第13話 ジャンク屋・ヴァルカン
ジャックおじさんが営んでいるジャンク屋・ヴァルカンは、闇市の中心から少し離れた場所にある。そこには重機類をしまっておく為の倉庫がズラリと立ち並んでおり、それらの所有者は全てジャックおじさんだというのだから、下層の中でも稼いでいる印象を幼い頃から受けていた。
ロイドは徐行運転をしながら右折し、目的地である工場の敷地内へ入っていった。
「いつ見ても凄い建物の数と敷地の広さだよね。昔、仕事がなくなって途方に暮れてた人も、ここでずっと働かせてもらってるから感謝してるんだって、聞いたことがあるよ」
「ジャックおじさんは困ってる人がいると、放っておけない性分だからな。従業員の皆と築き上げた会社だって、自分に誇りを持ってたし。今の時間帯だと第一工場にいるかもしれない。先ずはそっちに行ってみようぜ」
「わかった!」
第二工場の前を通り過ぎると、工場の人達が〝鉄屑の火葬場〟で集めた鉄屑を溶鉱炉で溶かし、機械の部品に加工する作業を行なっている最中だった。入口近くでは、マスクと防護服を着用した作業員達が、赤くなった鉄を何度もハンマーで打ち付けていた。この作業をしている時は話しかけないようにと、ジャックおじさんに言われていたので、「作業の邪魔にならないように隅の方に車を停めよう」と、俺はロイドに指示を出す。
道沿いに直進して暫くした後、ロイドがシャッターの開いていない倉庫の前でブレーキをかけた。車体が前後に大きく揺れ、その揺れでソフィアは目を覚まし、目元を擦りながら顔をゆっくりと上げる。
「ん……もう着いたの?」
「あぁ。けど、工場の中は危ないから俺達が呼びに来るまで車の中で待っててくれるか?」
ソフィアはまだ眠かったのか小さく頷いて、再び眠りに入ってしまった。
俺はロイドと一緒に車の外へ出て、製鋼作業を中心に行っている第一工場へ向かった。空気の入れ替えの為に開けられたシャッターから建物の中を覗き込んでみると、天井に吊り下げられた大型のバスケットを電気炉に移動させている最中だった。
入口付近に立っているにも関わらず、肌を焼くような熱風に顔を顰めつつも、ジャックおじさんの姿を探す。しかし、いつも二階の管理室にいるはずなのに姿がいなかったので、不思議に思った俺とロイドは顔を見合わせた。
「あれ? ジャックおじさんが管理室にいないなんて珍しいな」
「そうだね。もしかしたら、第二工場にいるかもよ?」
「よし、行ってみるか。ソフィアも疲れてるみたいだし、早めに用事を済ませて孤児院に帰ろう」
すぐ側に建っている第二工場へ向かう途中、少し離れた所でワッツおじさんが同僚の人と一緒に鉄骨を運んでいる姿を見かけたので、すかさず俺は名前を呼びながら両手を大きく振った。
「おーい、ワッツおじさーん!」
第二工場内から絶えず聞こえてくるディスクグラインダーの音に負けないよう、俺は腹の底から大きな声を出すと、ワッツおじさんはすぐにこちらに気付いてくれた。
「よぉ、イグニス! 飯の時間にはまだ早いんじゃねぇのか!?」
「飯は後で持って行く予定だよ! もしかして、ジャックおじさんはここにいないの!? 質の良さそうな鉄屑を見つけたから買い取ってもらいたいんだけど!」
ワッツおじさんは同僚の人と一緒に運んでいた鉄骨を資材置き場に下ろし、大きな太鼓腹をたゆんたゆんと揺らしながら、こちらに近付いてきた。
「社長ならケンタロウさんの所に行ってるよ! なんでも、珍しい物が手に入ったんだと!」
「珍しい物? それって、〝鉄屑の火葬場〟で見つけた物だったりする!?」
俺は期待で胸が高鳴った。このタイミングで珍しい物を見つけたという報告程、嬉しいことはない。オーブが見つかったのなら、なんとしてでも買い取らねば! と俺は鼻息か荒くなった。
「そうみたいだぜ! 俺は詳しくは知らねぇが、興味あるなら行ってみな!」
「そうするよ! あ、そうだ。今日の晩飯のリクエストってある? 特別なかったら、ワッツおじさんの好きな丼にしようかと思ってるんだけど、どうかな?」
俺がそう言うと、ワッツおじさんの目尻が嬉しそうに垂れ下がった。きっと食べたい物を頭に思い浮かべたのだろう。唾を飲み込んだのか、喉仏が大きく上下しているのが見える。
ワッツおじさんはフサフサに生えた口髭を撫でながら、食べたい料理の特徴を話し始めた。
「そうだなぁ。お前の料理はなんでも美味いが、この前作ってくれた鶏肉と白葱の炒め物が気に入っててな。甘くてトロッとした黒いタレがかかっててよぉ……。材料が揃えられるってんなら、それを作ってくれよ!」
料理の特徴を聞いてピンときた俺は、「焼き鳥丼だね! わかった、材料が揃ったら作るよ!」と答えると、「そうそう、それだ! 焼き鳥丼だ、焼き鳥丼!」とワッツおじさんは両手を握り、更に目尻が嬉しそうに垂れ下がった。
「じゃあ、俺達は今からジャックおじさんとケンタウロスおじさんの所に行ってくるよ! 晩飯もできたら、ロイドに持って来させるから!」
「おう、期待して待ってるぜ!」
俺達はワッツおじさんに手を振り、その場を後にした。停めてある車に向かっている途中、背後から「イグニス達が乗ってきた車に、女の子が乗ってねぇか?」という話し声が聞こえてきたので、俺はなんだか恥ずかしくなってしまい、ロイドを置いて先に車へ戻ってしまった。
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