第29話
空くん見てください!このぬいぐるみ、とっても可愛いです!」
まなはゲームセンターに来るのが初めてのようで、とても楽しそうにはしゃいでいた。
「じゃあそれやってみる?」
今まなが可愛いと言っているぬいぐるみは、クレーンゲームの賞品だった。
「私にできますかね・・・」
「大丈夫、これはかんたんなゲームだから」
「じゃあやってみます!」
そういってまなはゲーム機に百円を入れた。
「そこのボタンを押してアームを操作するんだ。やってみて?」
「ここですか?わ~!動きました!これであのくまさんのところに合わせればいいんですね!」
「そうそう。がんばって」
だが、まなが賞品をゲットすることはなかった。
「これ、難しすぎます!どうやっても取れないですよ」
「あははっ、じゃあちょっと俺がやってみせるから、そこでみててよ」
そう言って俺はゲーム機に百円を入れて、操作を始めた。
結果は、もちろん獲得した。
自慢じゃないが俺は一時期ここに通っていたため、アームの強さなどは熟知していた。
「これあげるよ。まなのためにとったものだし」
「いいんですか?ありがとうございます!空くんはゲームが上手ですね」
「俺はここに通ってたからね。他にも色々あるからやってみようよ」
「はい!」
俺たちはその後、レースゲームなど色々なゲームをやり尽くした。
「あ、もう三時半だ。そろそろ時間だ」
「もうですか?まだ色々やりたいのに・・・」
まなはあからさまにすね始めた。
「今日はもう終わりにして次は学校帰りにここによればいいんじゃない?それに、まなは映画も楽しみにしてたしさ」
そうは言ったものの、俺自身時間が立つのが異様に早くてびっくりしている。
やっぱりまなといると楽しくてたまらない!
「そうですね。それじゃあ早く映画館にいきましょう!」
どうやらまなも納得してくれたようだ。
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映画館に到着した俺たちは、飲み物を買うために列に並んでいた。
「時間的に学生がとても多いですね」
「そうだね。もう殆どの学校が終わってるだろうしそれはしょうがない。あ、俺たちの番だよ。注文しよ」
俺はコーラ、まなはオレンジジュース、それと二人で食べるようにポップコーンを購入して俺たちはシアタールームに入場した。
「俺たちの席はここだ。なかなかいいところじゃない?」
「そうですね。とても見やすい位置です。空くんは何でもわかっているんですね」
「そんなことないよ。さっきのクレーンゲームも映画館も経験したことがあるだけだから」
「そういえば、指輪楽しみです」
「確かに。映画を見終わったら取りに行こうね」
「はい!」
そうやって雑談をしているうちに上映時間になり、スクリーンに映像が流れ始めた。
映画の内容はまなの事前情報の通り、第二次世界大戦時の捕虜にされた日本人の物語で、とても感動するものだった。
映画が終わり退場している途中に俺たちは、映画の話で盛り上がっていた。
「主人公の奥さんがもう不憫で切なかったよ」
「それもそうなんですけど、やっぱりいちばん泣いたのは主人公の死を収容所で過ごした仲間たちが看取ったときでした」
「あとはやっぱりエンディングだね。話に聞いて想像はしていたけど、はっきり言ってそれ以上だったよ」
「ほんとですね。歌詞を思い出すとまだ泣けます」
「あははっ、俺もだよ。それじゃあ指輪を取りに行こうか」
「そうですね。その後はご飯を食べていきますか?」
「その前にちょっと行きたいところがあるんだ」
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俺はまなを誘って夜景がよく見えると有名なところに来ていた。
「うわ~、とてもきれいですね」
時刻は夜の七時を回って日も完全に落ちていたのでとてもきれいな夜景が広がっていた。
「ここにきたのはさ、この指輪をまなにはめるのに最適だと思ったからなんだ。ここなら人もあまりいないし」
俺はまだ受け取った指輪を開封しておらず、ここで渡すことはゲームセンターで思いついた。
「プロポーズをしたときは正直断られると思ってた。だってまともに話したこともない人に、告白通り越してプロポーズだよ?だけどまなは俺と結婚することに同意してくれた。最初は信じられなかったんだ。最初の一ヶ月ぐらいは夢だと信じて疑わなかったぐらいに」
まなは真剣に俺の話を聞いてくれていた。
「だけど、これは夢なんかじゃないって理解して、俺の責任の重さにも気がついて。でもその責任よりもまなといることが楽しくて。本当に幸せだった。そして、これからもずっと幸せでいたいと思ってる、俺だけじゃなくてまなにもね。その証としてこの指輪をプレゼントしたいんだ。だから、受け取ってくれるかな」
まなは泣いていた。
でも、これは悲しみの涙ではない。
表情を見れば分かる。嬉し泣きだ。
まなも俺のことを好きでいてくれている。
その証拠だった。
「もちろんです。私もこれからの人生を空くんと過していきたいです」
俺は何も言わずに指輪を取り出してまなの指にはめた。
左手の薬指に光るそれは俺たちの幸せの象徴だ。
俺は我慢できずにまなを抱きしめた。
まなは少し驚きながらもそれを受け入れ、抱きしめ返してくれた。
「ねえ、キス、したい」
まなは顔を赤らめて何も言わずに目を閉じる。
それは合意のサインだった。
ああ、幸せだ。
お互いの唇を重ねる。
それは世界から見れば一瞬だった。
それでも、俺は永遠のように感じた。
俺たちはそっと唇を離し見つめ合う。
そしてもう一度、静かにキスをした。
アニメでよく聞く甘酸っぱい味はしない。
だけどなぜか心は甘酸っぱさを感じていた。
これが幸せだと言わんばかりに精一杯に。
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