第2話 契約が生み出す幸福

 「えっ! 願い云々うんぬんの前に、貴方は誰? 何でここに?」



 (聞かないなんて無理だよ。


 だって、ギザギザの翼に頭に生えた角。そして尻尾...これって、悪魔だよね?


 加えて、一見年下に見えるけど、怪しげな紅の瞳に、口元の八重歯やえばも相まって、凄く魅惑的みわくてきで...)



 「はっ? 君がおれっちを呼んだからだろ?願いを叶えて欲しいって。


 まぁ、一先ひとまず名乗っておこうか。」


       "バサッ"


 「俺っちはサレオス、見ての通り悪魔だよ。...ほらっ、君も名乗って!」



 

 「私は、星崎ほしさき朱愛あやめ。名乗ったから、早く本題に入って。」



 「ったく、せっかちだな。


 まず、俺っちが願いを叶えるには、契約をする必要があるんだ。


 俺っちの能力は人の愛情を操る事だから、それたぐいなら簡単だし、対価も少ないかも。


 まぁ、対価の件はさておき、願いの内容は?」  



 (う〜ん、だサレオスは信用出来ないけど、この好機チャンスを逃したら、絶対後悔するよね。

 

 よしっ、一先ひとまず言おう!)



 「父と母に愛されたいの。杏奈だけじゃなくて、私も...」



 「ふ〜ん。それで、期間と程度は?」



 「えっ? 詳しく決めてないけど。」



 「ははっ! 後先考えてないの?」


 

 (やっぱり、人間は愚かで、興味深いな。)



 「分かった、君に合わせてようか。」


       「へっ?」


 「お試しで明日だけ、願いを叶えてあげる。対価は...記憶の一片でどう?」



 「記憶の一部を失うって事? 選べるなら良いけど...」



 「いやぁ〜、ランダムだけど、君が気にしてない事から消えるから、一日位平気さ。


 もしも理想通りなら、今後も使い続ければ良いよ。


 一応、君の意志で止められる様に、一日毎ごとに交換する仕組みにしておくよ。」



 「まぁ、それなら平気かな? よろしくね、サレオス。」



 「オッケー、契約成立っと。さてと、終わった事だし、早く休みなよ。」



 「確かに、夜更かししたら明日がキツいね。シャワー浴びて寝るよ。」 

  

   

    「はいは〜い。」

 


(ふふっ、面白い人間と契約出来たな。明日の反応が楽しみだ。)


     

       ✴︎ ✴︎ ✴︎



翌日の朝


 折角せっかく早起きしたのに、お父さんは家を出た後で、お母さんも身支度で忙しいみたい。


 

 「残念、効果は確認出来ないかな...

って、あれ!


 朝食が二人分用意してあるの、珍しいね。」


 (きっと偶然、だよね?)



 朝食後に日課のランニングを終えて、登校していると、前方ぜんぽうに幼馴染《

おさななじみ》を見つけて——



 「おはようとおる早速愚痴ぐち聞いてもらって良い?」



 「おぉ〜、愚痴?意味分からなくなったら聞き流すけど、それでも良いのか?」



 「うん、一先ず聞いて欲しいの。」



 「まぁ〜聞くだけならオケ。名案出すのは無理だぞ。」



 「融に頭脳面の期待をして無いから平気だよ。それで——


 って感じなの。親も妹も酷くない?」



 「うーむ、普通に褒めれば良いのにとは思うけどな。何で...


 あっ!勝手な予想だと、両親と杏奈あんなは、県大会三位の凄さを分かってないんじゃないか?



 俺も、サッカー部で大会に出た時は、県大会進出しただけで大喜びしたぞ。


 それ位、県はデカい舞台だと思う。」



 「いや、そう言う話じゃなくて...」


 

 (まぁ、融に言い返しても無駄かな。


 というか、予想してた返答とは違ったけど、何か吹っ切れたし、相談して正解だったね。)


 

 「融、ありがと。」



 「もう終わったのか? それなら、今日ゴミ捨て場で見たグラビアの話、聞く?」



 「折角せっかくの良い雰囲気が台無しだよ! それに、私は興味ないし——」



     ✴︎ ✴︎    ✴︎


 下らない雑談をしながら学校へ登校したけど、学校では特にこれといった出来事も無く、夕食前には帰宅する事が出来たの。


 

 (夕食は家族が集まるから、契約の効果が分かるはず!  


 せめて、大会お疲れ様位は言われたいよね。)



 「今日の夕食は普段より豪華よ。何たって、二人のお祝いだからね。」



 「そうだぞ、朱愛は県大会で結果を残したし、杏奈は難関中学のT中にA判定だったからな。


 記念にケーキも買ったから、切り分けて食べよう。」



 (うわぁ〜、お祝いのケーキなんて、久しぶりだね。


 でも、良い部分は杏奈が食べるかな?)



 「あっ、朱愛のはいちごがたっぷりだから、映えそう!


 朱愛、交換してくれない?」


 

(やっぱり欲しいよね。


 勿論もちろん私も食べたいけど、お母さんが譲れって言うだろうし——)



 「杏奈!貴女の分はあるでしょう?均等に切ってあるから、手元にある物を食べなさい。」


        「えっ?」


 (ママが朱愛の肩を持つなんて、珍しいね。それなら、杏奈はパパに頼んで...)


 

 「パパ、どうしてもダメかな?」



 「杏奈、今回は我慢するんだ。


 ...強い意志は受験に合格するために大切な要素だが、日常生活では、我が強いとマイナス評価を受けることもある。


 程々に謙虚でいる事を心掛けなさい。」


 

 「...はい、自分の分を食べるね。」


 

(パパに注意されるのなんて、何年ぶりだろう。


 もしかして、二人とも朱愛に甘くなって、杏奈に厳しくなっているの?


 理由は分からないけど、しばらく大人しくしておいた方が良さそうだね。)



     ✴︎ ✴︎    ✴︎


夕食後、朱愛の寝室にて



 「聞いてよ! 今日、お祝いされたんだよ〜。


 これもサレオスのお陰だね、ありがとう。」



 「まぁ、俺っちの能力を持ってすれば、当然だよ。」



 「そもそも、姉妹平等に扱われるのって、良いよね。喧嘩けんかにもならないし。」



 「平等...か。俺っちも好きな言葉だな。」


 

(悪魔界も平等であったなら、俺っちがどれだけ救われた事か——)


 

 「こほん。それはさて置き、君の記憶は有限なんだから、契約の乱用は禁物きんもつだぞ。」



 「だよね、明日は使わないよ。」



 「了解、それじゃお休み〜。」



 でも、私は翌朝、この選択を後悔したの。


 だって、昨日は凄く優しかったのに、今日は散々冷たい対応をされたんだよ?



 嫌でも昨日の二人の優しさが偽物だったと思い知らされて、耐えられなかったの。



 だから私は、暫くの間、能力を使い続け

て——



                  続く







 





 


 



 



 







 









 


 



 








 














 


 

 


 



 



 






 




 


 





 


 



 






 


 





 



 


 




 

 



 


 


 



 



 



 





 













 


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