第17話 海水浴帰りの客(17、砂浜)


海水浴帰りと分かる様子の客が三人、連れ立って佐和商店に来たのは、夜のことだった。三人は若い男性で、いかにも陽キャという風貌と雰囲気。ろくに落とされていない砂浜の砂が、ハーフパンツから覗く焼けた足やサンダルからボロボロ落ちる。その度、榊の顔から表情が消えた。半分濡れた砂は、サンダル三足分の足跡として店内中マーキングされる。

菫も内心溜息をつきながら、足元も声も喧しい三人を見守っていた。だが、何気なく床を見て、おやと思う。

(裸足の足跡……?)

入口から、サンダル三足分の他に、裸足の足跡が三人についていくように続いていた。菫は店内を見る。客は件の三人だけ。他には誰もいない。よくよく見れば、裸足の足跡も三人と同じ砂で出来ており、同じ砂浜から来たことが予想出来る。嫌な予感がした。散々酒やらつまみやらを買い込み、三人は怠そうにレジへやって来る。榊が対応していたが、隣でサポートしていた菫は、三人の内一人を二度見した。背に、水着姿で全身砂だらけの女性を負ぶっている。彼女はとても楽しげに、男性にしがみついていた。砂まみれの顔は、満面の笑み。足は裸足で、やはり砂まみれ。無論三人は、何も気付いていない。

(あの人が憑いてきてたんだ)

それからは極力、菫は彼らの方を見ないようにした。彼らが去った後、榊が店内の砂を見て溜息をつく。

「足跡多かったよな」

「……一人に、楽しそうな女の人が憑いてましたね。その人のだと思います」

「楽しそうねぇ……」

顔を曇らせる榊に、菫は首を傾げる。

「何かありました?」

「俺にもその女、視えてたけど。ーー負ぶさってた男を、心底恨んでる表情にしか見え無かったから、さ」

二人は自然と、三人が出て行った方を見た。丁度、彼らの乗った車が発進するのが見える。去りゆく車の後部座席。砂まみれの女が、憤怒の表情で男の首を締める横顔が見えた気がしたが、菫も榊も気付かなかったことにした。


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