第8話 再会

「えっ?!どうしましたか?!」


扉のすぐ背後に倒れていた隊員にインガが話しかけても、ちゃんとした反応がないし、顔が赤い。インガはオートミールの入っている鉢を床に置き、彼の額に手を当てた。


――熱い!


隊員の顔が目に入ると、見覚えがあるような気がした。でもそんなことを考えるより、とにかく彼を寝台に寝かせることが先決だ。インガは彼の両脇に自分の腕を挟んで身体を持ち上げて運ぼうとしたが、重くて持ち上がらない。インガは隊員の肩を揺すぶって起こすことにした。


「起きて、起きて下さい!寝台でちゃんと寝ましょう!」

「ん…あ?!き、君は?!」

「食堂のインガです。同室の方に貴方の昼食を頼まれたんです。それより起き上がれますか?寝台に行きましょう。貴方の寝台はどれ?」


インガはフラフラする隊員に肩を貸して部屋の左隅の寝台へ向かった。その隊員は左脚を引きずっており、インガは小麦粉の袋が落ちた時に助けてくれた隊員カールだと気が付いた。


カールがドスッと寝台に倒れた拍子にインガも引っ張られて彼の上に倒れ、豊満な胸が彼の身体に押し付けられてむぎゅっと潰れた。インガは病人相手だということを忘れてドギマギしてしまったが、カールが性的に興奮した様子はない。インガははっと冷静になって自分が意識してしまったことを恥じた。


インガは飛び上がるように起き上がり、カールの身体を起こすのを助けて寝台に横たえさせた。


「…すみません」

「服がびっしょりですよ。着替えと手ぬぐいはどこですか?」

「そこ…でもほっといて…」

「駄目ですよ。濡れたままじゃ身体に悪いですから。ちょっと失礼しますね」


インガはカールの上半身を支えて寝台の上に座らせ、シャツのボタンを外し始めた。カールは熱でぼうっとしていて抵抗しない。厚い胸板が露わになり、インガはどきっとした。上半身だけとしても男性の裸は夫が亡くなってから随分と見ていない。


背中を手ぬぐいで拭いていると、刺し傷の痕が目に入る。かなり深い傷だったようだ。その他にもここかしこに古傷が見えた。


「前も拭きますね」


胸板や腹を拭き始めると前も古傷だらけなのが分かった。インガはなるべく見ないようにささっと拭いて乾いたシャツを着せる。


「ズボンも着替えますか?」

「…い、いや、いい…自分で、着替える…」


インガもカールの下履き姿を見るのは恥ずかしいので、ズボンを着替えさせるのは諦めた。


インガはオートミールを匙にすくってカールの口の前に差し出した。


「ちょっと冷めちゃいましたけど、1人で食べれますか?」

「自分で…食べます…」


カールは鉢と匙を受け取って自分で食べだした。それを見てインガはカールの身体を拭いた手ぬぐいを部屋の水道で洗う。食べ終わったカールが寝台に横になると、その手ぬぐいを彼の額の上に乗せた。


「シャツは洗濯に出しておきますね。それじゃ、私はこれで」

「本当に…ありがとう。お礼は、また今度…」

「いいですよ、そんなの。この間、小麦粉袋を台所まで運んでくれたじゃないですか。それじゃ、お大事に」


思ったよりも時間がかかってしまい、インガの休憩はもうすぐ終わりだ。インガは脱兎のごとく部屋を飛び出して食堂に戻った。


カールはインガの背中を見送りながら、小麦粉袋を運んだ時のことをぼんやりと思い出していた。

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