好きとたしかに言った彼
氷桜
第1話
「俺、お前とずっと一緒に居たい。だってお前のこと好きだもん」
ザアザアとさざめく波ばかり聞こえ、その他は雑音となった浜辺で彼は確かにそう言ってくれた。
なのに半年が経った今は、彼の隣で知らない女が笑っている。今も、という方が正しいかもしれない。好きじゃなくなったのならさっさとそう言って離れてくれればいいのにな。
彼と出会ったのは高校の入学式の日。隣の席にいた彼は話しかけてきてくれた。「名前なんて言うの〜?どこ中?」って。その時は恋に落ちるなんて思っていなかった。だって全然タイプじゃなかったもん。彼は背も高くてかっこいい系だし、抱きしめたくなるかわいい系とは似ても似つかなかった。
彼は休憩時間になる度に話しかけてきてくれた。話してた話題はあんまり覚えてない。覚える必要も無い他愛のない話だったから。唯一、同じ中学校の人がいなくて一人ぼっちにならないか心配してたときだったから、話しかけてくれる度、あぁ一人じゃないって安心してたことはよく覚えてる。でも、部活も違うし、帰る方面も真逆だったから、休憩時間以外で話すことはなかった。
中間テストが終わって席替えが行われた。そこで彼との関係は切れたと思ってた。特に大事なことを話してたわけでもないし、わざわざ隣じゃないのに話しかけてこないとそう思ってた。なのに彼はまだ話しかけてくれてた。毎時間とはいかなくてもお昼は毎日一緒に食べてた。
もう一度席替えが行われて夏休みに入ろうとしていた頃、海に行かないかと誘われた。友達と海に行けるというのが嬉しかった。日程を決めるのも待ち合わせをするのも何もかも初めてですごく楽しかった。新しい水着も買ったし、体を引き締めたりもした。その海で彼は満点の笑顔でこう言った。
「俺、お前とずっと一緒に居たい。だってお前のこと好きだもん」
そう言われた時、彼のことが好きなんだと、今日感じたドキドキは恋なんだと理解した。あまりの突然さに何も言えなかったけど彼は何事も無かったかのようにまた泳ぎだした。
15時ですという放送が鳴って、そろそろ帰ろうということになった。着替える列に並んでいる時も彼は絶えず話しかけてくれて苦痛を感じさせない紳士っぷりを発揮する。着替えた後は駅まで一緒に歩いて解散となった。
SNSを見れば男友達と夏祭りに行ってたり、家族で旅行に行ってたりしてるのはわかったけど、海に行った以降、彼と遊ぶのはおろか連絡を取ることさえなかった。
夏休みが明けても彼は変わらず話しかけてくれた。あの時、ハッキリ返事しなかったことに怒っているかと思ったが特に気にしてないみたいだった。
彼を好きになって気づいたことがいくつかある。ひとつ、鞄にマスコットがついていること。最近話題になっているアニメのキャラクターだと思う。意外に可愛いところもあると内心微笑んでいるのは内緒。ふたつ、彼はとてもモテるということ。放課後、しょっちゅう呼び出されては告白されている。
けど、彼がその告白を断ってないと気づくのはそう遠くなかった。まあ実際、断ってないわけではなかった。告白してきた女の子を家に連れ込んでいただけで、彼女にしてはなかったから。それでも彼は好きだと言ってくれるし、肯定も否定もせず、笑っているだけでも何も言われなかった。だから口出ししなかった。する権利すらなかった。
文化祭も一緒に回ったし、彼の家に行ってテスト勉強したし、ハロウィンは吸血鬼のコスプレして似合ってないって笑いあったし、一緒に初詣に行っておみくじを引いたりもした。乾いた空気の季節に湿気を感じさせる彼の笑顔は、流れる日々の中でも記憶から消えることはなかった。一方で、彼の行動が変わることもなかった。
2月になって世の男子はそわそわしだす頃かもしれないが、その日が来る前に彼は「こいつ、俺の彼女」と少し、ほんの少しだけ顔を赤らめて紹介してきた。ついにこの日がきてしまった。ずるずるとこの関係を引き伸ばしてきた罰だと思ったが、彼が空けてた1番が埋まるとやはり心にくるものがある。
彼の言ってくれる好きはラブじゃないってわかってた。女の子と同じ土俵に立ててすらないのに、逆チョコかなとか悩んでたのがバカみたいじゃん。
なんで「俺」じゃダメなんだよ。
好きとたしかに言った彼 氷桜 @HiiragiHio
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