第37話
教室で待っているまなを迎えに行くと、そこにまな以外の人影は無くなっていた。
まなは、誰もいない教室の片隅に静かに座って外を眺めている。
時間は六時を過ぎた頃で夕日が差し込み、普段から通っている教室が随分と神秘的に見えた。
「あ、空くん。お話は終わりましたか?」
俺に気がついたまながこちらを振り向く。
「ああ、終わったよ。待たせてごめんね」
「いえ、全然気にしてませんよ。それじゃあ帰りましょうか」
俺とまなは二人で教室を後にして、帰路についた。
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自宅に着いた俺たちは、食後にそれぞれ復習を始めていた。
食卓で向かい合ってそれぞれ別の教科の復習をする。
この間、二人が会話をすることはあまりない。
さて、今日は随分と進んだし、そろそろ休憩しようかな。
まなはまだ集中して取り組んでるみたいだし、コーヒーでも入れてこよう。
俺はキッチンへと向かい、コーヒーメーカーを起動する。
もう、九時か。明日は休みだし今日ぐらい夜ふかししてもいいよな。
というかコーヒーを飲んじゃったら夜ふかしせざるを得ないか。
ピーピー。
どうやらコーヒーができたようだ。
俺はコップを二つ用意して、量が均等になるように注いでいく。
「まな、もう結構やってるから少し休憩しよう」
そう言いながら俺はコーヒーを持ってリビングに移動してソファに座る。
「そうですね。ちょっと集中しすぎてしまいました」
まなはそう言って、メガネを外して目のマッサージをしている。
しばらくして俺の横に移動してきた。
「なんだか最近は時が経つのが早すぎてあっという間に感じます。夏休みの旅行だって昨日行ったばかりのように思い出せるんです」
言われて見れば、最近は確かにあっという間だった。
「それはさ、やっぱり新鮮だったからじゃない?」
まなは俺の言葉に首をかしげて、まるで頭の上に?でも浮かんでいるかのような表情になった。
「まながどう感じてるのかはわからないけど、俺はさ、好きな人と過ごせる毎日が新鮮だったんだ。朝も昼も夜も、どの時間帯でもまなと一緒に過ごせるっていうのがとても幸せだからさ、それで俺は時間が経つのが早いんだと思う」
我ながら恥ずかしいことを言うな。
「確かに、私も同じかもしれません。私は一日中人と同じ時間を過ごすということをほとんど経験したことがありませんでした。えりこさんもずっと仕事ですし、両親は海外にいますから。だからこそ空くんとの時間がとても幸せだったんです。だからですかね」
「うん。きっとそうだね」
まなは両親のことを考えているようで水色の瞳を少し潤している。
そして、静かに話し始めた。
「先程も言いましたが、私の両親は海外にいます。最後に会ったのは中学校の入学式の日で、次の日から二人は海外に行ってしまいました。それから二人が帰ってくることはなく、ずっとえりこさんと二人で暮らしてきました。二人と言ってもメイドは何人か雇っていましたが。最初は何も思っていませんでした。だけど、毎年帰ってくると約束したはずの二人が、今日まで一度も帰ってきてないんです。私は・・・・・・」
まなの言葉が詰まる。
「まな」
俺はまなのことを抱き寄せてゆっくりと頭を撫でた。
「私は・・・、二人に捨てられてしまったんですかね。あ、会いに来ることもなく、れんら、くも一度も、送ってくれ、ない・・・!」
まなは涙をこらえながら話し続けた。
「二人は、私を試しているのかと思ったんです。だから、私は優等生になろうと必死に頑張ってきました。でも、それでも、二人が私に会いに来てくれることはないみたいです。だから進路も決まらなくて。もう、どうでもいいかなって」
「そんなことない、まなの両親が何を考えているかは俺にはわからない。だけどこれだけは分かる気がするよ。二人は絶対にまなを捨てたわけじゃない。だってこんなにかわいい子を捨てるはずがないだろ? きっとあっちも色々大変なんだよ。だから、まなはさ、二人のことを信じられないかもしれないけど、それでも、俺はそんなことは絶対にないって分かる」
まなは、俺の胸に顔をうずめながら話を静かに聞いてくれた。
頭を撫でながら俺は話を続ける。
「それでももう二人が来ないならどうでもいいって思うんだったらさ、俺のために頑張ってよ。俺はまなのことを見続けるし、まなから離れるなんてことは絶対にないから。二人のことを信じられなくても、俺のことなら信じられるだろ? 俺はまなの夫なんだから」
そこでまなは限界に達したらしい。
我慢していた気持ちがうちから溢れて泣きじゃくる。
俺は静かに頭をなで続けた。
何も言わずにただただまなが泣き止むのを待つ。
数分して、まなは胸から顔を離す。
「ありがとうございます、私の話を聞いてくれて」
「そんなのあたりまえだよ。だってまなは俺の大事な人だから」
「ふふっ、空くんらしいですね。私、頑張ってみます。進路とか、他にも色々」
「そうだね。でも、無理はしないでね」
「はい!」
そうしてまなはまた顔を胸にうずめた。
「もう少しだけこうしててもいいですか?」
「うん。いくらでも好きなだけ」
まなはそれ以上何も言わず、ただ俺に甘え続けてくれた。
どうやら随分と気が疲れていたようで、まなはそのまま寝てしまう。
今日はこのままでいいか。
まながゆっくり寝れるんなら俺はそれでいい。
「おやすみ、まな」
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