第28話
俺はこの二つで迷ってるんだけど、まなはどっちがいいかな」
俺たちは今、まなにプレゼントするための指輪を選びに来ている。
候補は二つ。
一つ目は普段使いを優先した指輪だ。
見た目は結婚指輪のような銀色の装飾がないリングで、その代わりに自分の好きな文字を刻印できる。
二つ目も、別に普段使いができないわけではない。
ただ、一つ目とは違い、小さなダイヤモンドがついている。
ダイヤモンドと聞くと高価なイメージがあるが、そこまで大きいものではないので、お手頃とまでは行かずとも、ギリギリ手を出せる値段となっている。
俺的にはやはり記念のための物なのでダイヤモンドの方にしようと思ったのだが、まなは倹約家であるため、自分のためにそこまでしてもらわなくていい、と考えると思ったのだ。
そこで出てきたのが一つ目の指輪で、俺はどちらにしようかずっと迷い続けていた。
「なるほど。ちなみに値段はどのようになっているのですか?」
「こちらの石がついているものが二十三万円、ついていないものが八万円となっております」
「それじゃあこっちで」
そう言ってまなが指を指したのは、一つ目の指輪。
やはりそっちか。
「でも記念なんだよ?俺は・・・、いや、まながそれでいいなら」
「空くん、私は特別なものをもらえるのは確かに嬉しいですが、それよりも嬉しいのは空くんの気持ちですよ。値段や格好なんてちっぽけなものです。それに、私は一人でこれを身につけるよりも二人でおそろいにしたいです。店員さん、このリングは二つ用意できますか?」
「可能ですよ、刻印も隣の作業室で行うので、在庫にサイズの合うものがあればすぐにお渡しできます」
「だそうです。それとも空くんは私とおそろいにするのはいやですか?」
そんなことを言われたら嫌になるわけないじゃないか。
「そんなわけないよ。ありがとう」
「ふふっ、それはこちらのセリフですよ。私のためにずっと悩んでくれていたんですよね。空くんは私の自慢の夫です」
「ああ。俺もまなが結婚してくれて本当に良かったよ」
「おふたりともラブラブするのはそれぐらいにして、指のサイズを測りましょう?」
しまった、ここが家の外だということを忘れていた。
まなの様子を見ると、どうやらまなもおなじようだな。
「す、すみませんつい・・・・・・」
「うふっ、いえいえ。よくあることですから」
それから俺たちはサイズを測って、店員さんの在庫確認を待っていた。
店員さんはすぐに戻って来て、在庫があることを教えてくれた。
「それでは、こちらに掘らせていただく文字ですが、もうお決まりですか?」
そういえば何も考えてなかったな。店員さんを待っている間はふたりともさっきの羞恥心でいっぱいだったから。
「そうだな・・・、まなはどうしたい?」
俺はこういうことにセンスがない。まなに任せたほうがいいだろう。
「ここは無難にお互いのイニシャルでいいのでは?それに、石がついていないといってもデザインはだいぶ凝っていますし」
「じゃあそうしよう」
そうして俺たちは指輪に掘る文字を決めて、会計を終わらせた。
「こちらの作業はとても精密な作業になるので二時間ほど時間をいただき、その後お渡しとなります」
「わかりました」
「さて、まだ上映時間まで時間がありますが、どうしますか?」
「そうだな~」
時間を確認すると、今は大体午後の二時半。上映時間まではまだ一時間半ほど時間があった。
そこで、俺のスマホに着信が来た。
「ん?誰だ?」
そう思いながら画面を確認すると、相手は亮太だった。
「ごめん亮太から電話だ。ちょっとでてもいい?」
「私に確認を取る必要はありませんよ。それに工藤くんは友達なんですから、早く出てあげないと」
そう催促されて俺は言われた通り亮太の電話に出た。
「もしもし?」
『あ、もしもーし。お前いま暇?学校が早く終わったからさ、どっか遊びに行こうぜ』
「あー、ごめん。今日は無理だ。まなと街まで出てきてるんだよ」
『まじか~。なんかクラスのみんなでカラオケ行くらしいからお前も誘おうと思ったんだけどな。ていうか周りの女子たちに誘えって言われたんだけどね』
「それなら俺はどっちにしろ行かないぞ」
『あははっ、まあそうだよな。なんとなくわかってた、だって空だし。で、今街にいるんだっけ?それなら気をつけろよ。今日俺たちが行く場所もそっちのほうだから』
「わかった。用事はそれだけか?まなをまたせてるからもう切るぞ」
『あ~待て待て。一つだけ報告があるんだよ。来月学校祭があるだろ?その実行委員にお前とまなさんが選出された。というよりも押し付けられた』
「は?」
『いやー、俺は止めたんだけどさ。今日休んだやつが悪いって流れになってどうしようもなかったんだよ。これに関してはまじで悪いと思ってる!それじゃあ切るぞ。またな!」
「あ、おい!ちょっと・・・。くそ、切られた」
「どうかしたんですか?」
「あー、なんか俺たち二人が今日学校を休んだからっていう理由で学校祭の実行委員を押し付けられたらしい」
最悪だ。
俺は人前に立つのが苦手だっていうのに。
それに、俺だけならまだしもまなまで無理やりやらされるなんて。
「いいんじゃないんですか?」
「え?」
「確かに押し付けられたのは嫌ですが、これは学校でも私達が会話をする口実になりますから」
確かに。
俺たちは今、関係が周りにばれないように誰かの前では一緒にいないようにしているが、これからはそれを気にする必要がなくなる。
「確かにそう考えると悪くないな。でもまあ今はそんなこと忘れて遊ぶか!」
「ふふっ、そうですね。私、ゲームセンターに行ってみたいです」
「それじゃあ行こう。まだ時間はあるし好きなだけ遊ぼう」
そして俺たちは近場のゲームセンターへ向かった。
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