第3話 結末

約半年後


 

 「俺っちが以前言った、契約の注意点、覚えてる?」



 「えっ、何の事?」



 (あれっ、契約の対価としてその部分の記憶を失ったのか?


 いや、返事はしていたから、記憶は残っているだろうし...)



 「能力の乱用は危険って話!


 君は今必要な記憶にまで影響が出ている状態だから、これ以上の使用は推奨すいしょうしないよ。」



 「でも、能力を使わないと両親に愛してもらえないよ...」



 「そうかもしれないけど、充分良い思いをしたでしょ? 


 引きぎわは大事だから、もう一度考えてみて。」


 

 (といっても、最終的には契約者本人の意思が反映されるから、俺っちが出来る事はここまで。


 さぁ、朱愛あやめがどんな選択をするか、見届けさせてもらおうか。)



     ✴︎ ✴︎ ✴︎



翌朝



 (結局、偽りの愛をとるか、私の安全をとるか、未だ決められてないよ。


 今は継続で能力を使用しているけど、これが正解なのか、分からない...)



 「朱愛? お〜い!」



 「えっ、とおる? どうしたの?」



 「いや、話の途中で急に黙るから、平気かって声かけたんだ。


 それにお前、最近何か変な気がする。」


 

 「何が変なの?」



 「いや、昔の事を話しても覚えてないみたいに返答するから、話してて張り合いがないんだ。」



 (昔って、幼少期の事かな〜。


 確かに、ほとんど記憶が無いね。あれっ、私が思っているよりも今の状態って深刻?


 まさか、融に気付かされるなんて...出来るだけ、能力を使うのをめておこう。)



 「ごめんね、最近物忘れが酷くて...

でも、原因は分かっているから大丈夫だよ。」



 「そう?とりあえず、土日はゆっくり休めよ。」



 「うん、ありがとね。」



      ✴︎ ✴︎ ✴︎


数日後



 (分かってはいたけど、能力を使わないと、お父さんは基本無視してくるし、お母さんは

何かにつけて文句を言ってきて、正直居心地が悪いね。


 でも、融が愚痴ぐちを聞いてくれているし、前の状態戻っただけと考えたら、どうにか耐えられるかな。



 割とお世話になっているんだし、今度融にお礼しよう!


 って、あれ?うわさをすれば...)



 家へと続く一本道のすみに、融と杏奈あんなが二人っきりでいるのを見つけたの。


 気付いて話しかけようとしたけど、融の赤らんだ頬と杏奈のきょとんとした表情を見た瞬間、躊躇ためらったよ。


 

 だって——



 「俺、杏奈のことが前から好きだったんだ! 俺と、付き合って欲しい‼︎」



 「えっ、融君が杏奈を? 


 ...今まで気づかなかったなぁ。あっ、でもこの時期に告白してきた理由は分かるよ。」



 「やっぱりバレてるよな。


 昨日、母さんから杏奈が中学受験に受かって、進学先で寮暮らしするって話を聞いてさ。


 ほらっ、もう三月に入ったし、今伝えておかないと機会を逃すと思って...」



 「へぇ〜良い判断だね。


 多分、進学後に告白してきたら、既に彼氏を作ってたと思うよ。」


 (幼い頃は馬鹿っぽいイメージがあったけど、今の会話を聞く限り、融君って案外ずる賢いんだね。


 まぁ、歳上の彼氏って自慢出来そうだし、OKしたい所だけど、一つだけはっきりさせておかないと。)


 

 「一つ疑問があって、朱愛の事はどう思っているの?


 一緒にいる時間が長いから、好意はあって...みたいなのは無い?」



 「無いんだな〜これが。


 恋愛面はおろか、人間性も大して好感が持てないと思ってる。


 でも、杏奈の姉で、近所に住む同級生って立場もあるから、気にかけてはいたって感じ?」



 「そうなの!? ふふっ、でも杏奈も朱愛と仲良くないから、気を使わなくて平気だから。


 さて、疑問も無くなったし、返事するよ。

これから彼氏としてよろしくね!」



 「おっ、嬉しいな——」



       

       "ダダダっ"


 

 杏奈の返答を聞いた瞬間、耐えられなくなって、その場を後にしたの。



 (別に融を異性として好きだった訳では無いよ?


 ただ、私に親身に接してくれた姿が偽物だと信じたく無いだけ!


 今まで通り、側にいてくれるだけで..)


 

 だから私は、サレオスに尋ねたの。


 「追加契約って出来るかな?願いの内容はほぼ変わらずに、対象を変えて...」



 「う〜ん、一応出来るぞ。


 でも、追加契約は対価も大きくなるとけど、いいか?


 後、状況を考慮すると、二人が付き合っているって部分の記憶を操作する必要があると思うけど...」



 「対価は、どんなものでも受け入れるよ。けど、契約内容に関して語弊があったね。


 唯、中学卒業まで一緒に登下校が出来る様にして欲しいの。


 その為に、私への嫌悪感を好意に変えられるかな?」


 

 (欲張りなのか、弁えているのか...どちらにせよ、俺っちが拒む理由は無いよな。)



 「分かった、その条件で改めて契約しておく。


 ...対価がどんな物になっても、取消しは効かないからな。」

 

      ✴︎ ✴︎ ✴︎



 その返答を最後に、私はサレオスと追加契約をして——



 「おっ、朱愛〜帰ろうぜ!」



 「えっ? 貴方...誰ですか?」



      "バサっ、バサっ"


 「ははっ!気になって見に来てみたら、こんな結果になるなんてな。」



 (契約の対価が、自分と関係のある特定の人物の記憶を失う事だったんだから、これ程無意味な契約は無いね......俺っちは、ただ悪魔としての役割をまっとうしただけだ。それなのに、どうして心が痛むのだろう?)



                 終わり










 



 



 













 


 




 

 



 



 

 


 









 


 




 


 



 




 



 






 







 





 


 



 



 







 









 


 



 








 














 


 

 


 



 

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イツワリの愛を求めて 一ノ瀬 夜月 @itinose-yozuki

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