実録史劇➁ 三好長慶さん、家来にしてチョーよ。

 秀吉はへらへら笑いながら、上目づかいで言った。

「あのー、信長様、わしに秘策があるんよ。テンカふぶ~は、これで決まり!」

「えっ、ホント?そんな妙案があるなら、はよう言うてチョーよ。教えてチョーよ」

 ここで、猿はモジモジした。

「言うてええかのー。言うても怒らんかのー」


 蘭丸ちゃんがじれて、「くそっ!」と舌打ちし、またもや脇差を抜こうとした。

 それを目で制して、信長ちゃんが秀吉に向かって気味わるーい笑顔を浮かべる。

「怒らん、怒らん。怒らんから言うてみてチョーよ。どんなサル知恵か、聞きたいのう、蘭丸。聞きたいのう、お蘭ちゃーん」

 蘭丸ちゃんは「ふん」とソッポを向き、そのついでに背後の壁を回し蹴りで蹴やぶった。

 話次第では、キックを飛ばして、猿の頭蓋を粉々にする気、満々である。


 秀吉は蘭丸ちゃんの殺気におびえつつ、

「んダバ(なぜか東北弁)、言上つかまつりまする。その秘策とは……」

「ん?その秘策とは?」

 信長ちゃんが前のめりになって、皺だらけの猿に顔を近づけた。

 すると、ここで猿の秀吉は俄然、もったいをつけた。

「ウォッホン。ときに信長さまは、ゴキナイ、五畿内って、言葉をご存じでござるか」

「それって、ゴキブリの新種?」


 これを聞き、蘭丸ちゃんが「バカ殿めが!」と信長ちゃんの股間を思い切り蹴り上げた。

「ううっ」

 と、一瞬うずくまった信長ちゃんであったが、ここはそんなバヤイではない。「イタイの、イタイの飛んでけ~」とメゲずに秀吉に迫る。

「はよう、秘策とやら、教えててチョーよ。それを聞かないうちは、第六天魔王になれんチューの。テンカふぶ~は無理、ムリ、夢のまた夢~」


 そうこうするうちに、信長ちゃんの股間がみるみる腫れ、袴の上からもモッコリが分かるくらい腫れあがってきた。

 股間の痛みにも負けず、秀吉の秘策を耳にしたいとは、天下布武に対するおそるべき執念であった。

 秀吉が講釈を垂れる。

「ウォッホン。え~、五畿内とは、京の都を含む山城の国、奈良大和の国、それに大坂・兵庫などの摂津国、さらに大坂南部の和泉の国、その東にある河内の国。この五つの国を言うのでござる」

「ほう。アホ顔して意外とモノ知り。で、それがどうした?それでどうした?」

 先をうながす信長ちゃんに、秀吉がマジ顔で言う。

「ここから先は、有料オプションでござる」


 ついに蘭丸ちゃんが堪忍袋の緒をぶちき切って、絶叫した。

「こんにゃろ――!!!!!!ゆ、ゆっ、許せぬーっ!!!!!!」

 紅花の朱を塗った真っ赤な唇がワナワナとふるえている。

「ひえーっ、ヒエーッ、言うから、タダでいいから許してチョンマゲ」

 秀吉は恐怖のあまり、ションベンを漏らしながら、口をモゴモゴと動かした。

 信長ちゃんが、

「ん?聞こえぬ。なんと言うた?もっと大きな声で話してチョーよ」

 と言うと、猿が蘭丸ちゃんに聞こえぬよう、ヒソヒソ声で信長ちゃんに耳打ちした。


「いま、天下は三好長慶さんのもの。この五畿内を六万の大軍を率いて治め、足利将軍の義輝よしてる様ですら手も足も出ぬ状態。首さえもすっこめて亀のごとく暮らしておりまする」

「ふむ、フム。それで?」

「で、この長慶さんにスリスリ、モミ手ですり寄るのでござる」

 信長ちゃんがすっとんきょーな声をあげた。

「わ、わしが、このわしがそんなことすんのー!?」



 ――もう少しだけつづく

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