第33話 ダインとリーナのゴブリン退治①
旧南部市街地エリア。
それは、王都南方砦の周辺に広がる広大な住居跡地の名称だ。
二十年前の魔龍大戦の折、王都に押し寄せた避難民達は、自ら森を切り拓き、地下洞窟を掘り、やがてそこを住居とした。
だが、今ここに残っているのはもっぱらその残骸だけだった。
当時は数千人が暮らしていたというが、その住居跡地は、現在は完全に放棄されている。
剥き出しの地面や瓦礫の山、そして廃墟となったかつての住居と視界を防ぐほどに生い茂った草生植物。
そのような障害物のせいで一部の魔獣領域と環境が酷似しており、騎士団の演習にうってつけの場所となっていた。
また、一般の住民はまず寄りつかないようなエリアとなっている。
そこに、数年前にどこからともなくやってきたゴブリンが住み着いた。
そんなゴブリンは、いつまでも堅固な王都の城門を越えることができず、王都の住民達に対してはほとんど被害らしい被害をもらたらしてはいなかった。
それ故に完全に軽視されているのだが……、ゴブリンはいつの間にか増えていた。
そして、とにかくしぶとかった。
数年前までは、毎年のように騎士団が演習ついでの掃討作戦を試みていたのだが、全滅させたと思ってもまたしばらくすると数が復活しているということが何度も続いていた。
そしてある時期から騎士団は掃討を諦め、代わりに冒険者ギルドがDランク向けの依頼として定期的に発注をしはじめたのだった。
そのことによって、現在はゴブリンの数が増えすぎないようにある程度の調整をしているという状況だった。
「本当についてくるんですね」
舗装された道を歩きながら、ダインが後ろに向かってつぶやいた。
「あん? 私がいると邪魔かい?」
答えたのはSランクの冒険者であるリーゼロッテだ。
「ミリシアさんへのポーズだけなら、本当についてくる必要もないと思ったので」
「安心しなよ。別に手を出すつもりはないからね。……目の前でお前らがゴブリンに殺されかけてても、横で笑って見ててやるよ」
「この人、なんだかんだ言って元騎士なのよ。こういうところで手を抜いたり嘘ついたりできないのよたぶん」
「……」
リーゼロッテが無言でリーナを睨みつけ、リーナは慌ててダインの後ろに逃げ込んだ。
「そういうおまえらも『いいところのお坊ちゃんお嬢ちゃん感』が滲み出てるけどな」
「ああ、僕達ってやっぱりそう見えちゃってるんですか?」
思い返せば初対面の時から、リーゼロッテはダイン達を『どう見ても貴族か商人のお坊ちゃんとお嬢ちゃん』などと評していた。
「見た目の装備品とかは、なるべく普通の冒険者が使っていそうなものを揃えたんですが……。目つきとか顔つきとか、かな……」
「あん? そもそも自分の事を『僕』なんて呼ぶ奴ぁ、冒険者ギルドにはこねぇよ」
「……」
「あははは! それじゃあ完全にダインのせいじゃん!!」
「……」
リーゼロッテに睨まれて、大笑いしていたリーナがまたダインの後ろに隠れた。
「『僕』はダメなのか……。それじゃあええと、俺……」
「あははははは! ダインじゃ違和感ありまくりっ!」
「まぁ、いいんじゃないか。そのうち慣れるさ」
「俺……」
自分でも違和感があったが、言葉遣いを変える事で無用なトラブルに巻き込まれずに済むのなら、それはそれでやるべきだ。
そう、ダインは思った。
「ダイン。そのままなんか喋ってみて!」
「俺……、ゴブリン、倒します」
「あはははは! うそうそ! ひーっ! なんでカタコトなのぉっ!」
「そこは『倒します』じゃなくて『倒す』だな。『〜です』だの、『〜ます』だの言ってる奴も、ギルドにゃ受付嬢くらいしかいねぇぞ」
「俺……、ゴブリン倒す」
「あひー! もう無理よ! やーめーてー! あははははははは……」
「……リーナ、酷いな」
「あはははははは……。無理無理! 面白すぎるぅ!」
「……俺、そろそろ怒るよ?」
「あはははははは……。ひーっ!」
「……」
そうこうしているうちに、徐々に今回の討伐クエストの指定エリアに近づいていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます