「何があったんですか!?」

「魔法使ってたらいきなり……」

「まぁ!魔法酔いですか!今薬もってきますね……」

「ありがと……」


そして一ノ瀬はパーラーさんが持ってきた薬で復活した。

「パーラーさん僕どうなってたんですか?」

パーラーさんは一ノ瀬が回復したことに安堵し、質問に答えてくれた。


「一ノ瀬様は魔法を初めて使い、乱発したことによる魔力の急激な増減に酔ってしまわれたんです。そしてそれを魔法酔いと呼びます。主に初めて魔法が使えたことに、はしゃいで魔法を使いまくったりしてなる症状ですね。」


(僕じゃん……)

一ノ瀬は少し凹んだ。


「だ、大丈夫ですよ私も子供の頃なったことあるので。」


一ノ瀬は更に凹んだ。


「も、もし良ければ私が教えましょうか?」

「良いんですか!?」

「ええ、もちろんですとも」


メイドのパーラーさんにライトが使えたことを伝えると

驚いて嬉しそうにこう言った。


「では次は攻撃系の魔法をやってみましょう。ここでは危険なので魔法練習場に行きましょう。」


資料室を出て、城を出て歩いて着いた建物は体育館のような城の壁とはどこか違う白い石造りの建物だった。


「この建物は我が国の王宮魔法士も利用しているのです。」


パーラーさんがドヤ顔で言う。


「さぁ早く入りましょう。」


建物の大きさから予想はしていたが、中はそれ以上の広さだった。床は壁と同じ材質で出来ていた。中には誰もいなかった。

「実は私ここに入るの初めてなんですよ、普段は一部の人間しか入れませんので。」


パーラーさんの目が表情がキラキラと輝いているような気がした。


「さぁ早速あの板に向かって魔法を打ってみましょう」


パーラーさんが資料室から持ち出した魔法書を開く。差し出されたページには炎の初級魔法と書かれていた。的は1辺3m程の黒い大理石のような石でできた結構大きめ正方形の石板。


石板の前に足を肩幅に開いて構える、腕を伸ばし手のひらを向け人差し指と親指を直角にし、的との距離を測る。

(的との距離約10メートル……ってところか、魔法名は……)

パーラーさんが横で開いている魔法書を見る。


「ファイアボール!」


すると手のひらの前に橙色の光が浮かび、やがて線になり輪を描き、輪と輪の間を縫うように線が走る。

やがて線は模様となり、魔法書に描かれている魔法陣になる。魔法陣が強く輝き、紅く輝く炎の球が魔法陣から放たれた、打ち出された炎の球は弱々しく飛び的に当たらず、3メートル程で消滅した。


「あ、あの誰でも最初は……」


パーラーさんがわなわなと震える僕を慰めようとする。


「ねぇパーラーさん!今の見た!?魔法だよ!魔法!夢じゃあない!夢じゃあないんだ!」


僕は少年のようにはしゃいだ。


そこからは色々な魔法を乱発した、水の初級魔法『アクアショット』印象としてはめちゃめちゃ威力の高い水鉄砲、的に当たったは当たったがパーラーさん曰くかなり弱いらしい。


風の初級魔法『エアショット』拳ほどの大きさの空気弾が渦を巻きながら飛んでいった、しかしこれも途中で消滅した。


岩の初級魔法を試そうとしたところでパーラーさんが、魔力量が足りてないと思う、ライトと同じ感覚で撃っているのでは?それならば魔法をイメージして発動してみては?という提案があった。ありがたいことに妄…………想像は僕の得意分野だ。


その助言をもとに早速イメージを始める、魔法陣から生成された拳大程の鋭い角錐と平べったい角錐がくっついたような形の石が緩いカーブを描いて的の中心に命中するイメージを完成させる。


「ロックショット!」


放たれた石はほぼイメージ通りに飛んでいき、的の右上端に当たって砕けた。当たらなかった時よりも魔力が減った感覚が大きい。なるほど詠唱よりイメージをメインに魔法を撃つとイメージにあった魔力量が消費されるのか。


「さて、そろそろ昼食なので戻りましょう。」


もうそんな時間か、魔法に夢中で気が付かなかった。


◆◆◆◆


パーラーさんに案内されて着いた部屋は長方形の大きな広間だった、中央には大きな細長いテーブル、ここまで大きいとテーブルと呼ぶのもはばかられる程の杖と石とマントが出てくる映画で何度か見たことあるな、こんな感の…………テーブルの上には装飾の美しい銀の燭台しょくだい、料理は既に置かれている、どの料理もまるで芸術品のようで、なんの食材を使っているかはさっぱりだが、盛りつけからどれだけ高いものが使われているかは容易に想像がつく。


壁には恐らく歴代の王と思われる人間の肖像画が立派な額縁の中に飾られている。どれを見ても結構太っている、半分ぐらい不摂政ふせっせいで死んだと言われても納得できるほど太っている、そして今の王様も例外ではないと……


席に着いて前に置かれている皿を見る、鶏肉っぽい何かがステーキのように焼かれている、結構美味しそうだ。


◆◆◆◆


美味しかった、鶏肉(多分)にレモン(のような何か)は少し不安を抱いたが美味しかった、そしてさっきの鶏肉のようなものは仔コカトリスと言う生き物の肉らしい王が高級食材だと自慢していた、コカトリスか、ラノベや漫画で聞いたことあるな……


ちょうど全員が食べ終わる頃に王様の側近が食堂の前で咳払いをしてから話をしだした。


「皆様にはこれよりスキル鑑定を受けていただきます。」


来た!こういった異世界系で最初に来るなろう系イベントスキル鑑定!ここで大体最強スキルだったりとかをゲットするんですよ!


「皆様には少なくともひとつはエクストラスキルというものがこちらの世界に渡られた際に付与されています。なのでそちらを今から鑑定させていただきます。」


「それでは皆様こちらに。」


連れていかれたのは城の奥、でいいのだろうか何しろ正面が分からないから確かめようがない。そして案内された部屋は、ここまでの装飾がこれでもかとされ、ベルサイユ宮殿を彷彿とさせる絢爛豪華なものでは無く、シンプルで神聖さを感じさせる、まるで神殿の一部屋をくり抜いたような部屋だった、そして数段の階段の先には怪しく光を反射する水晶玉が置かれていた。水晶玉の後ろには板と筆記用具を持った男性が10人ほど立っていた、恐らく研究者か何かだろう、年齢はバラバラだ。


「こちらの聖遺物アーティファクトに手をかざしていただきますとわかる仕組みになっております。」


側近がクラス全員に階段を上らせ、水晶の前に誘導する。近くで見ると水晶玉はよく分からない金属で、これまたよく分からない機械の上に置かれていた、というよりはめ込まれ、機械部分と水晶玉のふたつに別れていた。


「ではまずは誰から行いますか?」


ざわめきが広がる、そこかしこから1番手を押し付け合う声が聞こえる。


「俺が行く。」


おっと手を挙げたのは陽キャ王の大翔だ、声がやや震えていたとはいえ、流石これまでに貰ったラブレターで牛乳がわかせそうな男校内ランキング1位(一ノ瀬調べ)だ格が違う。


日下部が聖遺物アーティファクトと呼ばれた水晶玉の前に立ち、手を翳す。すると水晶玉の中心から渦を巻きながら白いモヤが生まれ、瞬く間に水晶玉の中を満たす。そして白いモヤが満ちるのとほぼ同時に、水晶玉が光を放つ。その光は太陽の光のようにプリズムが入った白色だが確実に虹色と呼べるほどの色彩を放っていた。その光は安心感と希望そういった物を感じさせた。


「こっ、この光はっ!」


古代遺物アーティファクトの一番近くに居た男叫ぶ、一人は手元の板と水晶玉から溢れる光を見合わせ、一人は記録を取ろうとしているのか必死にペンを走らせている。そして日下部が我に返って水晶玉から手を離すまで発光は続いた。


「あの、今のなんだったんです?」


日下部が恐る恐ると言ったふうに質問する。


「君は勇者の称号を手にするこの世界を救う勇者なんだ!」


質問された研究者と思われる人のうち1人が興奮を隠そうともせず答える。別の研究者が満面の笑みで、陛下に報告してきます、とドアを荒々しく開け放ち出ていった。他の研究者も忙しそうだが嬉しそうだった。


「なんかやばい事になってきたね。」

「そうだな」


話しかけてきたのは幼馴染の如月だはっきり言って今まで魔法と異世界に夢中で忘れていたがそんなことを言ったら、確実に絞め落とされるので平静を装う。


そこから研究者は聖遺物アーティファクトの機械部分をいじりもう一度日下部に手をかざさせた。すると今度とは違う灰色の光が満ちるが今度は前の時のような強い光は発せられず間接照明のように光っている。


「おお!やはり鑑定スキルもお持ちでしたか!さすがは勇者様ですな!」


研究者はとても嬉しそうだ。


そしてそのまま全員分のスキル鑑定が行われたが全部言うと長くなるので一部だけとする。


如月きさらぎ ゆう『戦乙女』


七瀬ななせ 美桜みお『聖騎士』


後藤ごとう 輝一こういち『魔剣士』


犬飼いぬかい すすむ『剣聖』


伊集院いじゅういん 賢人けんと『大賢者』


姫川ひめかわ 真理奈まりな 『大神官』


そして最後に僕、皆がやっていたように聖遺物アーティファクトに手を翳す。


黒い淡い光が放たれる、日下部の時ほどは強くない。しかし、僕にはこの光がこれまでのどの光より輝いて見えた。


「あー、あなたのは……」

「あなたのは?」


思わず息を止めて、返事を待つ。


「異空間収納ですね。」

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