第5話 華麗なスターと英雄の使命

「くっそおおおお!! 次は負けねえええ!!」


 意識を取り戻したカットの叫びが荒野に響く。


「次『も』オレが勝つぜ☆」

「うるせええ!」


 キッドは華麗に決めポーズをしながら挑発するとカットは顔を真っ赤にして言い返す。


「くそー完璧な作戦だと思ったのになんで負けたんだ!」

「完璧って……キッド、まさかこいつに自分のスキルのこと教えてないのか?」

「いや、昔からの仲だし知らないはずないけど?」

「え?」


 もしかしたら親しい中にも隠していたことを俺達に教えてくれたのかと思い聞くとキッドはきょとんとした顔をしながら答え、俺とラビも目を点にし、カットを見ると首を傾げた後、頭に『!』が視えるぐらいの反応をする。


「忘れてたっ!!」

「作戦穴だらけじゃねえか!!」


 あまりの頭の悪すぎる答えに反射的にツッコんでしまい、ラビも若干引いた様な苦笑いをする。


「だが! 今度はこうはいかねえぞ!」

「はは☆ いつでも受けて立つ……!」


 キーーーーー


「!?」


 突然、ナニか『光の音』の様な頭に不快な高音が響く。 いや、俺だけじゃなくて、ラビとキッドにも聴こえている様で二人も驚いた顔をして反応していた。


「おい? お前らどうした? そんなハトがマシンガン喰らったみたいな顔して」


 しかし、カットには『聴こえてない』みたいだった。


「ワタル! これって!」

「……ああ」


 俺はラビの言葉を受けると、『青色の宝石』を胸から浮かびあがせる。 それに呼応するようにラビの『藍色の宝石』、キッドの『黄色の宝石』も浮かびあがる。


「! お前ら、それ!」


 カットは俺とラビの『証』をみて眼を見開く。


「この『反応』……間違いない」

「…………」


 俺達の『証』がドクンッドクンッと心臓のように発光を繰り返し、激しく輝きを放っていた。 


「え!? どこ!? でも、近いよ!」


 ラビはあたふたと周りを見回す。 すると、少し離れた平原の方から悲鳴が聞こえてきた。 その場に眼を向けると禍々しい赤黒いエネルギーに包まれた植物から逃げる人々の姿があった。 


「あれって!?」

「『カースナチュル』!」



 【カースナチュル】、禍々しいエネルギーの塊が植物に宿って、生き物の様に活動して人や動物を襲う自然厄災のことだ。


 太古の英雄達が封印した大厄災の封印が長年の眠りから覚めかかっているせいで、ここ数年激しさを増して、人類に牙を向いている。 




「ワタル! わたしが先に行って助けにいくよ!」


 ラビは俺にいうと、すぐに走り出そうとする。 俺はそんなラビを止めるのではなく、肩に手を置き言葉を続ける。


「俺達もすぐに行く無理するなよ」

「わかってる」


 ラビの返事を聞き、俺はラビの肩に触れ、手に意識を集中させる。 


「『超動力エナジー』!」


 俺の手から青白い光を放ち、その光がラビのカラダを包む。


「よし! 行け! ラビ!」

超脚力ブースト!」


 ラビがスキルを唱えるのと同時に突風の様な激しい風が吹き、ラビが目にも止まらぬ速さで駆け抜けていった。


「は、はえーーー! なんだあれ!?」

「ワタル、今のって」

「ああ、俺のスキル『超動力エナジー』だ。 だけど、話は後だ」


 キッドの言葉に俺は答えながら急いでラビを追いかける。


「俺のスキルは分かりやすくいえば、『スキルの底上げ』だ」

「底上げ?」

「ああ、ラビの『超脚力ブースト』の脚力の超強化をさらに強化したんだ。 制限時間というか、俺の与えた『エネルギー』が切れるまでいつもより強いチカラを発揮できるんだ。 勿論、俺自身にも『身体能力強化』として付与することもできるが、少し運動能力が上がるだけだから、そんな大したチカラはだせない」


 走りながらざっくりとだが、俺のスキルを説明した。 


「モブ能力だな」

 

 すると、カットは鼻で笑いながらいう。 キッドは「おい」と軽くカットを注意するが、別に俺は気にしてはいない。


「わるい。 カットが失礼なことを」

「いや、いいよ。 気にしてないし、昔から俺は『サポート気質』だからな」


 強がりにも聞こえるかもしれないが、本当だ。 正直、俺は昔から誰かをサポートするのが好きだった。 別に感謝を求めてる訳ではないが、俺のチカラで少しでも助けになればと思ってのことだ。 だから、俺が英雄の1人なんて云われた時は冗談かと思った。 体力や攻撃に優れているスキルを持つラビならともかく、ただのバフ要因なんて基本お荷物だからだ。 だから、キッドの人柄やスキルをみた俺は尚更そう思った。


 そうこう考えてる内にカースナチュルの目前にやってきた。 


 そこでは先に行っていたラビが素早いスピードでツルの攻撃をかわしたり蹴りで弾きながら避難誘導をしていた。


「ラビ!」

「ワタル、避難誘導をお願い!」

「おう!」


 俺はすぐに人々の避難誘導に移る。


「カット、オレ達も避難誘導だ」

「いや、そんなの他のやつに任せて、オレ様があの植物を燃やし尽くしてやるぜ!」

「おい! カット!」


 キッドの言葉をカットは無視してカースナチュルに突っ込んでいく。 キッドは止めようとしたが、植物のツルが近くにいたひとりの少女に襲い掛かる。 


「!?」

「や、やべ!」


俺は助けようと駆け出すが、間に合わない!


「『マグナム』!」


 パアァァァン!!!


 キッドは素早く銃を撃ち、銃声と共に破裂音が響く。 弾が植物を破壊した。


「大丈夫か」

「あ、ありがとう」


 少女に駆け寄ると少女は俺達にお礼を告げる。 そして、すぐに少女を安全な場所に誘導する。


「サンキュー、助かった。 俺じゃ間に合わなかった」


 俺はキッドに礼を告げるとキッドは首を横に振る。


「いや、先に動いたのは、ワタルだよ。 オレはカットに気を取られてて、ワタルが気づかなければ、もしかしたら、オレも間に合わなかったかもしれない。 だから、『二人であの子を助けた』のさ」

「!?」


 キッドの言葉に俺は驚いた。 しかし、キッドは「話は後だ」とすぐにカースナチュルの下に戻る。 俺もその後に続く。


「非難は完了したみたいだな」


 街の護衛兵の助けもあり、避難誘導を無事に終えたが、少し離れた場所でカースナチュルの気を反らす様にラビとカットが足止めをしてくれている。


「よし、オレ達も行くぞ」

「ああ」


 ーーーーーーーッ!!!!!


 横を走り抜けるキッドに続こうとすると、ラビとカットの前のカースナチュルが唸り声の様な頭に響く不快な高音を放つと同時にシュルシュルと無数の赤い草木が絡まりナニかのカタチに姿を変えていく。


「……!!」

「なっ! なに!?」


 ラビも突然の変化に驚きの表情を浮かべる。 そんな俺達を気にも止めぬかのように……いや、植物だから当然か、カースナチュルは巨大な四足歩行のモンスターに姿を変えた。


「なんだよこれ」


 驚愕するカットだったが、モンスターに姿を変えたカースナチュルはカットに向かって突撃する。


「カットッ!」

「くそっ!」


 キッドの呼びかけで我に返ったカットは剣を振り斬撃を飛ばすが、いとも簡単に弾かれた。 そのままカット目掛けて襲う。


「ッ!!」

「カットッ!!」

「あぶない!!」


 ギリギリのところでラビがカットを突き飛ばし、その勢いのまま二人は地面を転がる。


「大丈夫か! ラビ!!」

「うん、わたしは大丈……」


 俺に返事を返そうとしたラビだが、ハッとした表情を浮かべ慌てて俺に向かって叫ぶ。


「大丈夫じゃない!! 超動力エナジーが『切れちゃった』!!!」

「!?」


 マジかよ!? このタイミングかよ!!


「ラビ! カット! とりあえず、全力で逃げろ!!」

「いわれなくてもそうするよーーーーー!!!」


 ラビは叫びながらカットの手を取り、引きずる様に全力で走る。 それを追う様にカースナチュルが追いかける。


「本当にただの植物か!?」

「いや、違う! 恐らく、ここにくるまでに沢山の生物達を飲み込んだんだ!」

 

 植物とは思えない動きに俺がいうと、キッドが驚きながらも冷静に分析する。


 ラビは避難した人達や他の護衛兵のいる場所に行かない様に逃げ回っていたが、ラビの超脚力ブーストでもカットを持ったままではかなり分が悪いみたいだ。 そんなことを考えていると、俺達の前にも何匹もの四足歩行のカースナチュルが地面から姿を現す。 ラビ達を追いかけてるものよりは小さいが数が多いい。

 

「嘘だろ」


 俺は苦笑いを浮かべるが、そんな俺の心情を理解できない植物モンスター達は俺達に襲い掛かる。


「……くっ!」


 自分にスキルを掛け、なんとか数匹を捌いていく、他の護衛兵の人達もなんとか抑えているが、押されている。 


「困ったね、さすがに数が多いね、ファンと同じで多すぎると相手しきれないよ」

「言ってる場合か!」


 なんてツッコミながらも戦況は悪くなるばかりだ。 そんな劣勢の中、ナニかを閃いた様な顔をしたキッドは俺に向かいいう。


「ワタル、オレにキミのスキルを使ってくれ! ラビちゃんにやったように!」

「え!?」


 突然の言葉に俺は驚き、反射的にキッドをみる。


「できるだろ」

「ああ、できるけど、お前に掛けるのは、はじめてだからどうなるかわからない、最悪カラダに負担がかかるかもしれないぞ!」


 そう、俺のスキルは『スキルの底上げ』ができるが、エネルギーを送りすぎると『オーバーヒート』してしまったり、人によっては『カラダに合わない』可能性があるんだ。 だから、もし、この状況でそうなってしまったら、更なる大惨事を生んでしまう。


「大丈夫だ」

「なにを根拠に」


 キッドは俺の心配とは裏腹に爽やかな笑顔を向けいう。


「だって、オレとお前は『同じ英雄』だぜ」

「!?」


 会ったばかりの俺にそんな信頼しきった顔を向けるなんて……。


「ああ、もう、分かったよ! どうなっても知らないからな!」

「オーケイ! そうこなくちゃ」


 半ばやけくそ気味にいう俺にキッドはウインクをし答え、俺はキッドの肩に触れ、スキルを使う。 すると、キッドのカラダから黄色いオーラが溢れ出す。


「いいね☆ 一発、いや、百発決めちゃおうか☆」


 キッドはキメポーズを決めると右手に銃を出現させ、くるくると回して構え、引き金を引くと、1つの銃口から無数の弾丸が飛び出し周囲のカースナチュルのモンスターを撃ち抜いていく。


「ふうー☆ こりゃド派手だね☆」


 キッドは銃をくるくる回し口笛を吹く、そんな凄まじい威力の弾丸をみた俺は唖然としてしまう。


「はは☆ ワタル、驚くのはまだ早いみたいだよ。 『次がくる』」

「え?」


 俺が疑問に思う前に地面から再び無数のモンスターが湧いてきた。


「まじかよ」


 終わりのない増殖に俺は絶望の声を出すが、キッドが俺の肩を軽く叩く。


「大丈夫だ、恐らく、何処かに『コア』がある」

「『コア』?」


 俺の問にキッドは「ああ」と返すと疑問に答えてくれる。


「あくまでこいつらは『植物』つまり、『栄養』がないと成長できない、だから、多分、何処かに『栄養源』となる『コア』があるはずだ」


 考察ではあるが、キッドのいうことは恐らく真実なんだと確信する。 そして、キッドはその場所がどこなのか『見当がついている』みたいだ。 俺もキッドと同じ場所に目を向ける。


「『あいつ』か」


 その『コア』のありか……それは、『ラビとカットを追いかけているモンスター』だ。 奴の頭の部分をよくみると、植物で隠されていたが、『真っ黒な宝石』が視えていた。


「あんな場所どうやって……そうだ! キッドお前の弾丸で頼む!」

「いや、悪いけど、それは難しいね」

「え?」


 キッドのスキルで撃ち抜いてもらおうと思ったが、キッドからの言葉に俺は驚くのと同時にキッドを見ると、膝をついていた。


「大丈夫か!」

「ああ、大丈夫だけど、ちょっと動くのは厳しいかもね……」


 無理矢理笑顔を作って答えるが、かなり消耗しているのが分かる。


「それと、撃てて後『一発』だね。 その一発は襲われてるみんなの為に使いたい」


 キッドの言葉に周りを見ると、モンスター達にみんなが襲われていてなんとか耐えている状況だった。 俺達がラビの方に行ったらただでは済みそうにない……。 今すぐにでも助けるべき状況だ。 だけど、すぐに再生してくるから助けたとしても状況は変わらない。


「くそっ……」


 俺が必死に思考を巡らせていると、キッドが俺に提案をする。


「すまないが、オレは今、みんなを助けるので精一杯だ。 だから、ワタル、お前とラビちゃんでコアに行って鎮めてくれ」

「え?」

「オレが周囲のモンスターを一気に撃つ抜いてもすぐに再生してくる。 だから、その一瞬でなんとかしてくれないかい?」

「なんとかって……」


 そんなこと俺だってしたくてたまらないさ、だけど、俺ひとりじゃどうしても無理だ。

 

「忘れたのかい? オレこそフォックスターだけど、『キミも英雄という名のスター』ってことを」

「!?」


 キッドは俺に問いかける様にいう。 その言葉の意味は直ぐに理解できた。 そう、『俺達』でなんとかするんだ。


「ラビッ!!」

「!!」


 俺はカースナチュルに追いかけられているラビに向かって叫ぶと、ラビはこちらを向く、そんなラビに俺は『自分の両肩を叩く仕草』をする。


「!!!」


 そのジェスチャーの意味を理解したラビは大きく頷く。


 ラビの反応を確認した俺はキッドに目で合図を送ると、キッドは頷き、銃を構え、引き金を引く。


 バアァァァァァァァンッ!!! 


 火花の散る音と共に銃口から無数の弾丸が飛び出しモンスター達を貫いていく。 それと同時に俺は自身にスキルを掛け、全力でラビに向かって走る。


 ラビもカットを引きずりながら俺に向かって走ってくる。


「カット! 邪魔だから蹴っ飛ばすけど、ごめんね!」

「え? あああああああ!!!」


 疑問に思う前にカットは横に思いっきり蹴り飛ばされるが、カースナチュルは飛んでったカットは気にも止めず、ラビに向かって追いかけてくる。


 ラビへの距離が後、数歩に迫った。 そして、俺は地面を蹴り、勢いよく『ラビに向かって飛び込む』。 


「行くぞッ! ラビッ!」

「おーけい!」


 俺の言葉にラビは気合を入れて返し、ラビの手に触れる。


「『超動力エナジー超脚力ブースト』」


 スキルを唱えると俺のカラダからラビのカラダにエネルギーが注ぎ込まれ、ラビの足が強いエネルギーを放つ。


「よしっ! 跳ばせっ!」

「ごおー!」


 ビュウウウゥゥゥ!!!


 掛け声と共にラビと肩車された俺は風を切るような音と共に走り出す。 凄まじいスピードで走っているので、俺はまるでラビに手を引かれて空中を飛んでいる様な感じだ。 


「いいねー! やっぱりワタルのチカラで走るの気持ちいいよー!」


 ラビは子供の様にとても楽しそうに笑いながら走る。


「遊んでる暇はないぞ」

「わかってる」


 俺はラビに釘を指すが、当然今の状況を理解しているラビは直ぐに切り替える。 大きくUターンをして突き放したカースナチュルの下へ風を切る様に走り出す。 そして、その勢いを利用してラビは飛び上がり、空中で足を槍の様に突き出し、コアに向け突っ込む。


「いくよっ! 『ラビットタンク』!!」

「鎮まれ!!」


 キュウイィィィィィィィィィンッ!!!


 ラビの蹴りがコアにぶつかった瞬間、俺とラビの『宝石』に呼応する様にカースナチュルのコアが激しい輝きを放つと同時に砕け散った。


 バリイィィィィィィィィィィィンッ!!!


 ガラスが割れる様な頭に響く音と共にカースナチュルは崩れていく。


「………………!」


 神秘的にも視える光景に俺とラビは暫く見とれていた。 


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