第7話 ヤンキー2(風間 慈愛那「じゅあな」)

アイツが心配そうに覗き込んでくる。


距離が近いせいでアイツの顔が良く見えた。


飛び抜けたカッコいいわけではないが好みの顔だ。


!!!!

よく考えたらオレってお姫様抱っこされてない!?


急に恥ずかしくなってアイツの腕の中で暴れ回る。しかし、ガッチリ抱えられているせいなのか降りる事は出来ない。


「おい、誰だよお前!

どっから現れた?

とにかくその女は俺の獲物だからな!

さっさと寄越せよ!」


クソ男が激昂してアイツに詰め寄る。

かなりの迫力だ。

ヤンキーに免疫のないコイツには荷が重いだろうと思っていると、クソ男を睨みつける。


「渡すわけないだろ。」


オレを強く抱き締めながらハッキリと宣言する。


!!!!!


それはまるで悪者から守ってくれるヒーローのようだ。


密かに憧れていたシュチュエーションにドキドキが止まらない。


あっ、ヤバい。

惚れちゃった‥。


「いいから渡せよ!!」


空気のよめないクソ男がアイツに殴りかかってくる。


両手が塞がってる状態で避けられるわけもなくアイツは頬を殴られる。


少しよろけたがオレを落とすことなく立ちつくすが、唇が切れたようで少し血を流している。


「喧嘩の原因がわからないけど、もう気が晴れたでしょ?これぐらいで許してもらえない?」


アイツは臆することなくヤンキーに伝える。


「はぁ?

それで許すわけないだろ!!

許して欲しかったら、あと100回殴らせろ!」


クソ男が馬鹿な事を言ってくるとさらにアイツを殴ろうと近づいてくる。

二発目を殴られようとした瞬間、この状況にそぐわないような声が二人分聞こえてくる。


「あっ、正みっけ!

どこに隠れてるんだよ。

悟をみならえよ、コイツ速攻で捕まえたぞ。」


「やっと見つけた。

この年で隠れんぼとかやめようぜ!

マジ恥ずかしい。」


緊張感のない二人が近づいてくる。


二人とも最初はニヤニヤしていたが、アイツが唇から血を流しているのを見ると態度を豹変させる。


「正、どうした?

ソイツ誰?」


最初の声とは違い、ゾクッとするほど冷たい声で尋ねてくる。


アイツは返答に困ってようで苦し紛れに馬鹿なことを口にする。


「友達。」


あきらかに嘘だとバレバレである。


もう一人の男は冷静に周囲を見渡して状況を把握しようとしている。


「正!

駅前のラーメン屋、メッチャ混んでるから先に行って並んどいて。」


あきらかに怒ってる男がアイツをこの場から追い出そうとしている。


アイツは何かを言いかけるが男の何も言わさない雰囲気に負けたのか、渋々廃工場から出て行くことを選んだ。


「おいおい、何処行く?

まだ話終わってないぜ!」


クソ男がアイツを追いかけようとするが、怒れる男に腕を掴まれ邪魔をされる。


「いいから、大人しくしてくれる‥。

後で好きなだけ相手してやるから。」


クソ男は掴まれた腕を振り払おうとするが、全く動かないようだ。


アイツは一度振り返るが、男に手で追い払う仕草をされてトボトボ廃工場を後にした。


その後、ラーメン屋に何故か俺も連れて行かれるとわりかし早く戻ってきた二人も合流して、四人でラーメンを食べたのであった。



*    *    *    *



翌日、アイツが登校すると少し唇が腫れていて数名のクラスメイトが騒いでいた。


昼休み、昨日見かけた男が近づいてくるとアイツの兄だと挨拶してきた。


「昨日の奴ら、もう二度と近づいてこないから安心して。」


笑顔で話すお兄さんの頬は何故か腫れていた。

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