第26話

「に、新村さん。どうしてここに?」


俺が言うのもおかしな話だが、今は学校にいるはずの時間。

それなのにどうして彼女がここにいるのだろう。


「あ~、今日は寝坊しちゃってさ。もう行くのめんどくさくなっちゃって。もういいかなーみたいな感じ。天心くんはどうしてここに?見たところだいぶおしゃれしてるみたいだけど」


しまった。確かにはたから俺はそう見えているはずだ。


なんて答えよう・・・・・・。


いや、ここはあれをやるしかないか。


伝家の宝刀、逃走!


「あ、俺このあと用事があるから。それじゃ!」


「あ、ちょっと!天心くん?!」


俺は後ろから聞こえる驚きの声を無視し続けて、ひたすら帰宅を急いだ。


新村さんと会った場所がすでに自宅の近くだったため、思いの外早く到着することができた。


エントランスの前で息を整えてから、ポケットからキーカードを出して機械でスキャンをしようとしたその時。


「ちょっと、なんで逃げるのさ」


・・・・・・ん?


後ろから聞き馴染みのある声がした。


振り向いてみると、やはりそこには新村さんがいる。


「え?なんでここに?いや、え、追ってきたの?」


「いや、だって話してる途中に走り出したら流石に気になるでしょ」


よく見ると彼女は、とても息を乱していた。


「いや、それでも家まで追ってくるなんて」


「んー、まあ確かにそれはやばかったかも。ごめんごめん」


何なんだこの人は。


普通に理解できないのだが。


ーーーーーーーーーーーーーーーー

ここまでは良かった。


だがここで、まさかの予想外が起きるとは。

ーーーーーーーーーーーーーーーー


「そ、それじゃあ俺はこれで。新村さんも気をつけて帰ってね」


そしてエントランスのドアを開けようとしたとき、なぜか俺が操作するより先にドアが開いた。


そしてそのドアの先にたっていたのは・・・・・・。


「あれ、おかえりでしたか。ちょっと遅かったので迎えに行こ・・・・・・え?」


そう、まなが出てきたのだ。


最悪だ。


「あれ?若井さんじゃーん。どうしてここに、ていうか今空くんとか迎えとか・・・・・・」


これはもうごまかしようがない。


どうしよう。


「なあ、新村さん。ちょっと上がっていきなよ。まなもいいだろ?」


ということで新村さんを自宅に招待したわけだが、もしかして俺って自分で墓穴ほってる?

もしかしたらごまかすこともできたんじゃないか?


「なあまな、これはもうしょうがないよな・・・?」


「そ、そうですね。あそこまで見られてしまってはもう。それに家の中にまで入ってしまったわけですし」


どうやら逃げ場はなさそうだ。


「それじゃあ新村さん、とりあえずあそこに座っておいてよ。今飲み物だすからさ」


俺は新村さんをリビングへと誘導して、自分はキッチンへと向かう。


俺とまなは今買ってきたコーヒーがあるので、新村さんの分だけお茶を用意し、リビングへと向かった。


「おまたせ、これよかったら飲んでよ」


「ありがとー、それじゃあ遠慮なくいただきます」


さて、どこからはなそうか。


ちなみにまなは俺の隣にひょっこりと座っている。うん、こんなときでもかわいいな。


って、いかんいかんこんなことを考えている場合ではない。


「ねー、天心くんはどうして若井さんと一緒に住んでるの?」


彼女からの質問はまっすぐだった。


これはもう本当に正直に話すしかなさそうだ。


「俺さ、ずっとまなのことが好きだったんだけど、ある日噂を聞いたんだ。石井がまなを狙ってるっていう噂。それを聞いたときはもうさ、この世の終わりってぐらいの絶望を感じたんだ。でも、俺だって男だからさ、まなとお付き合いできたら、なんて妄想は何回もしてたわけで。これは俺も告白するしかないって思った。でもいざその時になるとさ、緊張で頭が真っ白になっちゃって、なんでかわからないけどプロポーズになっちゃったんだ。そしたらなんでかまながそれに応えてくれて、晴れて夫婦になった。とりあえずはそんな感じかな」


「ふふっ、あのときは驚きました。でも、嬉しかったんです。ここまで真剣に好意を向けてくれる人はいませんでしたから。みんな結局は私の体を見ていましたが、彼は違いました。最初から最後まで私の目だけを見てくれていたんです」


「へ~、なるほどね。それはわかったけど、ぷはっ!告白しようとしてプロポーズってどういうこと!面白すぎでしょ!」


「おい、あんまり馬鹿にするなよ!俺だって自分がいかに馬鹿なのかはわかってるんだから」


「はー、ごめんごめん。面白すぎてつい」


「それでな、新村さん。ここからはお願いなんだけど」


「あーわかってるよ。周りには言うなって言いたいんでしょ?だいじょーぶだよ絶対に言わないから」


「そ、そうか。ありがとう」


意外と物分りがいいやつなのか?


「それよりさ、ふたりとも随分とおしゃれしてるみたいだけど。これからお出かけでもするの?」


「あ、ああ。今日は学校を休んじゃって一日暇だし。最近一緒にでかけてなかったから、久しぶりに遊ぶんだ」


「へー、楽しそうだね。それじゃあ私はそろそろお暇するよ。あ、見送りもいらないから玄関まででいいよ」


「わかった。それじゃあまた学校でな」


「うん、またね。若井さんも」


「はい、また」


そうして新村さんは一人で帰っていった。


「ふ~、まさかこんなことになるなんてな」


「すみません。私が変に外へ出たりしたから」


「いや、まなは何も悪くないよ。これはまあ、しょうがなかったんじゃないかな」


「ふふっ、それもそうですね。それじゃあそろそろ私達も行きましょうか」


「そうだね、意外といい時間になったみたいだし」


気づけば時刻はすでに十一時を回っていた。


「お昼は何食べたいとかある?」


「そうですね、お寿司でも食べに行きますか?最近はずっと自炊で節約してきましたし、今日ぐらいは少し奮発してもいいのでは?」


「わかった、それじゃあ近くの寿司屋に行ってから、街に行くか」


「なにか行きたいところはあるんですか?」


行きたいところか。うーん、特にないな。


「まあブラブラしてればなにかあるかなって思って。まなはどこかあるの?」


そう聞くとまなは少し考えたあとに、元気よくこういった。


「みたい映画があるんです!」

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