第35話

俺たち三人のゲーム大会が終了して、俺たちは食事の準備をしていた。


まなと俺は料理を運び、亮太と新村さんは小皿を並べている。


今日はいつもより人数が多いため、普段なら別で盛り付けているところを大皿に盛り付けたようだ。


 四人で準備をしたおかげですぐに終わり、みんなで食卓を囲む。


「もう食べていい?」


どうやら新村さんの食欲が限界を迎えているらしい。

まるで餌をずっと待てされている犬のように目を輝かせている。


「はい、みなさんどんどん食べてください」


まなはほほえみながら催促をする。


「それじゃあいただきます!」


新村さんは我先にとシチューにがっついた。


それに続いて俺と亮太もスプーンを動かす。


うん、今日も変わらずとても美味しい。


俺と同時に料理を口にした亮太はゆっくりと味わっている。


「うま! こんなのを毎日食べている空が羨ましいよ。こんなに料理が上手ってことは、小さい頃に料理教室とか通ってたの?」


「いえ、全て独学ですよ。私の両親は中学生の時から海外出張で日本にはいないんです。代わりに叔母が私を育ててくれていましたが、彼女も働いていたので必然的に私が料理などをしていたんです。それでいつの間にか腕が上達したようです」


叔母というのはえりこさんのことだろう。


それにしてもそんな話を二人にするなんて。まなは家族の話をするのがあまり好きじゃないように感じていたけど。


それだけ二人に心をひらいているということなのかな。


「そうなんだ。それじゃあまなさんからすれば、叔母が実質育ての親みたいなものなんだね」


「まなみんはパパたちに会えなくて寂しくないの?」


・・・・・・こいつはまたなんてことを聞くんだ。


もしまなが過去を思い出してしまったら。


なんて心配をしたがどうやらそれは無意味だったらしく、まなは微笑みながら会話を続けた。


「確かに寂しい時期はありましたが、今はそんなことはありませんよ。隣には空くんがいてくれていますから」


「だってよ空」


亮太がニヤニヤしながらこっちを見てきた。


「なんだよ、ニヤニヤしやがって」


「いやー? まなさんが空のことをどれだけ大事に思っているのかがわかって親友としてとても嬉しく思っているだけですよー」


なんだろう、ものすごくイライラする。


「もー、亮太はすぐ空くんのことをからかわないの! そんなことをしてたらせっかくの料理が冷めちゃうよ! わかったら早く食べる!」


俺の代わりに新村さんが亮太を怒ってくれた。


そして俺はこのタイミングを見逃さなかった。


「なあ亮太、お前、普段は俺に上からものを言ってくるけど、裏では彼女の尻に敷かれてるんだな」


もちろんこれは冗談だ。


亮太が俺に上から何かを言ってくるなんてことは殆どない。


だが、大事なのはそこでは無く、尻に敷かれているという部分だ。

あいつは意外とプライドが高いからな。俺にこんなことを言われればたまったもんじゃないだろう。


案の定、亮太はすぐに言い返してきた。


「はー? 誰が尻に惹かれてるって? 俺が沙奈のことを尻に敷いてるんですけど!」


「は?」


・・・・・・。新村さんのほうから今まで来たことがないほど低い声が聞こえた。


どうやらこれは亮太にも聞こえたらしく、顔がだんだん青ざめてきている。


「誰を尻に敷いてるって?」


「あ、いや、それはそのー・・・、つい口から出てしまっただけで本当はそんなこと思ってないから許して!」


亮太は後半、とても早口になりながら新村さんに許しを求めた。


どうやらこのカップルは上下関係がはっきりしているようだ。


「もう、空くんも少しやりすぎですよ。そんなことしてないで早く食べてしまってください」


俺もまなに少し怒られてしまった。


「ごめんごめん、普段から結構こういう言い合いはしててさ。つい普段のノリで」


「それはいいんですけど。とにかく、早く食べてください」


これ以上なにかいうとまなはしばらく目を合わせてくれなさそうだ。


俺はそう判断して、素直に、静かに料理を食べ始めた。


その後も色々と雑談をしながら食事を続けて、なんだかんだで楽しい一時を過ごした。


 全員食事を食べ終わり、まなと俺は二人で洗い物を始める。


「今日はありがとね。わざわざ亮太たちの分まで作ってもらっちゃって」


「いえ、私も楽しかったですから。それに、仲のいい友達ができてとても嬉しいです。普段から周りにいる人は本当に私と仲良くなることを望んでない感じがしていて、沙奈さんにはそれがなかったので、本当に嬉しいです」


おそらくまなの周りにいつもいる女子たちは、まなの友人という肩書がほしいだけなのだろう。

まなもそれに気づいていて、あまり親しくなることはないということだ。


「まなが楽しかったなら俺はなにもいえないや。俺の優先順位はまながぶっちぎりで一番だからね」


そういうとまなは優しく微笑んで、空を見る。


「ふふっ、私も空くんが一番ですよ。空くんのためなら何でもできます」


そんなことを言われたら、俺、我慢できないんですけど!


俺はそんな気持ちを理性で抑えながら皿洗いを続けた。

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