第33話

あ!天心がきたぞ!」


「おい!後ろに若井さんもいる!やっぱり噂は本当だったのか?!」


周りの野次馬たちがものすごくうるさいが、俺たちは気にせずに教室への道を進む。


どうやら周りの人たちは、俺やまなに直接話しかけてくる勇気はないらしく、一定の距離より近づいてくることはなかった。


「さて、問題はどうやって教室に入るかですね」


「うーん、もうチャイムが鳴る時間だし、あんまり人はいないと思うけどね」


「いや、そうとは限らないよ?まなみんは人気者だからね~。ぎりぎりまで教室で待機する輩もいるんじゃない?例えばほら、石井とか」


石井か。


俺がまなに告白すると決意した理由がその石井だ。


あいつはすごいイケメンで男版のまなのような立ち位置にいる。


「まあでも、空たちはもう関係を隠さないって決めたんだしさ。そんなの気にしないで堂々と教室に入ればいいんだよ。そこで誰かが話しかけてきたら全部話してやればいい」


そんなことを話しているうちに俺たちは教室の前まで到着した。


予想通り教室は同じクラスじゃない人までいて、まながいかに人気なのかということが伺えた。


だけど俺たちはそんなのお構いなしに人混みをかき分けて教室の中へと入る。


そこで話しかけてきたのは、やはり石井だった。


しかし少し以外で、石井は俺に話しかけてきた。


「おい、お前、若井さんと付き合ってるってのは本当なのか?」


その問いかけで教室中が静まり、俺と石井に視線が集まる。


「ああ、付き合ってるどころか俺たちは結婚してるけど。どうかした?」


石井に返答しながら俺は左手の指輪を見せる。


・・・・・・。


石井は固まった。


いや、石井だけではない。俺の言葉を聞いた教室中のすべての人が固まっている。


「ん?」


「え、若井さんと、お、お前が、結婚?おいおい、冗談はやめろよ。俺たちまだ高校生だぜ?」


「本当だよ、まなにも確認してみるといいんじゃない?二人でペアの指輪をつけてるからさ」


「・・・・・・。嘘だろ?若井さんが、人妻?しかもこんな奴と?ありえない!なんで俺じゃなくてこいつなんだ!」


そこでまなが口を開いた。


「今なんと言いました?」


あら。これはやばい、ブチギレモードだ。


「だってそうじゃないか!なんであんな奴と付き合うどころか結婚なんて!」


「あんな奴、というのは一体どこを見て言っているんですか?空くんの外見?それとも内面ですか?私からすればどちらもあなたのほうが劣っているように見えますが。あなたは空くんの何を知っているんですか?私は色々知っています。私のために自分を変えようとしてくれたり、旅行やデートに連れて行ってくれたり。この指輪だって空くんが自分で買ってくれました。そんな彼のどこがあなたより劣っているのですか?確かにあなたは少し外見は整っているかもしれません。ですが空くんはもっとかっこいいです!あなたが彼に勝っている部分は何もありませんから、わかったらこれ以上彼を侮辱しないでもらっていいですか?」


石井はそれ以上何も言わなかった、というより言えなかった。


まなの鬼の形相と勢いに押されて、口をはさむこともできなかったのだ。


そしてそれは周りも同じだった。


石井は学校内でも指折りのイケメンとして知られている。


そんなあいつが何もできないのに俺が出てもできることはないだろう、と考えているはずだ。


さて、この空気を一体どうしようか。


そこで亮太が口を開いた。


「なあ、そろそろ自分の教室に戻ったらどうだ?これだけ見れば十分だろ?空とまなさんは本当に結婚していて、そこに他人が入る余地なんてないんだよ。だからさ、まなさんを狙ってた男子共はもう諦めろ。それじゃあ解散!」


すごい。


亮太がそういうだけでみんな帰っていった。


だけど石井はまだ帰ってくれなさそうだな。


それに、なんでこっちをそんなに睨んで来るんだよ。


「おい、石井も早く帰れ。空を睨んだってどうにもなんないんだからよ」


そう言って亮太は石井の背中を無理やり押していく。


石井はそれにしたがって素直に歩き始めた。


そして教室を出ていく直前でこちらに振り向いてこういった。


「俺は諦めてないからな!若井さん!また来るから!」


そしてあいつはスタスタと教室へ帰っていく。


最後の捨て台詞は少し気になるものの、これで一段落はついたようだ。


「まなみーん!石井にガツンと言ってるのすごいかっこよかったよ!」


「ちょ、あんまりくっついてこないでください」


新村さんがまなに抱きついて拒絶されている。


「空もお疲れ。よくあそこでビビらずにちゃんと言えたな。夏休み前のお前なら絶対に黙りこくってるぞ」


「本当にそのとおりだよ。でも今日は本当にビビらなかったな」


「おうおう!なかなか言うじゃねーか!とりあえずこれで周りの目を気にすることはなくなったな」


「そうだな、まだ周りの男子からの目線がすごく痛いけど」


「そりゃあ、あのまなさんと結婚してるなんて言われて嫉妬しない男子なんていねーよ!あ、俺は別だけどな」


「まあ、お前は彼女もいるしな。それで嫉妬してたらお前の彼女にすぐチクる」


「おいおい、それは反則だろ?」


ああ、なんだか急に平和な空間になったな。


それにしても亮太には随分と助けられたようだ。


「なあ亮太、今日飯行かない?お礼も兼ねておごるからさ」


「え?なんだよ急に。まあおごってくれるって言うなら遠慮なく」


「えー!なにそれ私も行く!」


「あ?なんでお前が。空が誘ってくれたのは俺だぞ。なんでお前が来るんだよ」


「いいじゃん別に!それにまなみんも連れて四人でいこうよ!」


「はー、めんどくさいな。どうする空。こいつこうなったらなかなか折れないぞ」


「ん、まあいいんじゃない?まながいいなら俺は別に問題ないよ」


「やった!まなみんも行くよね?ていうか行こ!」


新村さんに誘われてどうやらまなはOKしたようだ。


しかしあの二人の感じを見ているとまなは半ば強制的っぽい。


「それにしても、なんかお前と新村さん、距離が近くないか?」


俺はさっきから感じている疑問を亮太に聞いてみた。


「ああ、俺の彼女って沙奈のことだからな」


・・・・・・は?


「え、新村さんと亮太が付き合ってる?!え、そうだったのか?!」


「ああ、そういえば言ってなかったか」


「聞いてねえよ。てっきり他クラスの人だと思ってたわ」


「まあ、たしかに俺は他クラスに行くことも多いからな」


「そっか新村さんが彼女だったのか・・・。まあ、お似合いっちゃお似合いか」


だが、やはりびっくりだ。


亮太の彼女がまさか同じクラスにいたとは。


「ねえねえ、ご飯ってどこにいくの?決めてないなら私、行きたいところあるんだけど!」


「んー、まあいいぞ。行きたいところって?」


「それは放課後まで内緒ね。それじゃあまた!」


そういって新村さんはさっそうと自分の席へと戻っていった。


まなもいつの間にか戻っている。


「お前の彼女、なかなかマイペースだな」


「ああ、俺も結構困ってる。でもそこがまた可愛いんだよ」


「お前の癖はどうでもいいよ」


「は?癖ってなんだよ。俺は別に」


そこでチャイムが鳴った。


「席につけー」


教室に担任の先生が入ってきて、亮太は渋々席に戻っていく。


ふー、なんとも長い朝だった。


まだ周りからの目線が痛いけど、それはそのうち収まっていくだろう。


今日はまだまだ始まったばかりだし、午後は学祭の出し物を決めないといけないらしいし、なかなか長い一日になりそうだ。

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