第10話 『夏祭り』

「いやー、夏祭りはいいよね!今年も屋台でたこ焼きとかかき氷とか!」



「食べ物ばっかじゃん」



そう言いながら祐介は呆れ顔だけど、隣にいる松岡は一言も発さず黙っている。めっちゃくちゃ不機嫌そうなオーラが漂ってる……居心地悪っ……。



松岡がめっちゃくちゃ、不機嫌な理由は――、



『あの……やっぱり私帰った方が…?』



「そ、そうね……」



…この気まずい空気になったのも三時間前の俺が浅はかな考えを言ったせいだ。



「…松岡がごめんなー。ほら!松岡、機嫌直せよー?」



「別に機嫌は悪くないけど!?強いて言うなら中村くんにイラついてるだけよ」



そう言いながら、俺は松岡にめっちゃくちゃ睨まれている……やっぱり土壇場で二人を追加するのはマズかったか……?



でもあそこで断ったら笹川さんが不憫だったし……。



「別に笹川さんと石崎さんと夏祭りに行くこと自体はいいわよ!ただ、急に言ったから怒ってるだけよ!」



そう言いながら、松岡は不機嫌さを隠そうとしない。確かに急な話だけど……



「えー?そう?確かに俺も急な話だとは思ったけどさぁ。怒るほどか?」



祐介は不思議そうに顔を傾げているが、松岡は何か顔を赤くしている。……何故に?



「べ、別に怒ってないわよ!行くわよ!優香!」



「うんー。そうだねー。四人も早く行こう?」


そう言って羽沢は俺たちに笑いかけた。



△▼△▼



その後、みんなで色んなところに回った。綿飴を買ったり、たこ焼きを買ったり、金魚すくいで勝負したりした。



最初は不機嫌だった松岡も今は笑顔になっているし、笹川さんも石崎さんも羽沢も祐介も楽しそうにしているし、当然俺も楽しい。



ふっと笹川さんに視線を向けると、笹川さんはとある物を見ていた。その目線の先にあるものを見ると――射的屋があった。



笹川さんの視線はとある物に視線が注がれている。それは……クマのぬいぐるみだ。



「クマのぬいぐるみ欲しいの?」



そう聞くと、笹川さんは少し恥ずかしそうにしながらコクリとうなずいた。確かに、射的屋の景品の中で一番可愛いのがあのクマのぬいぐるみだしなぁ……



「……おっちゃん。千円で何回できる?」



俺は千円札を取り出しながら聞いた。すると、店主のおっちゃんはニヤリとした笑みを浮かべると、



「千円札なら十回だよ」



そう言いながらおっちゃんは射的の銃を渡してきた。俺はそれを受け取り、クマのぬいぐるみに狙う。そして引き金をひくと弾は見事にクマのぬいぐるみに当たったのだが……倒れなかった。



「えー?射的って難しいんだねぇ……」



「まあ、一発じゃ無理だろうな。頑張れ少年」



そう言っておっちゃんはニヤニヤとしている。クソッ!こうなったら意地でも倒してやる! それから俺は何度も挑戦したが結局倒すことはできず、最後の一回になってしまった。



そして最後の一回で――。



「……!倒れた!?」  



なんとおっちゃんが驚くほどあっさりとクマのぬいぐるみを倒すことができたのだ。



『おめでとうございます!中村くん』



「やるじゃん!洋介!」



「まぁ、凄いんじゃない?」



「洋介くんやるぅー!」



「中村くん、凄いわね!」



みんなの称賛の声を聞きつつ、俺は笹川さんを見ながら、



「はい」



クマのぬいぐるみを渡すと、笹川さんはびっくりしたように目を丸くしてこう言った。



『貰っていいの……?』



「え?うん。笹川さん欲しかったんでしょ?」



『ありがとう。中村くん』



そう言って笹川さんは微笑んだのと同時に――。



「おいおい、何だよー。洋介ー。イチャイチャすんじゃねえよぉ~」



「イチャついてないから!」



俺と笹川さんを冷やかしてきた祐介に対して反論すると、



「いーえ、これはイチャイチャよ!」



何故か松岡が不機嫌そうな顔をしながらそう言ってきた。

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