第5話 『入院生活5日目』
そして次の日の夕方。
相変わらず、悟とつとむに大富豪でボロボロと負けた。姉ちゃんもいつかリベンジマッチする!とか言ってたけど、今日は部活だし、来ないだろう。
そう思いながら、俺は図書室へと入る。彼女との待ち合わせはここ。昨日と同じ場所だ。
図書室に入ると、いつものようにカウンターには誰もいない。そして彼女の姿もなかった。
………本当今更だけど……あの子来るのかな……?来ない可能性の方が高い気がしてきた……。
そんな不安が頭を過る中、車椅子の音が聞こえてくる。
「あ……」
また彼女と視線がかち合う。視線が合った瞬間に彼女はぺこりとお辞儀をした。
俺もそれに合わせてお辞儀をする。すると彼女はゆっくりと近づいてきて、とあるものを俺に差し出した。そこには――
「……ノート?」
普通のノートだ。授業に使うようなやつであり、何故これを差し出したのか分からなかった。
チラリと彼女を見ると、不安げに瞳を揺らし何か言いたいことがあるように口をパクパクさせていた。
……とりあえず、ノートを広げてみることにする。パラっとめくるとそこには……
『私の名前は笹川みのりです。趣味は読書で好きな食べ物は甘いもの全般……です』
などと書かれていた。自己紹介文のようなものだ。綺麗な文字だったし、読みやすかったし、それに――
「……あれ?笹川さんも翡翠中なんだ?俺もだよ。それに……趣味がスポーツ観戦って一緒じゃん」
意外な趣味だ。趣味の欄には『スポーツ観戦』の他に『読書』や『大富豪』などと書かれている。
「……ん?大富豪!?」
思わず叫んでしまった。ここが図書室だということを忘れて思わず俺は、
「笹川さん、大富豪好きなんだ!俺も大富豪好きだよ!小学生に負けるほど弱いけどさ!」
早口になりながらも、興奮して話す。だってまさかこんなところで同好のに出会えるなんて思ってなかったから。んでも、声が大きくしすぎた。
ここには俺と笹川さん以外誰もいない。だけど、笹川さんがビクッと体を震わせていたので申し訳なく思う。
「ご、ごめん……大声出しちゃって……」
そう言うと、笹川さんはふるふると首を横に振っていた。……気を遣わせてしまったかもしれない。
申し訳なさを感じつつも、俺は笹川さんにこう言った。
「あー……その、笹川さんが良かったらの話なんだけどさ……明日、一緒に大富豪しない?今日はトランプ持ってきてないしさ……あ……もちろん無理ならいいんだよ?」
なるべく、小声になるように意識しながら喋ると、笹川さんは不安げに瞳を揺らしながらも、
『いいですよ』と、スマホのメモ機能を使って返してくれた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます