第12話 『サッカーといじめと大声』

二回戦が始まった。ギリギリまで練習をしていた。松岡も助っ人してくれたし、羽沢も祐介も笹川さんも応援してくれた。



羽沢は食べ物を部員分差し入れてくれたし、祐介は応援してくれたし、笹川さんは石崎さんと一緒にドリンクを作ってくれたり、タオルを用意したりと大活躍だった。



俺は今日に賭けていた。だって、今日は強豪の学校だし。明日なのに以心伝心出来た気がするし、負ける気がしないなぁ!とみんなで自信満々にそう言ってたのだけど――。



「あーー?お前らが今日の相手?俺らは白鷺学園の者だ。よろしく」



そう言いながら男は笑う。……白鷺学園。野球部が一番強い、甲子園常連校ではあるが、サッカーも強い……とゆうか、白鷺学園はスポーツの強豪校だし。



でも――、



「(負けたくない!絶対に!)」



そう心の中でそう思っていると。



「あれ?中村?だよな?」



不意に身に覚えのある声が聞こえてきた。振り向くとそこには……



「久しぶりだなー!元気にしてた?小学生以来だよなぁ?」



久しぶりの声は恐怖の対象であり、トラウマでもあった奴から発せられたものだった。そう、こいつは俺のことをいじめてたやつらの一人だ。




△▼△▼




俺はあいつに虐められていた。俺の小学生の頃は成績が最下位の奴はどんな虐められても文句言えないようなクソみたいなルールがあった。



主犯格の奴は親が金持ちなだけでイキってるようなクズ野郎だった。俺はこいつが作ったクソみたいなルールが嫌いだった。男女に関係なくこいつは殴ったり蹴ったりしてきたりして悪い意味で男女に平等な奴だった。



それが嫌だったから俺は庇った。『こんなもん辞めろ』とか言っていたと思う。そしたらその次の日から成績だとかそんなのは関係なく、殴られるようになったし、虐められた。



クラスのみんなも離れて行った。みんな虐められてる俺を見て見ぬふりしてたんだ。だから俺は助けてくれる人が誰もいない中で耐え続けた。



時には水をかけられ、靴を隠され、トイレに閉じ込められたりしたこともあった。それもこれも庇ったからだ。

もう限界が来た時に先生に相談しようと思ったけど、相手は社長の息子だ。しかも成績は学年トップクラスの奴だ。



先生も見て見ぬふり。結局誰にも相談できなかった。そしてこのまま、虐められる……と、思っていた。だけど――、



「おーい、中村ーー!そっちに行ったぞ!」



そんな声が聞こえてくる。……そうだった。今はサッカーの試合中だった。やばい、ボールがこっちに来てる。頭が真っ白になる。体が動かない……怖い、どうして。今日は勝たないと、いけないのに……。



「前半戦終了ー!」



ホイッスルが鳴ると同時に、俺の元にボールがコロコロと転がっていた。



△▼△▼



あの後、みんなにめちゃくちゃ心配された。特に石崎さんには怒られるかと思ったらめちゃくちゃ心配されて泣きそうになったし……



申し訳ないなぁ……と思いつつも、俺はため息を吐く。



「(……ボールが来たのが終了間際でよかった……)」



間際じゃなかったらきっと俺は失点を防げていなかっただろう。足を引っ張ってたかもしれないし……とゆうか、ぼんやりしている時点で足を引っ張りまくっているし……



「(一旦忘れなきゃダメだよな……よしっ、切り替えよう!!)」




そう思った瞬間――。



「中村ー。先の試合どうしたー?他校から見てもめちゃくちゃ調子悪かったよ?」



また寄ってきやがった。怖い。こいつの声を聞くと、小学生のトラウマを思い出してしまう。あの頃に戻りたくない。戻りたくなんてない、のに。



「本当どうしたー?中村。俺たちがまたしてやろうか?」 



…ドクン、と心臓の鼓動が大きく鳴る。嫌だ。嫌だ。嫌だ。

逃げたい。でも逃げたところで何が変わるわけでもない。怖い。怖くて堪らなくて……でも……。



「中村くん!!」



ギュッと目を瞑ると、声が聞こえた。そこにいたのは――、



「あー?どうしたん?中村になんか用?てゆうか、可愛いね。君。中村のこれ?」



そこには笹川さんがいた。……笹川さんが大声で叫んでいる姿なんて初めて見た気がする。



「中村の彼女なんて、勿体無いよー。俺に――」



何か戯言を言いかけていたけど、その言葉を聞き取る前に俺は笹川さんの手を引っ張って走り出していた。

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