第36話 ダインとリーナのオーガ討伐
オーガが絶叫しながら角材を振りかぶる。
そんなオーガに向けて、ダインの
「……」
だが、オーガはそんなことは全く気にせずに角材を振り下ろし……
ダインの
「なんで野生のゴブリンごと潰しちゃうわけ? 仲間なんじゃないの!?」
「別の種族だし……、仲間ってわけじゃないんだろうね」
「じゃあ、こいつはゴブリンの助太刀に来たんじゃなくて……」
「うん。たぶん僕らを喰らいに来たんだと思う」
「私たちというより……私かな? 騎士の物語とかだと、よく村娘がオーガに攫われてるもんね」
そしてそのほとんどが主人公の騎士によって救出されるのだが……
それは物語の中の話だ。
現実は、そんな風に甘くはなかった。
オーガに攫われた人間は、大抵は玩具として弄ばれた挙句に食い散らかされる。
そんな悲惨な末路を辿ることになる。
「そうだね。それがわかってるなら、リーナは下がってて……」
「あら、素敵な騎士様じゃない」
「冗談言ってる場合じゃないって……」
リーナと喋りながらも、ダインは次々と
そして、オーガの角材での攻撃を掻い潜りながらなんとか組み付き、その全身に牙を突き立てた。
「くっ……」
「どうしたの、ダイン?」
「皮膚が硬すぎる。ぶよぶよの弾力があって、ゴブリンの牙が全然通らない……」
「……もしかして、マズい?」
「結構ね。僕の召喚体は、結局ゴブリンだから……。相手に攻撃が通らなかったら流石に勝ちようがないよ。まぁでも……」
ダインは高台に配置した
「必要な分のユニークポイントは集め終えてるから……。
「やだ」
「うん、早く帰ろ……えっ?」
「決めた。あのオーガは、私が倒す」
そう言って、リーナが右手に風の魔術を纏わせた。
「ちょ……、無茶だよリーナ!?」
「あのお腹の辺りなら、私の全力なら攻撃が通る気がするのよね……」
「そうだとしても、その前にあの棍棒で殴られて死んじゃうよ!?」
「ダインが押さえといてよ。あのなんとか兄弟の時みたいにさ」
リーナは完全にやる気だった。
魔力を纏った右手に、さらに魔力を集中させて巨大な風の渦を作り上げていく。
「……本気?」
「本気よ。騎士団を目指すなら、オーガくらい倒せないとダメでしょ?」
確かに、いろいろな物語の中でオーガはよく騎士に倒されていた。
村に現れたオーガを丸腰のままに命懸けで追い払ったり、村女を攫ったオーガ達を討伐しに行ったり……
もはやオーガの討伐と騎士の活躍とは切っても切り離せないほどだ。
「私さ、ちょっと安心したのよ。ダインにも、できないことがあったからさ」
「……何それ?」
ダインにできないことなど、この世界には腐るほどにある。
リーナが何をそんなに喜んでいるのか、ダインには全然理解できなかった。
「ダインができないことは、私がやる。うん……そうしたい!」
「ちょっと、意味がよくわからないんだけど……」
「つまり『ずっと一緒にいたい』って意味よ」
ちゃんと隣を歩くためには……
与えられるばかりでなく、与えたい。
それが、リーナの願いだった。
「えっ?」
「なんでもない! ちゃんと押さえててよねっ!?」
リーナが前に飛び出した。
オーガの目がリーナを捉え、オーガの手が角材を大きく振りかぶる。
「もーっ! リーナはいつも無茶苦茶だ!」
ダインは叫びながらも頭の芯を凍て付かせた。
苛立っているのは表面上だけ。
頭の中では、この状況で勝ちに行く方法を全力で思考していた。
ダインの
振りかぶられたオーガの角材が、リーナに向かって振り下ろされる。
……多少壊れてもいい。
それがオーガのやり方だった。
そんなオーガの動きが……
空中の一点で止まった。
角材にまでまとわりついたゴブリンが、オーガの身体と角材とを繋いで必死に引っ張りあっている。
それが、この土壇場で思いついたダインの策だった。
「ナイスダインッ!!」
「長くは持たないよっ!」
だが、オーガを相手にしてゴブリンでは完全に力負けしている。
オーガはぶちぶちとゴブリンの身体を引きちぎりながら力任せに角材を振り下ろしていった。
「わかってるわよっ! う……おりゃぁぁぁーーっ!」
全力の魔力を纏ったリーナの拳が、目の前の巨大な敵へと叩きつけられた。
その魔力の塊が、凄まじい音を立てて、周辺を巻き込みながら膨張していく。
「それ……、はじけろっ!!」
そんなリーナの掛け声と共に、オーガの腹が二倍以上に膨らみ……
次の瞬間、破裂して弾け飛んだ。
まるで紫の花を咲かせたかのように、炸裂したオーガの臓物が周辺へと降り注ぐ。
「うわっ! くっさ!? 最悪―っ!?」
「リーナ! 大丈夫!?」
「これが大丈夫に見えるわけ!? もう、最悪よぉぉー!」
全身にオーガの臓物を浴びたリーナが、水魔術で必死に身体を洗い流していた。
「いや、自分でやったんでしょ……」
言いながらも、ダインはホッとため息をついていた。
先程から警戒を続けているが、周辺にはこれ以上脅威になりそうな魔物は居なそうだった。
ゴブリンの掃討も順調に進んでおり、程なくしてこの戦いは完全なる収束を迎えたのだった。
→→→→→
そんなダイン達の戦いを、リーゼロッテは廃屋の屋根から眺めていた。
「へぇ、なかなかやるね。……そんでもって、ここにいるあんたが全体の『目』の役目だったってわけかい?」
そう言って、同じく廃屋の上に陣取っているダインの
「おおむね当たりです。まぁ、目はここだけじゃないですけどね」
「しかも喋れるのかよ……。それで、あっちの木の上と、それからそこの草むらかな? 安全圏にいる本人の役割も……目?」
「あまり信用できない相手に、そういう話はしたくないです」
「召喚術士ってやつはみんなこうなのか? それとも、あんたが特殊なのか?」
「さぁ、それにも答える気はないです」
「そうか……。それじゃあゴブリン共もほとんど全滅したみたいだし……この次はあたしと勝負しよーぜ」
そう言って、リーゼロッテはいきなり屋根の上の
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