第38話

私は寂しかった。


二人に会いたい。でももう会うことはできない。


二人はもう*****。


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目が覚めると、私は空くんに包まれていた。


体が温かい。


どうやら疲れていつの間にか寝てしまったようだ。


空くんの顔を見ると、とても幸せそうに寝ている。


そこで気がついた。


なにか大切なことを忘れているような気がする。

とても、とても大切な何かを。


っ! 思い出そうとすると頭に激痛が走る。


そういえば、昔もこんな感覚があった。


その時は確か病院にいて・・・・・・。どうして病院に?


いや、それは私が倒れたからで。


それじゃあどうして私は倒れたの?


・・・・・・。あれ?


私は一体何を・・・・・・。


体がとても冷たく、呼吸が浅くなる。


私は、私は!


「あれ? まな?」


空くんの温かい声が聞こえる。


「まな? まな!」


私の意識は途切れた。


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空視点


まなが倒れた。


顔が真っ青で呼吸も浅かった。


もしかして、昨日の話が原因で両親のことを思い出した?


とにかく医者の診断を待とう。


まなが倒れてすぐに救急車を呼んで、今は病院にいる。


時刻は午前五時。これだと今日は学校を休むことになりそうだし、亮太と先生に連絡しないと。


「空! まなは?」


待合室でまなのことを待つ俺に声をかけてきたのは、えりこさんだった。

まなの保護者ということで、病院から電話が行ったのだろう。


「えりこさん。今はまだわからないです。でも多分、両親に関係していると思います。昨日の夜にまなが話してくれたんです。二人のことをどう思っているのか」


「・・・・・・そうか。あいつはお前を信頼しているんだな」


「え? 怒らないんですか」


「なんでだ」


「だって、おれがまなに二人のことを話させたから。もしかしたらそれが原因で・・・!」


「それは仕方がないだろ。それに、別に無理やり口を割らせたわけじゃないんだろ? あいつは嫌なことはきっちり断るタイプだからさ。それはきっと自分の判断だったはずだ」


目から涙が溢れる。


「大丈夫、いつかはこうなるってわかってたんだ。だから、そんなに気負うなよ。お前は後悔をするんじゃなくて、いつまでもまなの隣にいてやるんだろ?」


涙が止まらない。


えりこさんは俺が泣き止むまで隣で静かに待ってくれた。


それから二時間ほど、俺は待ち続けた。


えりこさんは仕事があるといって、帰っていった。


時刻は七時を過ぎていて、外はもう明るくなっている。


「天心さん。奥さんが目を覚ましましたよ。病室までご案内します」


奥から看護師さんが歩いてきて俺にそう告げる。


「あ、はい」


俺はすぐに椅子から立って、看護師さんについていく。


病室は三階で、移動している間はずっと沈黙が流れている。


「ここです」


そう言って看護師さんは部屋のドアを開けてくれた。


俺は、少しだけ怖い気持ちを抑えて部屋に入った。


部屋に入ると、窓が開いているのか、緩やかな風を感じる。


まなは体を起こして外を見ていた。


こちらからは表情が見えない。


「まな」


俺は声をかける。だが、まなは俺の呼びかけに応じなかった。


「天心さん。少しよろしいでしょうか」


後ろから声をかけられて、振り向くとそこには白衣を着た医師が立っていた。


俺は素直に医師の指示に従って隣の個室に入る。


彼はどうやら、五年前にもまなの担当をしていたらしい。


「おそらくですが、まなさんはすべて思い出したのかもしれません。今はとても混乱しているので、できるだけ刺激をしないようにしてください。それから今日は一日様子をみて、退院するか決めましょう」


「わかりました・・・」


「それでは失礼します」


彼は静かに部屋を出ていく。俺もまなの病室に戻る。


まなは変わらずに外を見ていた。外、というよりも空を見ているのかもしれない。


あ、学校に連絡しないと・・・・・・。いや、面倒くさいな。母さんに連絡してもらおう。


俺は母さんに連絡をいれて、一応亮太にも連絡をした。


そしてスマホの電源を切り、ポケットの中に入れる。


まなの横にある椅子に座り、まなの手を優しく握る。


まなはピクリとも動かない。


なんて言葉をかけたらいいのだろう。何をしたらいいのだろう。俺は、何ができるのだろう。


まなの顔を見ると、表情は無く目も死んでいる。


ああ、どうして俺はこんなにも無力なんだ。

俺にできることは何もないのか?


そこで、えりこさんの言葉を思い出した。


そうだ。俺はただ待とう。まなの隣で、ただゆっくりと、いつまでも。

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