第36話

亮太と新村さんが家に遊びに来てから二周間程たち、学校内は完全に学祭ムードになっていた。


最近は俺に対する男子からの目線も減っていて、学校生活の平和が戻りつつある。


 しかし、一つだけ問題があった。出し物の準備が進まないのだ。


具体的には、たこ焼き屋のメニューが決まらない。


オーソドックスな種類のたこ焼き派と、オリジナリティをだした創作のたこ焼き派が大論争をおこしているのだ。


「だから! そんな変なメニューにしたって客が来るわけ無いでしょ! 安牌なメニューで安定させるべきだって!」


と、語っているのはメニュー担当者の一人、山田美優やまだ みゆうさん。


「いやいや! そんなよくあるメニューを学生が出したって他のところに埋もれるだけだろ! もっと斬新なメニューを作るべきだ!」


と、山田さんに対抗するのは、同じくメニュー担当者の一人、山内祐介やまうち ゆうすけだ。


 メニュー担当者はこの二人で最初は仲良く決めていたのだが、いつの間にか論争が激化。


今では誰も手をつけられない状態になってしまった。


そこで俺とまな、実行委員の二人に火の粉が飛んできたのだ。


 「ちょっと落ち着いてくれ。お互いの意見をぶつけ合うだけでは何も解決しないだろ」


「じゃあどうしろっていうんだよ! 俺は意見を変えるきはないぞ!」


「ふん! 私だって変える気はないんだから!」


こんな感じで二人の話し合いは平行線になってしまっている。


「それじゃあこうしましょう。お互いに考えているメニューを実際に作って誰かに食べてもらうのです。それで美味しかった方のメニューを採用しましょう。創作メニューが元々あるメニューを超えられるかどうかで決めるんです。どうですか?」


「それいいわね。あんたの尖ってるたこ焼きが美味しいわけないし!」


「はー?! 上等だ! 俺のほうがいいってみんなに言わせてやる!」


「それじゃあ試食会は三日後とします。山内くんはそれまでにメニューを考えてきてください」


そうして二人の論争はひとまず収まった。


 「ありがとうまな。おれじゃあの場を収めることも、解決案を出すこともできなかったよ」


「ふふっ、空くんったらずっとおどおどしててちょっとかわいかったですよ」


 最近まなは俺に対してかわいいとかかっこいいといった言葉を照れずに言ってくるようになってきた。


俺としては嬉しいが、これまで殆ど言われることがなかった言葉をたくさん言われて少し恥ずかしい。


 「そ、それは置いといて、もう少しで学校祭だね」


「そうですね。あと一週間程でしょうか。今は楽しいですがこれが終わればすぐにテストがありますから、そちらが少し心配です」


「うへー、今からテストの話なんてしないでよ。今は勉強を忘れて楽しまなきゃ!」


「そんなことを言いながら空くんだって最近は、いつもより復習する時間が増えていませんか?」


「うっ、まあ確かにテストのほうが心配なのは俺もだよ。俺は推薦で大学に行くつもりだからね。ここで成績が落ちたらそれ以前の問題になる」


「確かに。空くんは大学に進学するんでしたね」


「あれ、まなはしないんだっけ?」


「いえ、私はまだ迷っています・・・」


「そっか。まあ、まなのやりたいようにやればいいさ。まながどこにも行きたくないっていうんだったら主婦になってくれてもいいしね」


 今は冗談のように言ったが、俺は本当にそう考えている。


学校にはまなの両親を知っている人がいないからまだいいが、まなの家はいわゆる良家だ。


社会に出ればいつかまなは両親に関する真実を知ることになるだろう。


それでまなが耐えられればいい。だがもし耐えられずにまたまた心が壊れてしまったら。


そう考えるとまなには家にいてもらいたいと思うのは当然だ。


「まあ、ゆっくり考えてみてよ。俺はまなを応援するだけだからさ」


「ありがとうございます」


 まなの両親。


五年前に飛行機事故に巻き込まれたらしいが、まなはその記憶がない。


まながそれを思い出してつらい思いをするなら、一生思い出さないほうがいいに決まってるんだ。


 「空くん?」


「あ、ごめん。ちょっと考え事してた。それじゃあ今日はもう帰ろうか」


「あー、ちょっとまて天心。お前に話がある」


後ろから俺を引き止めたのは担任の阿部ちゃん先生だった。


「なんですか?」


「進路の件だ。ちょっと職員室まで来てくれ」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 「さて、お前の希望していた大学の指定校推薦だが・・・。先程の会議で許可が降りた。お前は推薦でこの大学を受験できるぞ」


「本当ですか!」


「ああ。お前の他に希望している生徒もいなくてな。成績も優秀だしすぐに会議が終わったよ」


「そうですか。それじゃあ後は成績を落とさないようにして、面接を頑張るだけですね」


「ああ、そうだな。練習はいつでも付き合ってやるから好きなときに声をかけてくれ」


「わかりました! それじゃあ今日はもう帰るので、失礼しました」


よし。


まさか本当に推薦がもらえるとは。


俺は三年生になったタイミングからずっと同じ大学の推薦を希望していた。


そこはとても人気の大学だったため、俺が選ばれるとは思っていなかったが、まさかそもそも希望者がいないとは。


なんともラッキーなことだ。


さて、教室でまなをまたしているし早く迎えにいって報告をすることにしよう。

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