第10話

やばい、もう十分もまなのことまたせちゃってる。はやく戻らないと・・・・・・」


僕は急いでまなのところに戻ったが、そこで驚きの光景を目にした。


まなの回りにいるあの男達はだれだ? まなの知り合い、という感じでも無さそうだ。


その時、かすかにまなとその周りの男の声が聞こえてきた。


「困ります。今は人を待っていますし、迷惑なのでやめてください」


「え~? いいじゃんちょっとぐらい。さっきから人待ってるとか言ってるけど来る気配ないしさ~」


ナンパだ。そう理解したときには、僕はすでに走り出していた。


「まな! ごめんねまたせて。大丈夫? 怪我はない? なにか嫌なことされなかった?」


「なんだよ彼氏いたのかよ。クソ、変な期待させやがって」


僕が駆けつけると、男達はそう言い残してその場を去っていった。


「まな? 本当に大丈夫? 顔色わr・・・・・・え?」


まなが抱きついてきた。


僕の背中に回された手は小刻みに震えている。


それだけ怖かったのだろう。


「遅いですよ空くん。私がどれだけ待ったか・・・・・・」


「うん、ごめん」


僕はそう言ってまなを抱きしめ返す。


「怖かったです」


「ごめん」


「どこにいってたんですか」


「クレープ買ってたんだ。まなが食べたそうにしてたから」


ギュッ。


「じゃあ許します。でももう少しこのままでいさせて下さい」


「いくらでもいいですよ。僕からしたらご褒美だからね」


「もうっ」


それから数分が経過してまなが落ち着いたところでクレープを渡した。


「グランドチョコレートバナナホイップクレープていうんだってこれ」


「随分と長い名前ですね。とても美味しそうです」


「よろこんで貰えたならよかったよ。まなに怖い思いをさせてまで手に入れたクレープだからね。このあとはどうする?」


「疲れてしまったので、旅館に直接行ってもいいですか?」


「もちろん。それじゃあこれを食べ終わったら行こうか」


先程のナンパでまなは疲れてしまったらしい。


まぁあんなに怖い思いをしたんだから当然と言えば当然なんだけど。


それから約十分、僕たちはクレープを食べ終わり、旅館に向けて出発していた。


「あ! 奥に見えてきてる建物じゃない? 僕たちが泊まるのって!」


奥に見えている和風で趣がある建物、その正面には行書で、


旅人の憩い


と書かれていた。


「そうですね。早く行きましょうか」


まなは本当に疲れているようで、あまり大きなリアクションをしなかった。


「そうだね。早く行ってゆっくり休も」


そう言って僕達は黙々と旅館を目指し、ついに到着した。


「ようこそいらっしゃいました。私はここの女将を務めております、佐々木と申します。こちらへどうぞ」


旅館のドアを開けると、目の前には佐々木という女性がたっていた。


「当旅館のご利用は初めてでございますか?」


「はい、初めてです」


「そうですか。当旅館はお客様の安息を第一に考えています。ですので、もしなにか要望があればいつでも仰ってください。すぐにお答え致しますので」


「わかりました。それでは早速部屋に案内してもらってもいいですか?彼女が少し疲れているもので」


「かしこまりました。こちらにどうぞ」


僕達は彼女の後ろをひたすら着いて行く。


それにしても、いい雰囲気の旅館だな。


和風がとても強くて、始めてきたのにどこか懐かしさを感じさせる。


まなは大丈夫かな?


そう思い横を向くとそこには、キラキラした目で辺りを見渡すまながいた。


よかった、少し元気を取り戻してくれたみたいだ。


「こちらが今回宿泊していただくお部屋になります。私共は基本カウンターにいるので、何かあればそこまでお越しください。それではごゆっくり」


女将がいなくなったところで、僕達は部屋に入り、とりあえず座った。


「大丈夫?あまりにも疲れが酷いんだったらもう寝た方がいいんじゃない?」


「いえ、そこまででは無いですよ。それに今寝てしまったら空くんと一緒にいられる時間が少なくなる気がします」


あぁ、やっぱり可愛いな。


「そっか。それじゃとりあえず今はくつろいで、もう少ししたらお風呂に入ろうか」


「そうですね。楽しみです」


その後二時間ほど僕達は談笑したり、テレビを見たりして過ごした。


「そろそろお風呂に行く?いい時間になってきたし」


「ぜひ! 少し休んで体も回復しましたし、とても楽しみにしていましたから」


「それなら早く行こう。多分この時間になると少しづつ人が増えていくだろうからね」


そう言って僕達は着替えなどの荷物を持って大浴場へと移動した。


「それでは、一時間を目安にここに集合しましょうか」


「了解。ゆっくりお湯に浸かっておいで」


「はい、では」


僕達は大浴場の入口の前で別れて、それぞれ中へと入っていった。


僕は服を脱いで、早速浴場に入る。


「お〜。すごく広いな」


これは凄い。どれぐらい広いかと言ったら、小学校のグラウンドの半分ぐらいの大きさだ。


それじゃあ分からないか。


えーっと、あ! 普通の銭湯の2倍程の大きさだ!


うん、我ながらいい例えだ。


さて、体を洗って早く入ろう。


「ふぅ〜、癒される〜。まだ誰もいないみたいだし、貸切最高〜!」


まなもゆっくりできてるかな。


今日は色々あった。


まなの地雷を踏んだり、説教されたり、ナンパされたり······、うん、全部まなの事だな。


二人で来てるから当たり前なんだけど。


それにしても、ではある。


僕がいかにまなのことを好きなのかを今自分で理解した。


僕はまなにゾッコンだ。


でも今は僕一人だ。


今ぐらいはまなのことを忘れてゆっくりしよう。

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