第4話 『入院生活4日目』

「で?声かけなかったの?せっかく目があったんだしさぁ~。男らしくバシッと行けばよかったのにー」



そんなことを言いながら林檎を剥く俺の姉ちゃんである――中村優子。お見舞いに来てくれたのだ。姉ちゃんは俺が入院していたときは試合などで忙しかったため来れなかったようだ。



…部活に時間を注いでいる姉ちゃんがこうして時間を作ってきてくれたことが嬉しかったりした。それにしてもこの林檎めちゃくちゃうまい……。



「ちょっと聞いてるー?折角この私が来てあげたって言うのにさぁ~」



そう言って頬杖をつく姉ちゃんと――。



「すげぇ。ヨウスケが美人の姉ちゃんと話してるぜ……」



「しかも超仲良さそうだな……」



そう言っているのはこの前俺が大富豪で惨敗した小学生の悟とつとむだ。



「……おー、少年達よ!美人の姉ちゃんとは本当のことを言ってくれて~嬉しいぞー。ほらほら、りんごをお食べ~」



そう言って、姉ちゃんは二人にりんごを差し出した。



「おぉ!ありがとうございます!お姉さん!」



「あざーっす!!」



二人は姉ちゃんに礼を言うと、すぐにパクっとりんごを食べている。………これ俺のりんごだよな?いや……まぁ、いいんだけど……



「てゆうかー。この子達が洋介が大富豪で負けた相手~?確かに洋介より強そうね。それにセンスもいいし、素直だし~」



「うーん、まぁ…こいつら…大富豪に関しては本気で強いからな……」



俺は苦笑いをしながら答える。本当に強いだよなぁ。元々カードゲーム弱い姉ちゃんには勝てんだろうけど。



「へぇーそうなんだー……ふーん、じゃ、私たちともやってみるか!少年たちよ!」



その後、大富豪で惨敗し、昨日と俺みたいな顔をしている姉ちゃんがいたとかいなかったとか。




△▼△▼



あの後、普通に悔しがっていた姉ちゃんはきっと猛特訓をすると思う。……負けず嫌いだしな。そして今は夕方になったところだ。



今日も、大富豪のルールや強くなるためのコツなどを図書室で勉強したりしているが――、



「これ……あまり参考にならないよな……?」



この本、ルールを覚えることぐらいしか役に立たない気がする。とゆうか、今更だが実践した方が早いんじゃないのか?という今更なことに気づいた俺は本棚に本を返して図書室から出た瞬間――、



「おい!何か喋れよ!」



そんな声が聞こえてきた。声がした方向に目を向けてみるとそこには三人の男に囲まれていた一人の少女の姿があった。少女はその男達に絡まれているようだった。



……男達と言っても小学生なのだが。しかし、その光景を見て見ぬ振りはできないと思った俺は――。



「おいおい。お前らー。女の子に何やってんだよ」



相手はまだ小学生だし、大丈夫だろうとは思うのだが一応声をかけておくことにした。すると小学生達はビビったのか知らないが逃げていった。



ったく……逃げるぐらいなら最初からやるなって話なんだが……。まあ、とりあえずは一件落着ってことで良いかな。



「で……大丈夫…ですか?」



少女に声をかけると、少女は顔を本で覆い隠している。……あれ?もしかしてだけど……この子……



「あ、あの……もしかして貴方って……」



『あ、あの助けてくださってありがとうございます……!』



その言葉は少女の方からではなく、スマホから聞こえてきた。恐らく……とゆうか間違いなく、音声アプリを使ってるのだろう。



「いや……俺は何もしてませんよ。ただ通りかかっただけですし……」



実際何もしていないのだ。だからお礼を言われるようなことはしていない。それにしても……やっぱりこの子は……



『何かお礼をさせてくださいっ』



そう言っているけど彼女は俯いたまま。顔を見せたくない理由でもあるのだろうか……?でも……まぁ。



「お礼なんていらないけど……強いて言うのなら――」



強いて言うのなら……と言ったものの、特に思いつかない。う~ん……そうだな……

俺は少し考えて思いついたことを口に出した。



「……じゃ、明日さ……何処でもいいから話そうぜ。それがお礼ってことで」



無欲だと自分でも思った。けれど、それくらいしか浮かんでこなかったし。



『……それでお礼になるものなんでしょうか?』



「なるよ。……俺、夕方ぐらいになると一人になる時間があるんだよね。その時に話し相手になってくれれば十分だよ」



『…わかりました……』



音声アプリから聞こえてきたのは何の感情もない機械声なのに何処か不満げにも聞こえる返事だった。

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