番外編2 正体不明の男
第1話 出発の日
この番外編は、最初の番外編『カールのその後』の最後、カールが国境警備隊を除隊になる所から始まります。ぶっちゃけ、彼は元々、本編の和臣と連動して死ぬ運命のはずでした。本当なら最初の番外編の最後で彼が行方不明になって終わり、という結末でした。でも色々コメントをいただいて、自分でも書いているうちにカールがかわいそう過ぎと思うようになり、この番外編で彼の運気をちょっと上げてあげたいなと思ってます。
カクヨムコン参加作品の執筆と並行して書きますので、不定期更新です。
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国境警備隊の寮でカールと同室のクルトが、満身創痍の彼を心配して強制除隊の手続きを取った。
今日はその除隊の日だ。クルトは特別に休みをとってカールを送ることにしている。
カールとクルトは、国境警備隊の基地の入口で一番近くの街へ向かう辻馬車を待っていた。
「カール、まだ怒ってるか?」
「…もう怒ってはいない」
「本当に?」
「ああ」
「分かってくれればいいよ。俺はお前に死んでほしくないんだ。あ、来た!」
街から基地へ到着した辻馬車から乗客が降りると、2人は御者に運賃を払って街へ戻る辻馬車に乗った。基地へ通いの職員達は勤務時間中なので、今の時間に街へ向かうのは彼らだけだ。馬車の中でクルトは一生懸命カールに話しかけたが、カールは短く『ああ』とか『そうだな』としか答えず、話は盛り上がらない。
「何だよ、カール!結局まだ怒ってるんじゃないか?!」
「いや、そんなことない。俺は口下手なんだ」
「だから好きな女にもちゃんと気持ちを伝えらなかったのか?――うわっ!そ、そんな目をするなよ!悪かった、もうそんなこと言わないよ!」
クルトはカールの殺気を帯びた目にすっかりビビッてしまった。
辻馬車が街に着くと、クルトはカールを連れて馬や馬車を貸す店へ向かった。クルトは店の親父さんに馬車を貸してくれと交渉し始めた。
カールはクルトを肘でつついた。
「何だよ、カール」
「馬を2頭貸してもらえばいいじゃないか」
「お前の脚に負担がかかるだろう?馬車も馬2頭もたいして費用変わらないからいいよ」
「じゃあ、費用は俺に払わせてくれ」
「元々俺は帰省するつもりだったんだ。費用は心配しないでくれ」
「それじゃ、折半にしよう。それならいいだろう?」
カールはクルトの粘りに負けて馬一頭立ての馬車を借り、費用を折半した。御者も付けてもらうことは可能だが、値段が跳ね上がる。
2人は御者台に並んで座ってクルトの故郷へ向かった。カールが除隊したらどこでも遠くへ行きたいと願ったので、クルトが里帰りに付いてこないかと誘ったのだ。
風を切る御者台でクルトは国境警備隊に希望入隊した理由を語った。
「俺は3年頑張って一代男爵の爵位と報奨金をもらって彼女との結婚を許してもらうつもりなんだ」
「…そうか。頑張れよ」
「何だよ、それだけか?そこはもっと聞くところだろ?」
「何を?彼女が本当に3年待っててくれるのかって聞けばいいのか?」
「お前、性格悪いなぁ!確かに彼女は領主様のお嬢様で縁談がいくつも来てるよ。でも俺のために突っぱねてくれてるんだ。彼女は俺が頑張ってるのを知ってるから、待っててくれるよ。明日、やっと半年振りに会えるんだ」
「そうか」
「彼女を見たら、お前、びっくりするぞ!すごく美人で優しいんだ。そんなお嬢様が俺と相思相愛だなんて、俺は今でも信じられないくらいだよ」
有頂天になって彼女の話をするクルトにカールは気のない相槌を打ち続けた。クルトが彼の『お嬢様』をどんなに愛しく思っているか、話せば話すほどカールの気持ちは塞いでいく。そうなるとクルトの話はカールの耳から耳へただ通り過ぎていったが、愛しい彼女との逢瀬に有頂天で話し続けるクルトはそんなカールの様子に気付かなかった。
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