第11話


「おまたせ〜、ごめんちょっとゆっくりしすぎちゃった」


「いえ、大丈夫ですよ。私が時間より早く出てきてしまっただけですから」


「そう言って貰えるのはありがたいけど、またせたことに変わりはないからさ、コーヒー牛乳奢るよ」


確か、自販機がすぐそこにあったはず。


まなにはここで······いや、まなも連れていこう。


「すぐそこに牛乳とか売ってる自販機があるはずだから、そこで買って部屋に戻ろうか」


「はい!」


さて、部屋に戻ってきたけど、何もすることがないな。


「まな? その、浴衣! とても似合ってるよ」


「あ、ありがとうございます//」


流れで褒めてみたものの、中々恥ずかしいな。


世の中の陽キャたちはなんでこんなことが容易くできるのだろう。


「あの! ゲームやりませんか? せっかく持ってきたんですし、テレビもありますから」


「そうだね。やろうかゲーム」


そう言って僕達はカバンからゲーム機を取り出して配線を繋げる。


「何がやりたい?」


「そうですね······初めてやるので、1番簡単なものがいいですね」


「それじゃあ、これかな! 簡単なレースゲームだよ」


「レースですか。空くんには負けませんよ?」


「お! 言うね〜。それじゃあ賭けでもする?」


なんて言ってるが、ただの冗談だ。


初心者に対してそんなことをするほど僕は腐っていない。


「やりましょう」


「え?」


「内容はどうしますか?」


「いやいやいや、ほんとにやるの?」


「えぇ、あ! ちなみに手加減はいりませんから」


まじか。


手加減なしの僕とやったらこの子泣いちゃわない?


どうしよ〜。


「ほんとにいいの?」


最後にもう一度確認すると、まなは深く頷いたので、僕は渋々勝負を受け入れた。


「賭けの内容はどうしようか」


「そうですね〜、それでは、負けた方は勝った方の言うことをなんでも一つ聞く。これで行きましょう」


「オッケー。手加減話だからね。痛い目見ても知らないよ?」


「望むところです」


そうして僕達はゲームを始めた。


結果は······もちろん僕の圧勝。


まなはコンピューターにボコボコにされて、最下位だった。


「それじゃあ、どうしようか」


「賭けは賭けです。約束通りなんでも言ってください」


「そ? じゃあね〜、その敬語! やめようか」


「え?」


「敬語ってさ、やっぱり距離を感じるんだよね、まなにその気がなくても。だから敬語禁止!」


「なるほど、わかりました。······あ、む、難しい、な?」


「まぁ少しづつ慣れていけばいいさ。ただの無茶ぶりだからね」


そうして僕はまなとの距離をより一層近づけるのだった。


その後も僕達はゲームを続けていたが、途中で夜ご飯が運ばれてきた。


「これは美味しそうだな。まな? どうしたの?」


「いぇ、なんでもないです。あ、いえ、なんでもない。ただ1回も空くんに勝てなくて悔しかっただけ」


やっぱり可愛いな〜。なんでこんな悔しがってる姿がそれだけで絵になるんだろう。


「まなは初心者だからね。仕方ないところもあるよ。気にしないでご飯食べよ?」


「······わかった」


そう言ってまなは僕の隣にベッタリとくっついてきた。


これだけ拗ねててもなんだかんだこうして来てくれるのがまた、なんとも言えない気持ちになる。


「まな?」


「なんですか」


「可愛いよ」


「ーーっ!! もう! なんなんですか! 人のことからかわないでください!!」


そう言ってぺちぺちと太ももを叩いてくるが、これもこれで可愛いものだ。


「敬語になってるよ?」


「あ、そ、その、私をからかうのはやめて! 私が空くんをからかいたいのに!」


「お? それはどう意味かな?」


「あ、今のは〜、忘れて?」


「そんなの無理かな〜。僕のことをからかうのか。そんなことできなくなるくらい僕が今からまなのこといじめてやる!」


僕はまなのことを膝の上に乗せて、頭を撫で、耳元で愛を囁いた。


愛を、恥ずかしー!!


でも楽しいからいいや。


かれこれ五分ほど経過したところで、まなからギブアップの声が出た。


「これに懲りたら僕のことをからかおうとはしない事だ」


「む〜。空くんだけずるい」


「僕は別に故意的にからかってるわけじゃないからね。あくまでも本心が出てしまって、それをまなが恥ずかしがってるだけだから」


僕はまなの事を膝から下ろしてもう一度頭を撫でる。


「頭を撫でれば許して貰えると思っていませんか?」


「だめか?」


「いえ、私は許してしまいますね······」


「あとさ、やっぱり敬語は買変えなくていいや。敬語の方がまならしくて落ち着く」


そうですか、と言ってまなはご飯を食べ始めた。


僕も食べるか!


「ねぇまな。帰ったらさ、まなを育ててくれた人に会いたいな」


そう言うとまなは分かりやすく動揺を見せる。


「······どうして?」


「やっぱりさ、挨拶は必要だと思うんだ。それに、まなを育ててくれたお礼を言いたいしね」


そして、まなの両親のことも。


「わかりました。今度連絡してみます」


「ありがと。助かるよ」


この時僕はまだわかっていなかった。


まなの家族の問題が、想像以上に重大だということに。

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