第33話 十和(とわ)&沙月(さつき)1
「おかしいよ!
沙月(さつき)ちゃん!」
私の友人、坂田十和ちゃんがお昼のお弁当を食べながら怒りを露わにする。
「何がおかしいのかな、十和(とわ)ちゃん?」
このところ不満ばかり口にする十和ちゃんを宥めるのが私の仕事だ。
「正くんと仲良くしたいのに全然うまくいかないのよ!
っていうか、話も出来ないの!!」
十和ちゃんが口からものを飛ばしながら力説する。
「ちょっと落ち着こうか?
駄目だよ、物を食べながら喋ったら。」
私は慣れた手つきでポケットからハンカチを出すと十和ちゃんの口元を拭いてあげる。
「これが落ち着いてられるか!!」
さらにヒートアップする十和ちゃん。
とりあえず十和ちゃんが家から持ってきた水筒を渡して一息ついてもらうことにする。
グビグビ水筒のお茶を飲む十和ちゃんを見ながら、冷静になって考えてみる。
確かにこのところの正くんはおかしい。
背も高く、見た目も良い、頭も普通に良く、スポーツも万能だ。双子のお兄さんより優しく、かなりモテている。
ただ、浮いた話はなく一説には樹くんとのホモ説もあったりして‥。
入学当初は告白されたりしていたが、当の本人がまったく恋愛に興味がなかったので、時間が経つにつれて正くんと付き合おうとする人はいなくなっていた。
それが突然、正くんが岩田渚ちゃんのカラオケの誘いに乗ってしまったのだ。
これにはクラス全員驚かされた。
しかも、その日を境に正くんに言い寄る子が復活してしまったのだ。
さて、問題なのが目の前にいる十和ちゃん。
正くんとは幼稚園からずっと一緒の幼馴染であるのだからチャンスは他の人よりあったはずなのだが‥。
「告白するより、される方がいい!」っとずっと主張してきた結果が今の状況だ。
だから私はずっと同じ事を口にしてきた。
「他の子に取られたくないなら、積極的に自分からいかないと。
とられて後悔するのは十和ちゃんだよ。」
このセリフを十和ちゃんに何十回も言い聞かせたのだが‥。
「でも‥。」
ほら、肝心な所で弱気になる。
「でも‥じゃないでしょ!
正くん、取られていいの?」
このセリフも何度目だろう‥。
「嫌だよ‥。
取られたくない。」
「だったら頑張んないと‥。」
このセリフも言い飽きた。
この後、十和ちゃんは必ずこのセリフを口にする。
『幼馴染しか勝たん!』
アニメか漫画のヒロインのセリフらしいけど、十和ちゃんが好きなセリフだ。
十和ちゃん、物語のヒロインは陰ながら努力してるんだよ。
十和ちゃんも努力しないと‥。
はぁ‥
私はため息を吐きながら十和ちゃんのセリフを待つ。
「沙月ちゃんが正くんに告白してくれない?」
予想外のセリフに私の思考が停止するのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます