第3話

朝だ。朝が来てしまった。


こんなに憂鬱な朝は人生で初めてかもしれない。


なぜこんなに憂鬱なのか、答えは簡単だ。


僕が振られる日だから。


学校行きたくないな、このままもう一度眠りに落ちてしまおうかな。


そう思い僕はもう一度目を閉じようとする、しかし母さんがそれを拒んだ。


「空!早く起きなさい。何時だと思ってるのよ」


はぁ、どうやら神様は僕のことを甘やかしてはくれないらしい。


「おはよう母さん」


そう言って僕は仕方なくベッドから体を起こす。


「ほら、早く顔洗ってご飯食べてしまって」


母親に催促されて洗面所へ向かう。


あぁ、眠い。


いつもはぬるま湯だが今日は冷水で洗おう。


顔を洗い寝癖を直して僕はリビングへ向かった。


「朝ごはんもう出してあるから。早く食べないと遅刻するわよ」


「うん。いただきます」


我が家はいかなる状況でも毎日三食必ず食べる主義だ。


だから今日みたいにいつもより起きるのが遅かった日でも朝ごはんだけはしっかり食べる。


ピンポーン


「はーい、今出ます!誰かしらこんな朝早くに。ちょっと空、対応してきてくれる?」


「あいよ」


「今開けまーす」


ガチャ


「あ、おはようございます天心くん」


、、、、、、、、、へ?


ドアを開けるとそこにはなんと、件の彼女、若井さんがいた。


どういうこと?なんで家に来たんだ?


確かに朝話しかけるとは言ってたけど、、


「あの〜、天心くん?どうかしました?」


「あ、まさか家に来るとは思ってなくてびっくりしてる」


「なるほど。確かにそうですね。こんな朝早くに自宅を訪ねてしまい申し訳ございません」


「いや、いいんだ。それでどうしたの?」


「昨日の件でお話に来たのですが、今ご両親はいらっしゃいますか?出来ればご両親も交えてお話したくて」


は?どういうこと?なんで僕を断るのに両親が必要なんだ?


あー、そうか。僕がしたことって人生に関わることだからだ。


うん。きっとそうだ。


「2人ともいるよ。あ、とりあえず上がって!リビングまで案内するよ」


「ありがとうございます。お邪魔致します」


そう言って丁寧に靴を揃えて彼女は家に入ってくる。


「母さん、父さん、ちょっと話があるんだけどいい?」


「あらあら、その可愛らしい子はどうしたの?もしかして彼女?!あら〜!大変!!お話って何かしら?なんでも話しなさい?!」


「母さん落ち着いて。僕から話してもいい?若井さん」


「はい。大丈夫ですよ」


まさか、こんな展開になるなんて。


なんでこんなことに、、、


そんなことを思いつつ僕は昨日起こった出来事を2人に話す。


途中から二人ともにやにやしているがどうしてだろう。


「それで彼女が来たってわけ。プロポーズって人生に関わることだからさ、振るにしても両親がいた方がいいって考えたっぽい。僕はよくわかんないけど」


と、僕がひと通り話し終えたところで隣から服をつままれる。


「あの、私振るなんて一言も言ってないんですけど?」


「は?」


「だから、振るなんて言ってないです!私プロポーズ受けるためにここに来たんですよ?」


え?若井さんが?僕のプロポーズを受ける?


つまり結婚?


え、いや、どういうことだ?


やばい思考が追いつかない。


そこで、僕より先に口を開いたのは母さんではなく父さんだった。


「空、君は彼女のことを幸せにできるかい?」


「えっと、、、ごめんちょっと待って欲しい、頭が追いついてないんだ。ずっと振られると思ってたから」


「いや、今すぐ答えなさい。君は彼女を幸せにできるのか?」


幸せにできるか、そんなの分かるわけないじゃないか。


「空?」


「分からない。もう一回言うけど、僕は今頭が追いついていないんだ。でも、本当に結婚したら僕は出来る限りの手を使って二人で幸せを作りたい。彼女を幸せにできるかじゃない。二人でだ」


「そうか。母さんはなにか、、っていきなりのことすぎて放心してしまっているね。えーとあなた、お名前をお伺いしても?」


「若井真奈と申します」


「真奈さん、空ははっきりいってなんの取り柄もない男だけど君はそれでもいいのかい?」


「彼はたくさんの魅力で溢れていますよ。私は去年からずっと彼のことが好きでした。だから最初は驚いたけど、それでも嬉しかったんです」


「そうか。空、彼女のことは大切にするんだぞ?真奈さん、こんなダメ息子ですがよろしくお願いします」


「ちょ、ちょっと待った!若井さん、ほんとにいいの?」


プロポーズした身で言えることではないが、なにかおかしくないか?


「えぇ、いいですよ。その証拠にほら、私はもうサインしてきました!」


そう言って彼女はカバンから何かを取り出し僕に見せてきた。


その紙の隅にはこう書いてあった。


婚姻届


そこで僕は理解した。彼女は本気なのだと。


「そっか、、はぁ〜。なんか力抜けたよ。昨日の夜から僕ずっと緊張してたんだ。振られたくないって考えてさ」


「私は振りませんよ」


そう言って若井さんは優しく微笑んだ。


「えっと、若井さん。ふつつかものですが、よろしくお願いします」


「こちらこそ、よろしくお願いします」


これからどうなってしまうんだ僕の高校生活は、、、、、、、、、


まぁいいか。まだ現実味はないけど、それでも僕は幸せを掴んだんだから。

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