第27話

新村さんとの一件を終えて、俺達は映画館に足を運んでいた。


「みたい映画ってなんていう映画なの?」


出発の前にまなが見たいと行っていた映画。


昼食中も少し気になっていたが、他の話で盛り上がっていて、結局聞くことができなかった。


「最近上映が開始されたものなんですけど、クラスでも結構話題になっているんですよね。涙腺が崩壊するーってみんな言ってるんですよ。それで気になってるんですけど」


確かにそれだけ聞けば少し内容が気になってくる。


「どういう感じ?」


「第二次世界大戦のお話なんですけど、戦争中に捕虜にされてしまった日本人の人生を映画にしたノンフィクションのお話らしいです」


「なるほど。確かにそれは泣きそうだね。俺もなんだか楽しみになってきた」


その後もまなは、この映画についての情報を教えてくれた。


その話を聞いていると、本編が面白いのとは別に、エンディングの曲がすごいらしい。


本編の内容とエンディングの歌詞がとてもマッチしていて、二段階に渡って視聴者をなかしに来るということらしい。

聞けば聞くほど興味が湧いてくる。


「それじゃあチケットを買って、あとポップコーンとかも買おうか」


「そうですね。早くしないと次の時間のチケットが売り切れてしまいます」


「そんな急がなくても大丈夫じゃない?今日は平日なんだし」


「空くんはわかっていませんね。この映画はものすごく人気なんですよ?そんな悠長なことを言ってる暇はないのです」


そう言ってまなは足早にチケット売り場へと向かってしまった。


なんだか今日は小さいこどものようだな。それもまた可愛いんだけど。


そんなことを考えながらまなを追いかけると、まなと店員の会話が聞こえてきた。


「すみませんこのあとの上演はもう席が埋まってしまいまして」


「そうですか・・・」


「どうしたの?」


「やはりもうチケットが売り切れてしまったようで。ちなみにその次はいつからなんですか?」


「次の上映は、えー、四時五分からです」


「そうですか・・・だいぶ時間が開いてしまいますね」


まなは明らかに落胆した顔をしていた。


まあ、三時間待てって言われたらそうなるよな。


「いいんじゃない?三時間ぐらい。その間何もできないわけじゃないしさ。店員さん、そのチケットでお願いします。席はー、ここで」


「かしこまりました。学生限定のクーポンなどございますが、ご利用になられますか?」


「はい。お願いします」


「それでは学生証の提示をお願いいたします」


俺はポケットから財布を出して、学生証を出した。


まなは学生証を普段学校に持っていく用のかばんに入れているので、出さなかった。


「彼女の方はないので俺だけで大丈夫です」


「そうなんですね。あ、今回は特別におふたりとも適用にしておきますよ」


「いいんですか?」


「はい、それではお会計が二千円になります」


そうして俺らはチケットを購入して映画館の外に出た。


「さて、結構時間はあるしとりあえずなにか買い物でもしようよ」


「そうですね、購入が間に合わなかたのは仕方ないですから」


まなの機嫌も随分と良くなったようだ。


ここで俺はふと疑問に思った。


「そういえばさ、まなの誕生日っていつなの?」


そう、誕生日。俺たちは結婚しているのに、お互いの誕生日を知らなかった。


いや、まなは俺の誕生日は知っているかもしれないけど。


「確かに言ってなかったですね。じゃあ、当ててみてください!ちなみに誕生月は十月です」


「十月か。う~ん、十八とか?」


「お!」


「え、正解?」


「いえ、違います。正解は二十七日でした」


「う~、俺のことからかったな?」


「ふふっ、いつもやられているからお返しです。空くんはいつなんですか?」


「俺?俺は四月九日だよ」


「そうなんですね。いいこと聞きました。これからの誕生日はお互いにお祝いですね」


「そうだね。いまから楽しみだよ。さて、俺ちょっと行きたいところあるんだけどいい?」


俺が行きたかった場所。それは指輪ショップだ。


俺たちの結婚はアクシデントから発生したものだったため、指輪や結婚式など、それらしいものを何もできていなかった。


「どうしてこんなところに?」


「まなに指輪を買いたくてさ。学校にはつけていけなくても、まなには持っておいてほしいんだ」


「でも。指輪は高いじゃないですか。そんな高価なもの受け取れませんっ」


「大丈夫、言ったでしょ?三年生の最初まではずっとバイトで貯金をしてたんだ。そこまで高いもんじゃなければちゃんと買えるよ。それに生活費は両親に頼ってるから、俺の貯金はこういうところで使わないと」


「でも・・・」


「俺がまなにもらってほしいんだよ。それじゃだめ?」


「いえ・・・それじゃあいただきます。ありがとうございます」


「どういたしまして」


俺は前々から指輪を買おうとは思っていたので何度かここに足を運んでいた。


どれぐらいかというと店員に顔を覚えられるぐらいに。


「いらっしゃいませ、また来たんですね。今度こそ選びきりましょうね」


なぜそんなに覚えられたのか。


それは俺が優柔不断であることが災いして、ずっとどれにするか迷い続けてきたのだ。


「今日こそ決めますよ。そのために彼女を連れてきましたから」


「あら、この子が例のかわいい新妻さんですね。お話の通りとても可愛らしいですね」


「ちょっと!店員さんにどんな話をしたんですか!」


どんなって、普段のまながどれだけ可愛いかを説明し続けただけなんだけど。


「まあまあ、せっかく奥さんがいるならもう決めてもらいましょう。実は旦那さんは二つの指輪で迷っているんですよ」


そう言って店員は例の指輪をもってきた。

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